面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

うつろう季節の片隅に

2007年05月02日 | Weblog
 「さよならだけが人生だ」と嘯いた作家がいたが、ペシミストを気取った若い頃の共感が、今はさほど新鮮に感じない。何故だろうと思考してみたら、あまりにも「さよなら」の数が多過ぎることに思い当たった。58年も生きていれば当然のことだろう。云うまでも無いが、出会いに使うエネルギーは可能性という幻想も含めてプラスに働くとして、別れに要するエネルギーは余程のこと(悪縁が切れるとか)で無い限り確実にマイナスに作用する。で、あるからして、出会った人とはなるべく別れたくないのだが、先方の都合もあるのでそう思うようにはいかない。
 一番辛いのは死に別れだと思っていたが、親や親友、幾人もの大切な人に死なれてみると、以外にそうでもない。もう絶対に会えないことで、諦めがつくのだろう。厄介なのは、トラブルを抱えたまま別れた場合だ。心のすれ違いを修復する事も出来ず、重いしこりが鉛のように胸の奥底に残ったままだ。
 11月に国立劇場で日舞の発表会をやらせていただくのだが、その共演者として8年前に別れた方の名をお師匠さんに告げられた。僕のほうは結構だが、先方は?と訊ねると、先方も是非、とのことであった。かくなる上は研鑚を重ね、立派な舞台を勤めようと心に言い聞かせた。
 生きていれば色んなことがあるものだ。
 了承したあとで気付いたのだが、日舞の演目は、僕扮する狼藉者が若い女性の花見の席に乱入して縛られ、女性達に懲らしめられる、という内容なのだ。師匠の粋な計らいか、それとも積年の趣向返しか、さあ、どうなる事やら。
 他人事の方は是非冷やかしにお越し下さいませ。チケットは何時でもご用意致します。

地図で旅した街

2007年05月02日 | Weblog
 地図で旅した異国の街へ、いつか二人で行きたいと、呟いたひとの残り香も、季節変わりに降る雨に、流されて密かに何処かに消えた。

 五月雨がこうも冷たく氷雨のように感じられるのは、過去に経験がない。稽古場からの帰り道、ふと、8年前に書いた詞を思い出した。確か、櫻井智のアルバム「13番目の旋律」に書いた「黒い帽子」だったと思うが、冒頭の文はその詞とは少し違う。「黒い帽子」は女性が主人公で、別れた男との思い出を清算する為に、二人で行こうといっていた岬に一人旅をする、という内容だった。ブルースハープのソロが胸に切ない、なかなかの仕上がりだった。
 予期せず遭遇する雨は、封印したはずの過去の記憶を無理矢理こじ開けてしまう。迷惑千万だが、負けてしまう心の弱さが情けない。
 稽古は順調、堀川りょうは早くも荒立ちに入った。A先生も見物に見えられ、稽古場に熱気が溢れる。明日も稽古です。連休など遠い国のお話し。どんなに世間に不義理をしようと、芝居の神様にだけは純情を奉げている。
 しかし、「趣味旅行」の僕も、最近は地図でさえ旅をしていない。本当に芝居三昧の日々である。W氏はマカオ、O氏は北京だろうか…。世間は旅の季節、いや、いいのだ。
 僕の究極の旅は、劇団員たちとトラックで廻る世界公演旅行。その実現に向かって、今は修行、修行。野暮な稽古でlive for today!