最近、パン作りを習っている。奥様には以前から、一度きちんとパン作りを
習ったほうがいい、ということを言われ続けてきたが、なんとか独学で
上手に作れるようになりたいという気持ちが強かったので、なんのかんのと
言い訳をして逃げてきた。どういう心境の変化があったのかといえば、
心境の変化というほどのことでもない。
奥様のチーズ関係の人脈で、パン作りを教えている先生がいるという話が
あり、それなら一度くらい単発の体験コースでもやってみようかという
ことになったのだった。何も正確な捏ね方を知らないよりは、少しくらいは
きちんと習っておくのもいいだろうと思い、気楽にその話に乗ることに
なった。
単発コースは、ごく簡単なフォカッチャだった。フォカッチャ自体は、以前に
自分でも作ったことがあるので、それほど苦労せずに作ることができるだろう
と思っていたこともあり、それほど緊張せずに教室に臨むことができた。
そのときは、奥様を含めて知り合いの人も他にいたし、わいわいと楽しい
雰囲気で教室が始まった。
実際に教室が始まると、目から鱗の指導の連続だった。普通、手作りパンの
レシピを読んでいると、パン生地を捏ねるときの出来上がりの目安として、
生地を伸ばしたときに向こう側が薄く透けて見えるくらいになったらOK、
薄く見えるようになる前に切れてしまうようだと、まだ捏ねが足りない、
というようなことが書いてあることが多い。あと、捏ね時間はだいたい
20~30分くらいを目安にしましょう、とか。
私が持っている本にも、まさにそういう内容が書いてある。また生地作りの
最中に生地を叩きつけることも大切だ、とも書いてある。叩いては捏ね、
叩いては捏ねを繰り返すことで、理想的な生地に練りあがる、ということ
なので、それを信じてえっさほいさと捏ねたり叩いたりするのだが、
いっこうに向こう側が透けるような生地にはならないのだ。
捏ね方が悪いのか?素材がそもそも問題なのか?それとも温度管理に問題が?
しかし、そのどれにも問題があるようには思えない。本に書いてあるとおりに
つくっているにもかかわらず、どうしてもそんな生地になってくれない。
次第に頭に血が上ってきて、生地を力任せにがんがんとぶっ叩いてストレス
発散、なんてことも一度や二度ではなかった。
話を教室に戻すと、先生はそんなやりかたは教えなかった。「え、こんな
もんでいいの?」というくらいにあっという間に捏ねは終ってしまった。
時間が短いこともさることながら、叩きつける作業なんて一度もしない。
捏ね時間なんて、しょうみ10分もないくらいじゃないだろうか。しかし、
出来上がった生地は教則本に写真が載っているような、赤ちゃんのお肌の
ようにしっとりつやつやな生地に仕上がるのだった。
そこで先生に、パン生地をこねるプロセスでの質問をしてみた。私が持って
いる本だと、生地を伸ばしたときに向こう側が透けて見えるくらいまで
捏ねるようにとか書いてあるんですけど、と聞いてみたところ、言下に
「それはもう古い捏ね方ですね」。・・・・・・・・・そうだったのか。
やっぱり、独学だとわからないことってあるものだ。
で、その生地でフォカッチャを焼いたのだが、おいしいなんてものでは
ない。割と簡単でシンプルなパンだというのに、今まで自分で作った
どのパンよりも圧倒的においしかった。その瞬間、先生の言っていたように
教則本の指導内容が古いということと、この先生にもう少し詳しく習った
ほうがいいという2点について確信することができた。
で、その日のうちに「これからよろしくお願いします」というお話をして、
まずは初心者コースに通うことになった。ドライイーストを使って、ごく
基本的なパンを作る工程を学ぶ、文字通りの初心者コースなのだけど、
早くもいろいろと勉強になることが多い。ミキシングの時間とポイント、
捏ねのヒント、ガス抜きの秘訣と効用、etc。詳しくは書けないけれど、
すべてのパンづくりに共通するであろう基本事項を、すでにかなり学ぶことが
できたと思う。
まだ初心者コースは続くが、初心者コースを終了するまでのあいだに、
意識せずとも習ったことをてきぱきとできるようになるまで体に染み込ませ
たいし、そしてできることなら、この上のコースも習ってみたい。この歳で
習い事にのめりこむことになるとは思わなかったけど、いい教室に出会う
ことができて、よかった。