三日月ノート

日々の出来事を気ままに。

【読了/ネタバレあり】楢山節考

2021年09月16日 23時10分01秒 | 書籍

長野県のとある村を舞台に、70歳を迎える老人を楢山へ捨てに行く因習(伝説)を題材にした小説です。

物語全体からは民族学の著書を思わせるような雰囲気がしますが、実母を捨てに行く息子、辰平の細かな心の動きが主軸となって物語は進みクライマックスを迎える感情描写はやはり小説ならではでしょう。

貧しく食べるのにも困窮している村落では、口減らし、間引き、姥捨てといった、今なら「殺人」となることが、掟、風習、伝統として生きており、疑問を持つことやそれらに従わないことには村八分といった制裁が待っています。

そして楢山へ老人を捨てに行くにも細かな決まり事があります。決められた道順を通り、山頂に老人を置いて下山するときは口をきいてはいけない、振り返ってはいけないといったことが絶対的な掟とされています。

おりん(母)と辰平もまた、この掟を守り楢山を一歩一歩上っていくわけですが、母を山頂に置いて歩き始めたとき、辰平は雪が降ってきたことに気付きます。

楢山へ着いてから雪が降るのは運がいいと言われていることや、おりんが自分が山へ行くときはきっと雪が降るだろうと言っていた言葉を思い出し、ただもう一度言葉を交わしたいと、掟のことなどもうどうでもよくなり、辰平は母のところに駆け戻り「おっかぁ!雪が降ったなぁ!!」と言葉をかけるのでした。

普段、掟や風習などを疑うこともせず受容するしかない生き方をし、それが当たり前だと思い生きてきたのが、ここにきて自分の内側から湧き起こる衝動に抗いきれず行動する様に、人としての自然な心の発露を感じさせられました。

おりんの楢山へ行くまでの身辺整理に観る潔さもまたとても興味深い描写でしたが、正誤・善悪といった倫理や道徳とは一線を画した村落の「掟」に対し葛藤を感じている辰平を見ていると、人を求め言葉を交わし気持ちを通じ合わせるということが実は人間の根源的な欲求ではないのだろうかと思わされる作品でした。

楢山節考/深沢七郎/新潮社
評点:★★★☆☆(3/5点)

 


【読了】株式会社 タイムカプセル社 — 十年前からやってきた使者

2021年04月10日 16時14分46秒 | 書籍

「10年後の自分に対して手紙を書く」そのこと自体は新しい話しではないけれど、転居などでその手紙が届かない人を探しだし、わざわざ届けに行くというストーリーは今までにない気がします。

手紙を届けてもらう登場人物は皆、中学卒業の時に10年後の自分に宛てて手紙を書いた25歳。
それまでの生き方や選択してきたことに対する後悔、将来に対する不安などを抱え、行き詰まり感を抱いている人たちです。

そういった人たちが、過去の自分からもらった手紙によって新しい一歩を踏み出す力をもらったり、未来への小さい光を感じて進み始めるのですが、「未来は変えられるけど、過去は変えられない」という一般的な認識を再考させられる物語がちりばめられています。

過去の体験が自責の念をもたらし、自分の成長を阻んだり前に進む障害になったりすることは少なくないと思います。
でも、「あの体験があったから今の自分がある」と思えたとき、変えられなかったはずの(認めたくない)過去が別の意味を持ち始め、それまでの人生を含め自分自身を肯定することができるようになるのかもしれません。

(手紙を)届ける側が若干説教臭い気もしましたが、全般的に共感できる物語でした。

株式会社 タイムカプセル社 — 十年前からやってきた使者
喜多川泰 著
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン(Kindle版)
評点:★★★☆☆(3/5点)


ところで、1年近くブログの更新をしていなかったようです。
最近は短文投稿SNSで済ませていることもあり、短くまとめた文章は書けるけど、まとまった長さの文章を書くことが億劫になっているフシがあります。
これからはたまにこちらにも投稿してみようと思います。


【読了】裁判官も人である 良心と組織の狭間で

2020年04月22日 17時53分35秒 | 書籍

本書は、現職の裁判官だけでなく、元裁判官や事件関係者などへ約3年にわたり行った取材を元に執筆されたドキュメンタリーです。

私も若い頃、法曹を志していたこともあり、司法界の闇について聞く機会も多くありましたが、これは本当にヤバイなという危機感を持たずにはいられない内容でした。

裁判官にとって、最高裁判所を頂点とするヒエラルキーの中で自分の立ち位置をいかに守るかは非常に重要なことで、忖度しない裁判官は人事面で冷遇されたり、最悪、任官拒否されたりする。こうなると裁判官も人間、事なかれ主義となってしまう。

さらに最高裁判所の人事権と予算は立法府と行政府に握られているため、本来三権分立となるべき司法が、国会と内閣の顔色を伺う動きになってしまう。

本書では、これまであった冤罪事件、死刑制度や裁判員制度についてもさまざまな事例を交えながら、現在の司法制度の問題点を明確にあぶり出しています。

憲法で保障されている人権を守るべき裁判所が、権力の側に立った判決を出す傾向があるのも、これらを読むとうなずけます。

国民が司法人事に直接介入できるのは国政選挙のときの最高裁判所裁判官の国民審査だけで、後は常に裁かれる側。
司法が本来の意味で独立して機能できるような、構造的な改革がない限り、現状を大きく変えることは難しいのでしょう。

とても重たい事実を突きつけられた気がします。

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『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』
岩瀬達哉 著/講談社 Kindle版
評点:★★★★☆(4.5/5点)


Kindle Oasis 来た!!

