Andyの日記

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誤解されている孟子の言葉

2019-07-26 11:09:21 | よしなしごと

「位卑しくして言高きは罪なり」

孟子の言葉だけど、これは一般に日本では「身分の低いものが身分の高いものに意見を
するのは間違っている、平社員が管理職に意見などするな」というような意味でとらえ
られていることが多い。でもこの言葉は、そんなパワハラ上司パラダイスの世の中を
理想とするような意味の言葉などではない。原文は以下のとおり。


【孟子曰く、
 仕うるは貧の爲に非ざるなり。
 而れども時有りてか貧の爲にす。
 妻を娶るは養いの爲に非ざるなり。
 而れども時有りてか養いの爲にす。
 貧の爲にする者は、
 尊を辭して卑に居り、
 富を辭して貧に居るべし。
 尊を辭して卑しきに居り、
 富を辭して貧に居るには、
 惡くにか宜しき。
 抱關擊柝なり。
 孔子嘗て委吏と爲る。
 曰く、
 會計當たるのみ、と。
 嘗て乘田と爲る。
 曰く、
 牛羊茁として壯長するのみ、と。
 位卑しくして言高きは、
 罪なり。
 人の本朝に立って、
 道行われざるは、
 恥なり、と。】

(訳)
 孟子曰く
    「政治の仕事は生活苦のために収入を得るためにすることではない。
    しかし中には生活の糧を得るために政治の仕事をする人もいるだろう。
    (中略)
    生活のために政治をする(志の低い)者は、高い役職には就くべきではないし、
    (中略)
    (志の低い)卑しい位の者が国政に高言するのは罪である」



つまり、国家天下のことを真剣に考えることもなく、ただ生活のために政治の
仕事をしている人間が軽々しく施政者に対して意見するべきではない、という
意味の言葉。原文で紹介されている身分卑しき者とは「抱關擊柝」「委吏」
「乘田」で、門番、夜回り、倉庫番、飼育係のこと。その当時の中国で、これらの
職に就くものが高い教育を受けていることはあるはずもなく、仮のこのような
仕事をしている者が何かのきっかけで政治の仕事をするようにでもなれば、
人民全体の福祉を考えた意見ではなく、自分たちの利益を最大化するような
意見を奏上するはずで、それは罪深いことだと孟子は考えたのだろう。
だからこそ、この言葉が生まれたのだ。

孟子の言葉ではもうひとつ、誤解されている有名な言葉がある。それは、

「君子は庖廚を遠ざく」

こちらは一般には「男子厨房に入るべからず」という言葉に変換されて人口に
膾炙しているけど、これもまたまったく違う意味の言葉。

(原文)
 君子の禽獣に於けるや、その生を見ては
 その死を見るに忍びず。その声を聞きては、
 その肉を食らうに忍びず。是を以て君子は
 庖厨を遠ざくるなり、と。

(訳)
    君子が牛や馬などと接して、生きているときの姿を見ると、
    その死ぬのを見るのは堪えられないものです。その死ぬときの声を
    聞いては、とうていその肉を食べる気にはなれません。
    ですから、君子は生き物を殺す料理場には近寄らないものです。
    

読んでいてなんとなく伝わってくることだけど、これはつまり反戦の言葉だ。
君子が自らの治めている国の民の姿を見たり聞いたりすれば、その民が命を
失うところを見ることなど到底できない。だから、その民の命を失うことに
なる戦争だけは絶対に避けなければならない、という意味の言葉と解釈
するのが普通だろう。