三日月ノート

日々の出来事を気ままに。

会社で涙目・・・『みぞれ/重松清』

2013年09月15日 10時45分03秒 | 書籍


ごく普通の人々の日常生活を題材にした短編小説集なのですが、どれもが「じーん」とくるものばかりでした。

主人公は少年であったり、アラフォーの夫婦、男、女とさまざまで、人にはわざわざ言わないけれど、心の奥の「チクリ」とささる思いを優しい眼差しで丁寧に描かれています。

『砲丸ママ』では、小学生の一人息子が夏休みの作文に「家族の得意わざ」という課題をもらってくるのですが、この作文を数日かけて完成させていく間に繰り広げられる家族のやりとりが軽妙でとても微笑ましいものでした。

学生の頃、砲丸投げの選手だったお母さんは、ある日新聞で未来を嘱望されていた新人選手の死を知るのですが、それをきっかけにまた砲丸投げをやると言い出します。

もちろん本格的に選手としてではないのですが、一時期、自分が一心に打ち込み、あきらめざるを得なかったものを、今の自分自身の時間の中で再び組み上げていくわけです。

>次から次に出てくる「やらなければいけない」ことに追われているうちに、「やりたいこと」がどこかに紛れてしまった

という言葉が出てくるのですが、「やらなければいけないこと」は死ぬまで途切れなく続いているわけで、その中に「やりたいこと」をする時間を作れるのかどうか・・・。

・・・もっとも『砲丸ママ』の主題はそこではないのでしょうが(笑)、主題とは異なる部分でも自分の琴線に触れるものがあればいいのかなと。

他の短編も、子供時代の未熟さゆえに自分の思いや言動が思うようにならず、歯がゆい思いを感じていたことを思い出させてくれたり、色々なものを諦め受け入れることが人生なのかなと、登場人物に自分を重ね、身につまされる思いで読み進めたりしました。

大人になり、人生も折り返し地点を通過した今、輝かしい「夢」や可能性いっぱいの「未来」がすり減っていくことは確かに寂しさを感じることではあります。

でも逆に積み重ねてきた時間があるからこそできることもあるわけで。
過去を俯瞰してこれからの人生を自分なりに構築していくことが歳を重ねるということなのかもしれません。

「男はつらいよ」もそうですが、笑いの中に涙がジワリ・・・年寄りになるとこういう物語がツボにはまります

The secret source of humor is not joy but sorrow.
by Mark Twain