Andyの日記

不定期更新が自慢の日記でございます。

Third Eye Firebird

2012-03-26 14:41:24 | 音楽・楽器
Top Guitars のギターレビューの第三弾、今回はオール和材のファイヤーバード。
まずは軽くスペックから。

Body: Japanese Oak (水楢) Top/ Japanese Mahogany (栴檀) Back
Neck: Japanese Mahogany (栴檀) Neck / 槐 Fingerboard 22F
Fret: J.Dunlop#6105
Machine Head: Gotoh SES510
Bridge: Third Eye Firebird Special
Nut: Non bleach Bone
Pickups: Vintage Vibe Guitars Soapbar P-90 Style Single Coil Pickups

このギターを購入した理由としては、和材でギターを作ったら日本人の琴線に
触れるようないい音を出すギターになるのではないのかな、と以前からずっと
思っていたからなのだった。私はワインが好きでよく飲むんだけど、ワインの
葡萄の品種というのは基本的にはヨーロッパ原種のものがほとんどだ。それは
それでもちろんおいしいんだけど、それでは日本の土着の葡萄ではワインを
作れないのかというと、そんなことはない。実際、山梨の勝沼では甲州などの
地場品種の葡萄でワインを作っているのだが、その味わいは「和風」としか表現の
しようがない、凛とした味わいだ(これについて詳しくはここから)。

この体験から、和材でギターを作ったらどうなのだろう、もしかしたら輸入の
木材よりもずっとストレートに日本人の感性に訴えてくる音を出すギターに
なるのではないだろうか、と考えていたのだった。でも、当然ながらそういう
ギターを量産メーカーが出すはずもなく(センを使ったギターはときどきある
けど)、これは夢で終わるのかなと半ばあきらめていたのだが、Shinya さんが
オール和材のギターを作るというアイデアを公表したときに、もしも完成したら
ぜひ弾いてみたいものだと思い続けていた。そう思い続けていたからなのか、
縁あって我が家に来ることになったこのギター。やはり、素晴らしい。最近は
気がつくと、このギターばかり弾いている。

このギターの長所としてまずあげられるのは弾きやすさ。Gibson のオリジナルの
ファイヤーバードはヘッド落ちはするし、バンジョーペグが敏感ですぐに
チューニングが狂うし、ネックの形状も無骨なものが多くて、それほど弾きやすい
ギターではない。でも Third Eye FB にはそういうところが全然なくて、あまりにも
普通に弾けてしまうことがまず驚きだ。重量バランスがよく計算されているせいで
まったくヘッド落ちはしないし、ペグは一般的なモデルなのでチューニングは安定
しているし、ネックも厚みのあるボートシェイプながら握りやすく仕上げてある。
なので、FB を弾いているという感覚はほとんどない。唯一そう感じるところが
あるとすれば、座って弾いているときに低音弦側のウイングが胸に当たるとき
くらいだろうか。慣れれば平気なのだけど、気になる人はこの部分をコンター
加工してもらってもいいかもしれない。

次に、マホガニー系の素材で出来ているギターにしては軽い。重いギターを
立って弾いていると肩や腰に負担が大きいという人には、この軽さはとても
助かるのではないだろうか。パッと持った感覚でいうと、セミアコくらいの
重さしかない。「あれ、こんなに軽いの?」と驚く人が多いだろう。
デジタル体重計で量ってみたら 3.7 kg で、ほとんどハイブリッドアッシュの
テレキャスくんと同じくらいの重さだ。でも、持った感じでいうと、こちらの
ほうがやや軽く感じられる。体積あたりの重量が軽いせいでそう感じるのか
わからないけどね。

肝心の和材の音色だけど、やはり想像していたとおりの音だった。上のスペック
でもわかるとおり、傾向としてはマホガニーのギターに近い音色なんだけど、
クリーンでもドライブでも、いい意味で「角の取れたマホガニー」というような
音になっている。しかも音色がとても乾いているので、その角の取れ具合と
あいまって、ビンテージっぽい枯れた乾いたサウンド、とも表現できるかも
しれない。しかも、ビンテージの悪癖である音の暴れがないのが、ビンテージ
ギターでは望めない利点だ。ビンテージっぽい音といっても、世間に多く出回って
いる、ただ枯れたスカスカした音を演出しているようなものとは異なり、軽やかさの
中にナチュラルな味わいがあるサウンドだ。青い目のギターの、強烈で押し付け
がましいほどの強引な性質の音とは違い、いい意味で素朴に優しく「木の音」を
感じさせてくれる。

食べ物にたとえると、ちょっと微妙な表現かもしれないが、上質なエアインミルク
チョコレートのような感じというか(笑)。マイルドなチョコの風味がしっかりと
感じ取れ、同時にミルクのコクとまろやかさも味わえる、優しい口あたりの味わい、
と表現したくなる。バンドの中で求められるギターの音の範囲にぴったりはまって
いる感じで、どのパートの邪魔にもなっていないけどしっかり聞こえてくるような、
とても実践的な音だと思う。バンドで抜ける音をエフェクターやピックアップで
強引に作りだそうとすると、どうしてもとげとげしい音になりがちだけど、この FB は
抜けやすい範囲に最初から音がまとまっているので、ムチャなセッティングを
しなくてもきちんと聞こえてきそうだ。