2020年04月20日 11時30分43秒 | 書籍
注文してから1週間、待ちに待ったKindleが到着しました!!
 
読書は絶対「紙」派の自分としては、iPadとPCの電子書籍リーダーで十分と思っていたのですが、これ以上本を物理的に保管する場所がなくなってきたことから、今後は紙でなければダメな書籍以外は電子書籍にしようと思ったのがきっかけです。
 
夜中に一杯ひっかけながらAmazonのサイトを徘徊。
Kindle PaperWhiteかOasisにしようとは思っていました。選択肢は8G・32G、広告あり・なし。
しかしコロナのせいか、広告なしバージョンはみんな在庫なし。
酔いも手伝い、ままよとKindleのフラッグシップモデル、Oasis 32GB(広告なし)をポチ!!
 
翌朝我に返り、果たしてあの買い物は良かったのだろうかとレビューをチラチラと見たのですが、結構絶賛の声が。
よかった…と内心ホッとし、本日ようやく到着したところでした。
 
早速使用してみたのですが、操作性とその機能に驚きました。
箱から出したときの第一印象は「小さい!」
これは今までiPad miniを使っていたからですね。
 
初期設定を済ませ(実は一度フリーズ→再起動→ソフトウェアのアップデート、となりました)、試しに今読んでいる書籍を表示してみました。

書籍を開いた後で表示した設定画面。
 
本を読む時に、視線の移動が大きいのは好きではないので、余白と行間を変更してみました。
この画面は英文表示用ですが、行間・余白は和文表示でも同じように変更可能。
デフォルトでは余白が少なめになっていたので真ん中のやや広めを選択。
 
そして、片側にあるページめくりボタン(最初の写真の向かって右側部分)ですが、私は本は左手で持つことが多いので画面の上下を反対に。
 
あとページめくりボタンの送り&戻りは、初期設定は上が「送る」下が「戻る」ですが、これを逆にすることもできます。
そして、ちょっとビックリしたのはWord Wiseという機能。
辞書がついているのは知っていましたが、このWord Wiseはかなりの優れものかもしれません。
 
最初から難しい英単語に(英英辞書で)おおまかな意味を表示させてくれる機能なのですが、表示させるレベルも変更できるので自分の語彙力に応じて表示が変えられます。
私は語彙力が足りないので、読書しながら辞書をひくことが多いため、この機能があると読書の流れをなるべく中断せずに読み進めることができます。
 
もちろんこの機能をOffにすることも可能なので、辞書なしでスラスラ読めるかたはOffにすることも可能。
 
それから「単語帳」というのもありました。辞書で調べた単語を保存してフラッシュカードにできるようです。
電源をOff(スリープモードになるのかな?)にすると、勝手にいろんな画像が表示されて、これも素敵です。
画像は何種類もあるようで、何が表示されるか楽しみでもあります。
 
電子書籍で発売される本がもっと増えるといいなぁと思う反面、書店がますます儲からなくなるなぁと思う気持ちもあり、少し複雑な心境ですが、それ以上に読書欲をかき立ててしまうアイテムです。
 

ペットをめぐる現実:しっぽの声

2019年04月03日 18時17分00秒 | 書籍

正義感あふれる獣医師の獅子神と、アニマルシェルターを経営している一風変わった雨原の二人を軸に物語が進むコミックです。

獅子神は「どんな動物にも生きる権利があって人間はそれを絶対に尊重すべき」というポリシーで、利益を犠牲にしてまで犬や猫を救おうとします。

一方、雨原はそんな「綺麗事」では済まない現状を知っています。
この雨原を通じて、行政や保護団体が「殺処分ゼロ」を謳っている影で「引取屋」が動いていたり、保健所に持ち込めない犬や猫を勝手に捨ててしまう人間がいたりすること、その結果、別な形で不幸になる動物がいることが描かれていきます。

金儲けのために気軽にブリーダーとなって動物を増やし、産まれた犬や猫が大きくなって売れなくなったら処分、母犬、母猫は「産む機械」のように扱われた後、最後は劣悪な環境で死ぬのを待つだけ。

野良猫問題、多頭飼育崩壊、引取屋、虐待。
私たちの普段の生活では目にすることのない世界かもしれませんが、動物たちにとっては明日は我が身のお話し。

明るい内容のコミックではありませんし、目を背けたくなるような現実を突きつけられるストーリーですが、こういう現実があること、問題があることを知っておくことは重要なんだろうなと思います。


『しっぽの声』(小学館)
原作:夏緑
作画:ちくやまきよし
協力:杉本彩