今年の新種牡馬市場は、競馬メディアもファンの間でも、イクイノックスの話題で持ち切りであります。
確かに、2年連続の年度代表馬や、世界ランキングNO.1、さらには日本馬の歴代レイティングを超える135ポンドを獲得するなど、現役時代の輝かしい実績を考えれば、当然といえば当然の成行きであります。
ただし、2023年11月28日や2023年12月14日の当blogでも申し上げたとおり、「過度な期待」が先行しているきらいがあります。もちろん、ワタクシも、8割方はイクイノックスが種牡馬として成功すると信じておりますが、こればっかりは産駒が走ってみないと何とも言えないのが歴史が物語るところ。北米史上最高の名馬と言われたあのセクレタリアートでさえ、種牡馬としては期待外れに終わったことが事例として挙げられます。
敢えて申し上げれば、以下の3点において、ワタクシは、イクイノックスよりタイトルホルダーの方が魅力的に感じております。
(1)競馬先進国である、欧州あるいは米国のトップGⅠへチャレンジしたか否か?
この点では明らかに、凱旋門賞に挑戦したタイトルホルダーに軍配が上がります。ちなみに、海外遠征と言っても、トップシーズンから外れているドバイのGⅠではダメで、あくまで欧州であれば凱旋門賞か英チャンピオンSなど、米国であればブリーダーズカップ。敵地へ乗り込んで、世界最高峰のライバルたちと競い合って結果を見せることがポイント。
なお、あのアーモンドアイが「史上最強牝馬」と呼ばれることがあっても、「史上最強馬」とは呼ばれない理由も、そこにあると考えます。キタサンブラックやドゥラメンテ、コントレイルも然り。
一方、過去のスーパーホースたちの中で、「史上最強では?」と議論される馬たち、すなわちディープインパクト、オルフェーヴル、シンボリルドルフといった名馬たちには、そうした世界へチャレンジした勲章があります。
しかも、タイトルホルダーは、あの泥んこ馬場の凱旋門賞で、ラストの直線の途中まで先頭を譲りませんでした。抜群のスピードの持続力と精神力を見せてくれました。
(2)種付け前に国内最高額の種付料2000万円と決まり、即Book Full。期待過熱は危険信号!
大種牡馬のサンデーサイレンスの種付料推移は、1100万円⇒800万円⇒・・⇒2500万円 という経過でした。また同じく大種牡馬ディープインパクトの種付料推移は、1200万円⇒1000万円⇒900万円⇒・・⇒2500万円⇒3000万円⇒4000万円 という経過。
サンデーサイレンスは、初年度産駒からGⅠ馬を5頭、2年目産駒からもGⅠ馬を3頭出していますが、それでも当初の種付料からいったん値下がりする事態を招いていて、その後あらためて復活する経過を辿っています。ディープインパクトも初年度産駒からGⅠ馬を4頭、2年目産駒からも三冠牝馬を含むGⅠ馬7頭を出していますが、サンデーサイレンス同様、当初の種付け料からいったん値下がりする事態を招いています。これは、初年度の高額種付料=過度な期待がかけられるから。
イクイノックスについては、大種牡馬サンデーサイレンスとディープインパクトを上回る「初年度から種付料2000万円」と設定されましたが、これだと「初年度産駒から三冠馬誕生」とか「初年度から年度代表馬誕生」とかを達成しないと期待にそぐわない事態となります。「ダービー馬とオークス馬」を同時に出しても、そのくらいでは「期待はずれ」と言われかねません。
種付料2000万円というのは、生産界からすれば、清水の舞台から飛び降りる覚悟で申込む金額。当然ながら、生産した馬には少なくとも1億円という値段を期待することになりますから、生産界や馬主からも、当然ながら大きな期待、すなわち「過熱した期待」がかけられることとなります。
一方、タイトルホルダーの初年度の種付料は350万円。日高の種牡馬としてはやや高めではありますが、阪神2200mをスーパーレコードで勝ったスピード、泥んこ馬場の凱旋門賞で見せたスピードの持続力と闘争心からすれば、「割安」な価格だと思います。
(3)日本のGⅠレースは「スローの瞬発力勝負」は鳴りを潜め、「スピードの持続力が試される消耗戦」が主体になりつつある!
日本の芝GⅠレースのレベルがアップしており、かつての瞬発力勝負中心のレースから、ラスト800~1000mのスピード持続力勝負の消耗戦が主体になりつつあります。この傾向は、種牡馬タイトルホルダーにとっては追い風になるはず。一般レースやGⅡGⅢクラスの重賞では相変わらず瞬発力勝負がメインになっていますから、リーディングサイヤー争いではイクイノックスに分がある気がしますが、ことGⅠレースでの闘いとなれば、タイトルホルダー産駒が大活躍する予感がいたします。
そうなると、ノーザンファームや社台ファームの高額馬を、日高の弱小牧場が育てたタイトルホルダー産駒が破る!というシーンが多く見られるかもしれません。
最後に一言。
ワタクシは、何もイクイノックスが憎くて、こんなことを書いている訳ではありません。むしろ今の状況について、イクイノックスに同情していると言っても良いのです。あまりに「神棚」に祭り上げられてしまい、もう逃げ場がない状態に思えます。この状態は、まるで「上へ」「さらに上へ」でここまで来たノーザンFの激しい上昇気流の中で、バランスを失って方向感を失うイクイノックス・・という風にも見えます。
一方のタイトルホルダーは、丁度よい期待の下で、日高の生産者や目の肥えた馬主たちから温かい目で見守られている状況。また、実質的なブリーダーである岡田牧雄総帥からも、至上の愛を受けている状態に見えます。
競馬メディアも、競馬ファンも、種牡馬イクイノックスに過度な期待をかけ過ぎると、かえってイクイノックスのためにならない気がしますので、もう少し温かい目で種牡馬イクイノックスを見守ってあげて欲しいと感じております。