このピックアップがどういうスペックなのかはわからないけど、少なくともどこかの
音域を強調するようなものではないので、ピックアップのせいでそういう音が出て
いるのではなく、ギター自体がそういう音を持っているのだということがわかる。
もともと P-90 って、ハムバッキングやフェンダータイプのシングルコイルと違って
ピックアップ自体に音のカラーがないから、ギターがよければ他のどのピックアップが
逆立ちしてもかなわないほどすごくいい音を出すし、ギターがどうしようもないと
ひどい音しか出してくれない。P-90 にあまり人気がないのは、できの良くない
量産タイプのギターに搭載されて楽器店に並べられているせいで、多くの人は
コモるようなひどい音を出す個体にしか触れる機会がないからなのだろう。
P-90 でいい音がしないということは、もともとその程度のギターだということだ。
嘘だと思ったら、P-90 が搭載されたハイエンドギターを弾いてみるといい。
目からウロコなことは保障する。それだけ作り手の腕を選ぶピックアップである
P-90 でこれだけのいい音を出すということは、ギター自体の完成度がどれだけ
高いかがわかるというものだ。

ただこのギターは正直なところ、初心者向けではない。その理由のひとつとして、
音の立ち上がりがとても早くて、タッチに敏感だという点がある。セットネックの
ギターでここまで立ち上がりが早くて敏感に反応するギターって、まったく知らない。
それどころか、テレキャスくんたちよりも音の立ち上がりが早いと感じるくらいだ。
その尋常ではない立ち上がりのよさと敏感さのせいで、右手も左手も気合入れて音の
粒立ちを揃えて弾かないと、とっちらかった演奏になってしまう。ピックアップが
あまりパワフルではないこともあり、ダイナミクスがつけやすい(というかつきやすい)
ので、弾き手の技量が完全にバレる。クリーントーンでのプレイでは、特に腕の良し悪しが
丸わかりになるはずだ。ボリュームを少し絞って弾くと、さらにその敏感さが増す。
怖いくらいだ。もちろんそのぶん、微妙なニュアンスも完全に再現してくれるのだが。
また立ち上がりが早いぶん、いつもの調子で弾くとリズムが走りがちになると思う。

また、上で「角の取れたマホガニー」と書いたように、ややバイト感が少ない。これは
歪ませたときに特に感じることだけど、エグいドライブサウンドを期待している人が
弾くと、肩透かしをくらったように感じるのではないだろうか。歪ませればちゃんと
歪むのだけど、ジャリジャリ、グジャグジャのサウンドにはならない。そういう音って
一人で部屋で弾いているときにはかっこよく聞こえるんだけど、バンドの中だと消される
音になることが多い。そういう意味でも、このギターは玄人好みな音といえる。つまり
派手な歪みサウンドを期待しがちなオーダーギターの初心者からすると、ちょっと
物足りないと感じられる可能性のある音だと思う。

でも、上級者であればこのギターの良さは理解できるんじゃないかな。特にビンテージ
系の枯れた柔らかい音を求めている人であれば、一発で気に入ると思う。個人的には、
このスペックのストラトがあったら文句なく最高のビンテージストラトになると思う。
あと、このスペックでベースを作ったら、ベーシストの皆さんはすごく楽できると思う。
発音が早くて音が必要な範囲にまとまっているから、リズムはモタらないし音作りも
楽で、オンボードプリなんて要らなくなるんじゃないだろうか。

ギターにはプレイヤーのプレイアビリティーを上げるギターと音楽性を上げる
ギターの2種類があると思うけど、これは両方をいいバランスで上げてくれる
と思う。プレイアイビリティーについてはすでに書いたけど、音楽性についても
このギターが貢献する部分は小さくないのではないかな。このギターの音色と
いうのは、どちらかというとあまり激しくない音楽を演奏するのに向いている
と思う。見た目は派手なスタイルしてるけど、一番似合う音楽はソフトロック
とかフォークロック、あるいはもっとアーシーな曲(カーリーサイモンとか
キャロルキングとか)だと思う。

これまで元気のいい曲ばかり演奏していた人でも、このギターを手に持つと
あまり元気に演奏しちゃうのがもったいないような、「俺も少しは大人に
ならなきゃな」みたいな気になることでしょう。ちょうど、保存状態のいい
ビンテージギターを手にしたときに、あまり熱い曲を弾くのが憚られるような、
そんな気分になる。で、今まで弾いたことがなかったアダルトなジャンルの
曲を、シックに爪弾きたくなる。実際、このギターではクラシックやフォークの
曲をクリーンで弾くこともすごく多い。音がソフトで奥行きがあって、エアー感も
すばらしく(明らかにそこらのセミアコより上です)、金属的ないわゆる
"エレキギターの音" ではないので、プレイヤーの引き出しを増やしてくれる
ギターとも言えると思う。

