面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

風に踊る庭の木々たち

2008年04月24日 | Weblog
 昨夜のブログには、どうやら現在演じている熊沢博士の感情が入っていたようだ。博士はボスこと武田梅雄と桜子の愛憎劇を見ぬ振りしながらも心配している。心血を注いで造った桃子人形にひとめ惚れしたというこそ泥の守に対しても、微笑ましく思っている。

 三億五千万円のキャッシュを詰めたジュラルミンケースを下げてボスの邸宅を後にした博士が、その後どうなったか物語には描かれていない。急転直下、ボスの幸福は砂糖菓子のように儚く崩れ、岩沢が始末する手はずの守は…。

 運命は誰にも微笑まないが、それでも幸せである。裸月物語から、僕は今も書きつづけている。「ジルバ」の主人公吉村咲は、「歌うこと」を手に入れるために生死の境をさ迷い、大切な恋人、友人全てを失くして生きかえった。「ガラス工場」の小燕は、両親を始め、次々とまわりの人を毒殺し、遂には育ての親であるマダムまで毒殺し、一人ぼっちとなる。どうも、生きる事の意味より、死ぬことの意味を探しているようだ。

 例外もある。7月に上演予定の「ミッドナイトフラワートレイン」は、ひとりも死なず物語の幕が下りる。母と娘の情愛、女の子の友情、かりっと焼きあがったおせんべいのような物語を書いてみた。

 さて、今夜もどうやら僕は熊沢博士を演るらしい。ひたすら人形製作に精力を傾ける博士。唯一の理解者ボス(博士は梅さんと呼ぶ)の為に、今宵も狂気の脳細胞をフル回転させましょう。それにしても、今日は風の強い日だ。緑に繁った庭の木々が踊っている。アンダルシアのメロディに聞こえるのは、僕の感傷であろう。J・R・ヒメネスの「プラテーロ」を懐かしく読んでいる。

「桃のプリンセス」考

2008年04月24日 | Weblog
 外国航路の船が入港する港町横浜は、異国情緒豊かで、物語が浮かぶ。「月光の不安」は、ルーマニア国籍の貨物船「トランシルバニア号」から嵐に紛れて棺が陸揚げされる場面から始まる。「ガラス工場にセレナーデ」は、山下町の娼館「夕陽楼」から始まる。そして、「桃のプリンセス」は、海を見下ろす高台にあるギャングの邸宅に、こそ泥が忍びこんだところから始まる。横浜に住みたいと思いながら、遊びに行くばかりで、一度も暮らしたことはない。憧れは今も続いている。

 こそ泥の守役「司亮」くんは横浜の出身らしい。舞台の合間に、いつか横浜で上演したいね、と、語り合ったりしている。桃子人形役の三田裕子嬢は、何が大変かと言うと、人形なので瞬きが出来ない事だ。最長で三分間は瞬きが出来ない。しかも、母親の桜子役に早替わりがあるので着替えも大変だ。初舞台、初主役、その緊張に負けないで良くやっている。こそ泥と人形の純愛物語、派手な銃撃戦に打ち消されて見えにくいが、二人の新人の微笑ましい演技に僕は袖で涙している。