金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【扱いに困る「1円ストックオプション」】 税当局への訴訟が起こるのも判る気がする・・

2023-12-07 01:32:06 | 終活

 本日は、「終活」シリーズの番外編として、「1円ストックオプション」をテーマにお話します。

 

 実は、ワタクシは、役員退職金の替わりとして、この「1円ストックオプション」を相応に貰っているのですが、この「取扱い」に困っているのが実情。すなわち、権利行使しようとすると、トンデモナイ税金を持っていかれて、殆ど経済的価値が残らない。一方で、そのまま放置しておいて、自分が突然死んでしまったりすると、家族に相続はできないので全く無価値になってしまう・・。なぜ、そんな事態になったかを、以下でご説明いたします。

 

 ちなみに、「1円ストックオプション」とは、行使価格が1円に設定されたストックオプションであり、上場企業の役員や職員向けに退職金替わりに会社から付与されるケースが多い「上場株式の株式購入権」であります。

 例えば、その企業の現在の株価が500円(単位株1000株)だとすると、これを1単位持っている人は、行使価格1円で1000株を取得できる権利を有していることになります。その価値は(500円-1円)×1000株=499,000円 ということになります。

 問題は、これにかかる税金であります。「1円ストックオプション」が導入された当時の考え方は、この1円ストックオプションを「特定口座(源泉徴収アリ)」の中で保有し、この権利行使と同時に取得した株式を売却してしまえば、この時の譲渡収益(上記の例で言えば499,000円)に対して、所得税+地方税+復興特別所得税=20.315%の税金が特定口座内で源泉徴収(101,371円)されて、差額の397,629円を net収益 として受け取れるという仕組み。ストックオプションを貰う立場の我々は、そう説明を受けていました。しかも、これは金額の大小に関係なく、ストックオプションの価値が20百万円だろうが、40百万円だろうが、源泉徴収税率20.315%のみで済むという話だったのです。

(この仕組みを設計した当時は、当然ながら税務に詳しい弁護士事務所を通じて、税務当局の見解も確認しながら導入した経緯があったと記憶しています)

 

 ところが、これを令和5年、すなわち今年の5月に、税務当局が「ちゃぶ台ガエシ」みたいなことを言い出しました。すなわち、「1円ストックオプション」については、まず権利行使した時点で、この時の株価で算定した経済価値を「雑所得」と看做して課税。さらに、取得した株式を売却した段階で、その譲渡収益に対して課税2回課税すると言い出した。(彼らの言い分は、もともとの考え方を整理した・・と言っております)

 上場企業の役員あたりだと、役員報酬を得ている時はもちろん、その後に別会社の社外取締役に就任している際に、この雑所得が加わると、所得税と住民税で約55%の税率になることもシバシバ。さらに、売却した場合の譲渡所得には、上記の特定口座(源泉徴収アリ)で保有していたら約20%の税率がかかる。合計すると、ストックオプション価値の75%を税金で持っていかれることになります。これはもう、退職金の意味はなく、単に税金を払うための仕組みということになってしまいます。

 20%で済むと思っていた税率が、最悪75%も税金が取られる仕組みに変わってしまったのですから、ビックリ仰天です。すでに、各方面から税務当局への訴訟が起きていますが、気持ちはよく分かります。

 

 さて、ワタクシ事でありますが、自分も「1円ストックオプション」をかなりの額、保有しております。いつ、権利行使しようかと考えていた矢先に、上記の「ちゃぶ台ガエシ」が発生しました。まぁ、自分の給与所得が落ちてきたから、年金生活者になってきてから、ユックリ権利行使すれば良いのですが、その場合でも心配事があります。このストックオプションは権利譲渡ができないので、ワタクシが死んでしまえば価値がゼロになってしまうこと。税金を気にして、グズグズ権利行使を遅らせていると、自分が死んでしまって、元も子もなくなるリスクを孕んでいるのです。

 どこかで、「えいやぁー」と権利行使するしかないのですが、税務署がニヤニヤして待ち構えているかと思うと、本当にムカついてきます。日本の活力を引き上げるために導入したはずの「1年ストックオプション」でしたが、いまや単に「税金をむしり取るための仕組み」に変貌してしまいました。そんなことならば、「1円ストックオプション」ではなく、「株式交付方式の退職金」を貰った方が退職所得税制が使えるので、遥かに有利でありました。

 

 税務当局の「後出しジャンケン」に対して、司法当局の鉄槌が下りることを祈っております。

 


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