そうそう、Shinya さんはこのギターが完成した 2010 年の 11 月の時点で、
「まだ出来たてホヤホヤですからね、馴染んでくるとまた感覚も変わります」と
某所で書いていたけど、Shinya さんが書いていたインプレと、実際に今私の
手元にある FB の印象とで、変化したと感じられる箇所や補足しておきたい箇所を
あげておきますか。

[あそこまで乾いた響きではありません]

現段階では、かなり乾いた音になりました。ただ、マホガニーのような荒っぽい
ドライなサウンドではなく、シルキーでドライなサウンド、と言うと近いと
思います。では乾いたアルダーに似ているのかというと、それとも違います。
アルダーのような立ち上がりの遅さやダークなトーンや粘りなどはないです。
それじゃライトアッシュみたいなものかというと、ライトアッシュほど明るくて
腰のない音でもないです。やはり、このギターの音としか言いようがない(笑)。

[出来たては心配になるほど鳴らない]

もう出来たてではないので、言うまでもなくすごく鳴ってます。あまりに鳴りが
いいので、長年頑張ってくれたセミアコくんは売却してしまいました(笑)。
悪いギターではなかったんだけど (Aria Pro II TA-600)、これと比較して
しまうとどこもかしこも物足りなく感じられてしまい、「これじゃこの先、この
ギターを弾いてあげる時間がなくなるだろう、誰か他に可愛がってくれるひとの
ところに嫁いだほうがこのギターのためだろう」という結論に達して売却の運びに。

ちなみにこのセミアコ、ハイブリッドアッシュのテレキャスくんよりも鳴らない
ギターだった。このギターだけが鳴らないセミアコというわけではなく、量産型の
廉価版のセミアコってどれも大同小異だと思う。各部の仕込みやセットアップが
いまいちなうえに硬くて分厚いポリ塗装が施してあるので、あまり鳴らないギターに
なっているものがほとんどのはず。少なくとも、量販楽器店で試奏したセミアコは、
どれも同じようなレベルだったことは確か。

いや、そんなセミアコくんでも、うちに来た当時はフェンジャパのストラトより
よく鳴ってくれるので、「あ~、いいギターだ。やっぱり、鳴りを求めるなら
ソリッドよりも素直にセミアコだね。それに見た目も意外とかっこいいし、
なかなかなものじゃない」と感動していたものだけど、人間というのは、無限に
贅沢になってしまうものだ(笑)。ソリッドでもここまでよく鳴るギターという
のもあるということを知ると、ホローボディーには興味が持てなくなる。

[現状では物凄く反応が機敏なギター]

これについては、「物凄く反応が機敏」から「とんでもなく反応が機敏」に変化
した、と言えます。これはちょっと未体験ゾーンって感じですよ、ほんとに。
弾こうと思ったらもう音が出ていた、みたいなもんです。それだけに、弦を
押さえる動作ひとつでも、ピッキングときっちりシンクロさせないといけません。
適当なタイミングでなんとなく押さえると、ハンマリングの音として出てきて
しまいます。

[ハーフトーンでカッティングをしても存在感は抜群]

一般的に、セットネックのギターでハーフトーンのカッティングをすると、
クリーンでもドライブでもなんかいまいちというか、すっきりしない音になる
ことがあるけど、これは別物です。むしろ、積極的にハーフトーンを使いたく
なる音色。音にコシと張りがあるうえに、とにかくシャープ。すごくシルキーな
音なのに、どうしてこんなにシャープな音が出るんだろう、と不思議になる。
そのおかげで、ドライブでのカッティングもモコモコしないでスパッ!と音が
出てくる。低音が出ないのではなく、むしろ深くて豊かな低音がある。
セットネックのギターを軽めのクランチでカッティングさせようとすると、
リアポジション以外では音がこもって使いづらいものが多いけど、これは別物。

[日本の気候というか空気に馴染みやすいトーン]

そして、日本人の好みに合った音と言えるでしょう。やっぱり、和材を使って
いるせいなのか、変な表現だけど日本画を見ているときのような気分になる。
繊細でたおやかな音色で、ず~っと弾き続けていたくなる音色、というか聞き
続けていたくなる音と言ったほうが正確だろうか。聞いていて耳が疲れない
音だから、結果としてずっと弾いていたくなるのだと思う。いや、これからの
日本のギターメーカーは、和材をもっと真剣に研究したほうがいいと思う。
こんなに聞いていて落ち着いた気持ちになれるギターというのは、絶対にこれから
需要が出てくるはず。ジャカスカうるさい曲ばかりやる人たちばかりではないし、
それどころか「癒し系」というのはジャンルの1つとしてすっかり定着したの
だから、癒し系ギターの素材としてこれほど適した材はないと思う。

今のところ、こんなところでしょうか。また気がついたことや変化してきたこと
などがあったら、随時アップしていくことにします。