面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

新しい物語が生まれる時

2007年05月16日 | Weblog
 「沈まない船」を短期間で書き上げることが出来たのは、登場人物全員の苗字を一級河川にするアイディアが浮かんでからだった。
 船長は悠々と流れる大井川から大井健太郎、水夫長は岩をも砕く濁流の天竜川から天竜源次郎、主人公信濃栄作は米所の信濃川、日本地図を広げて全国の一級河川を探すだけで心が踊った。アイドルの女の子を隅田うららにしたのは、本名荒川静子にするためだった。川の特徴で人物の性格が想像され、物語が膨らんだ。
 「桃のプリンセス」では、ボスの名が梅次、その情婦が桜子、二人のあいだに生まれた娘が桃子だった。上演は三月に限った。
 佐藤正光、木村茂、中村明、坂口俊也、上田直樹、高木英夫、このあまりにも一般的な名前が並んだ作品は「男たちの日記」13年前に死んだガキ大将の仇を討とうと同窓会を開いた哀しいオカマが主人公の物語だった。特異な筋立てにあえて普通の名前を選んだ。
 勿論、名前など記号に過ぎない物語もある。筋立てが先に完成して後から名前をつけることもあるが、それは又別な、生まれた子供に名前をつけるような楽しみがある。
 今、二人の少年を主人公にした新しい物語を書き始めた。夢うつつの夜明け頃、突然鮮やかに物語のプロローグが見えた。これは厄介な創作の前触れだ。物語のラストシーンが先に見えたときは出来あがるのが早いのだが、幕開けだけではつかみ様がない。困っていると、もう一人の主人公が現れ、僕を結末へ連れて行ってくれた。僕は泣いた。あまりにも哀しすぎる結末だった。子供の様に駄々をこねる僕に少年が冷たく言い放った。
「お前は封印した心の扉を開けたのだ。泣くな。恐れずに書け」
 そうだ、僕は開けてしまったのだ。今更逃げ出すことは出来ない。震える指で原稿用紙に向かった。しかし、書きながら躊躇し、躊躇しながら書くなんて、初めてのことだ。
 夕方から芝居の稽古があるというのに、困った。人間に会いたくない…こんなことがあるのだろうか。

助けられて生きている

2007年05月16日 | Weblog
 5月15日の約束を果たす事が出来た。こんな僕を信頼してくれる人がいる。何の保証もなく助けてくれる人がいる。大きな愛が降り注がれているのを感じる。
 今日ほど助けられて生きていることを実感したことはない。感動の1日だった。
 新しい企画が2本スタートした。その中の一本は金曜日までに新作のプロットを仕上げなければならない。先ほどまで蕎麦屋でミーティングをしていて店を追い出された。深夜2時まで営業しているのだが、気付けばとうに2時を過ぎていた。
 ここからは僕の孤独な作業となる。使いもしない鉛筆を削ったり、庭の草むしりをしたり、オムレツを焼いたり、誰にも見せられない鶴の機織りが始まる。
 面白い出会いから生まれた企画、是非成功させたいと思う。僕の中に封印していたジャンルなのでパンドラの箱を開けるような恐ろしさと興味が相半している。
 A先生から「スタント」パンフレット用の寄稿文を頂いた。素敵です。どうぞお楽しみに。
 稽古も気合い充分、ただ、くれぐれもピークは本番に持ってくるよう、新人には注意した。あと二週間あるので1度早めに壊れたほうがいいかも知れない。
 音楽、照明、衣装が揃えば嫌でも盛り上がってくる。小さな集団だが、助け合って今日も稽古に励んでいる。皆にさちあれと心から祈る。