原題:I AM A CYBORG, BUT THAT'S OK
監督:パク・チャヌク
出演:チョン・ジフン /RAIN(イルスン)
イム・スジョン(ヨングン)
チェ・ヒジン イ・ヨンニョ
ユ・ホジョン オ・ダルス
キム・ビョンオク
2006年韓国
復讐は終わり、愛が始まる……
ここは突飛な想像と空想に満ちた新世界精神クリニック。
ある日、新しい患者が入ってくる。少女の名はヨングン(イム・スジョン)。ヨングンは、自分のことをかわいがってくれたおばあちゃんが療養所に送られて以来、頭のネジがちょっとおかしくなった。でも仕事が忙しいヨングンの母親は、「私はネズミよ」と言っていたおばあちゃんと自分の娘が同じようにビョーキだとは認めたくない。そんなヨングンに目をとめたのは、同じ年頃のイルスン(チョン・ジフン)。「人のもの」なら特徴でもなんでも盗むことができるイルスンに、ヨングンはお願いする──「盗んでください、私の同情心を。殺したいのに殺せない気持ち……」
パク・チャヌク<復讐三部作>監督最新作は、アンチソーシャル・ラブストーリー。
ラブ・コメディーらしいが、そこはパク・チャヌク監督。
一筋縄ではいかず、毒のツヨい童話世界がひろがる。
『チャーリーとチョコレート工場』に、似てるかな。
パク・チャヌク監督作は好んでは見ないのだけど、チョン・ジフンに興味があって見た。笑
ヨングンも、彼女のおばあちゃんも、イルスンも、現実世界では統合失調症、精神病である。
予告編で見て覚悟していたものの、ヨングンによる医者や看護婦(ホワイトマン)の殺戮シーン(ヒロインと相手役の青年の妄想ですが)はやっぱり見たくなかったな。
ヨングンは自分を可愛がってくれたおばあちゃんを連れ去ったホワイトマンをやっつけて、助けなければと焦っているが、”同情心”がじゃまをしてできない。
・・・ホワイトマンたちにもおばあちゃんがいる・・・
彼女の心は妄想に占拠されてはいるが、このあたりは女の子らしい正常な優しさを持っている。
イルソンは15歳の時に母に捨てられた。
それ以来彼は満たされぬ心を埋めるように盗み(妄想も含み)を繰り返すようになった。
自分が縮んで点になって消えてしまうという恐れを感じている。
ふたりとも十分に母の愛情を受けられなかったという心の傷を負っている。
病というけれど、心はとても純粋なふたり。
ヨングンの母親は娘のことより世間体ばかり心配している身勝手な人のように見える。
自分をサイボーグだと信じ込むヨングンに比べるとイルソンはやや正常な人に見えるが。
サイボーグだから食事をとると壊れてしまうと、頑なに絶食するヨングン。
電気ショック治療を施され(これもなかなかに残酷)、鼻からチューブで栄養分を入れられるヨングン。
ちらと、名作、『カッコーの巣の上で』を思い出す。
このままではヨングンの命が尽きてしまう。
嫌がってるじゃないか、無理に食べさせちゃダメだ~。
優しいイルソンは彼らしい可愛いやり方で彼女を励まし続ける。
工事関係の仕事をしていたイルソンはヨングンが食べたものをエネルギーに変えられる装置を作ってやる。
ご飯を食べると自分の身体は壊れると、心配するヨングンにイルソンは言う。
君が壊れたら僕が治す。
保障期間は一生!
一生、ヨングンのために尽くす・・これはこの上ない愛の告白ですね。
グッときます。
絶食でやせ細った彼女の背中にサイボーグの”ドア”はなく、イルソンは涙を流す。
ヨングンが人間なのは彼にもわかる。(ドアはイルソンが鉛筆で書いて、ヨングンには「ドアはある」と言ってやる。涙)
イルソンが彼女のすべてを受け入れる、この場面は切なくも感動。
ここから結末に触れています。
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患者たちも祈る思いで見守るなか、ヨングンは食事する。
安堵と感激に、膝まづき、しっかとヨングンを抱きしめるイルソン!
繊細でかげろうのような機械たちがヨングンの身体のなかで動き出すイメージ(妄想?)は美しい。
それから、おばあちゃんは亡くなってしまった。
復讐は終わった。
でも、ヨングンの「存在理由」は言いかけたまま逝ってしまった。
イルスンは母の写真(過去?)に、お別れをする。
雷が鳴る雨の夜、荒涼とした地にふたりは自分たちの存在理由を探しに行く。
これでは感電してしまう。ふたりは死んでしまうのか?
そして、朝がやってきて雲のなかから朝日が射す。
降臨のごとく、宗教画のようだ。
ふたりを包み込むように大きな虹がかかる。
サイボーグでも大丈夫。愛してる・・
もうひとつ、サイボーグでもかまわない。人はあるがままの存在でいいとの監督のメッセージも感じられる。
あの虹の向こうに・・
幸せがふたりを待っていることを予感させる、この美しい場面はちょっと忘れがたい。
ふたりの「存在理由」はね、イルスンはヨングンのために、ヨングンはイルスンのために、この世にあるということ。ふふ