私が週1回アルバイトに行っているところには、日本の本の詰まった本棚があります。恐らくローマに滞在して日本に帰国する人たちが置いていった本がたまっていったものだと思います。そこの本は勝手に借りていいと聞いて、本棚の端から選ばずに順に読んでみようと今年の初めから少しずつ読書を始めました。昨年末からなんだか自分の今の生活があまりに世界の狭いものだと落ち込んでいたこともあって、身近なところから世界を広げる努力をと思ったのが始まりでした。選んでしまうとどうしてもいつも同じジャンルに偏ってしまいますからね。ところがわかったことは、帰国する人がまとめて本棚の一部を独占して残して行くわけなので、しばらくの間は前の持ち主の読書傾向の本が続くということなのです。とはいえ、自分では選んで読まない本を読んでみると世界が広がるのは確かのよう。
私は読むのが遅いというか、目は読んでいるのに、頭は他に行ってしまうことがあって、よく数ページ戻らなければならないことがあります。そのため結果として短期間に読める冊数は多くはなりません。そんな調子で読むことが多いので、一部の記憶がないところもあって、痴呆症かなと心配になるぐらい。でもこれは小さいときからの癖なのです。ブログでも読んだ本の紹介をしようなんて思っていましたが、そんなわけですぐに書かない場合は記憶が怪しい。これは映画や芝居なんかのレビューを書こうとしても、同じことが当てはまってしまいます。でも特に面白かった本を紹介してみたいと思います。
これは今日読み終わった本です。
バール、コーヒー、イタリア人 ~グローバル化もなんのその~ 島村菜津著
イタリアで暮らしている人だったら「あ~わかる~」という話がたくさん出てきて、イタリア生活を少しでもしたことある人なら確実に面白い本です。もちろんそれだけでなく、バールやコーヒーの歴史や習慣、そして裏事情まで大変詳しく紹介されていて、専門書といってもいい内容です。
イタリアはどこへ行っても、他に見つけられないものはあっても、バールだけは必ずあります。全てのイタリア人の生活に密着している所と言えるでしょうね。マイバール、マイバリスタのいる人々も少なくないでしょう。ダニィも遠くにいてもわざわざ自分のお気に入りのバールまでコーヒーを飲みに行きます。そこまでしなくても・・・と思うのですが、確かにダニィが行くと、注文を言わずして、いつも頼むカフェ・ルンゴ・アル・ヴェトロ(グラスに入ったお湯多めのエスプレッソ)がちゃんと出てくるんですよね。やはりこういうのが心地いいのでしょうか。前回の会話の続きができるのも嬉しいのでしょうか。優秀なバリスタはお客さん一人一人をきちんと把握しているようです。
バールはそれでも日本の喫茶店とは違い、コーヒーを頼んでそれから何時間も居座る雰囲気はないので、私はやはりスターバックスのような場所もあってほしいと思うのですが、どの支店にいっても、スタンプを押したような同じ対応は、イタリア人たちには受け入れられないのもわかるような気はします。
こういうのがあればもっと効率がいいのに・・・ということが山ほどあるイタリアですが、効率よりも重視されることがあることを、この本を読みながらかなり納得しました。「このままじゃ、どんどん他の国に置いて行かれるよ~」というのが口癖のようになっている私ですが、イタリアはそう「グローバル化もなんのその」でいいのです。もしかするとむしろ最後まで生き延びれる国なのかもしれませんね。
ダニィのコーヒーの話と関連して、本の半ばにこんな話がありました。
(以下本書からの引用)
アンドリア市のあるバールに、五人の長距離トラックの運転手が現れて、それぞれのコーヒーを注文する。第一の男はモルト・ストレットの、第二の男はマッキアートの、第三の男はコン・ラッテ・カルドのコーヒーを頼み、第四の男はカプチーノを所望する。最後の男はしかし、店じゅうにひびきわたる勝ち誇った大声で叫ぶ「ダブルのエスプレッソ、それにミルクを特別に!」 H.M.エンツェンスベルガ―「ヨーロッパ半島」(石黒英男他訳 晶文社)
それぞれに違うということが、そのアイデンティティを支えているヨーロッパ。ドイツの詩人によるこのエッセイ集には、ゲルマン人の眺めた太陽の国イタリア人たちの姿が生き生きと描かれている。
五人が五人とも、ばらばら。モルト・ストレットは、うんと濃いエスプレッソ、マッキアートは、ミルクをほんの少しだけ垂らしたもの。コン・ラッテ・カルドは、温めたミルクを加えたもの。カプチーノは、蒸気で泡立てたミルク入りである。
しかし、詩人は、その中でも第五の男の勝ち誇ったような様子に着目する。その優越感は、どこから来るのか。いったい何が自慢なのだ。不思議そうに見つめながら、詩人はそこに、日常のささいなことを最大限に楽しもうとする深い人生哲学を見る。
コーヒーなんぞという小さなことに、笑ってしまうほどの執着を見せるイタリア庶民。その毎日、口にする食べ物への強いこだわり、それはそのまま「俺様」の生き方に直結し、これを大げさに表現することで、満足中枢は刺激され、その日常にきらきらと輝く魔法の粉を吹きかける。・・・・
納得。コーヒーに関してだけでなく、似たような状況を日常でよく見かけます。はあ~?なんか随分と大げさに話していらっしゃるけれど、そんなに凄いことなわけ~?って状況。そうすることで満足中枢が刺激され、普通の日常が素晴らしいものになるのか。
「別にたいしたことじゃないんですけどね・・・」などと前置きをしてしまう日本人にはなかなかまねができそうにありませんが。
イタリア人のコーヒー文化の話だけでなく、コーヒーの由来、コーヒー栽培の裏にある現実など、なかなか内容濃い本です。
<日本の本棚より最近読んだその他の本>
「世界でいちばん愛される絵本たち ~人気作家30人のインタビュー集」
世界の有名な絵本の作家たちからのインタビューを集めたものです。私の小さいころからのベストセラーの絵本もかなり入っていて、懐かしくなりました。絵本に興味のある人には面白い本かもしれませんが、そうでもなければどうだろう・・・
「大往生」永六輔著
「老い」や「死」がテーマ。私たちは100%死に向かって生きているわけですが、自分の死にしろ、身近な人の死にしろ、避けられない「死」というものへの恐怖を持っていますよね。普段からの「死」とうものに対して避けるのではなく、むしろ考えてみると「死」とうものへの恐怖が変わってくるような気がします。
「半人前が残されて」 伊集院静著
2人の大女優(夏目雅子、篠ひろ子)を奥さんにした人とは思い難い、恥ずかしいような部分もさらけだした大変人間臭いエッセイ集でした。
「ブルーハネムーン」 篠田節子著
軽い感じの推理小説。詐欺師を扱ったもの。いっきに読めてしまいますが、私てきにはそんなに面白くなかったかも。
「なぜ勉強するのか」 鈴木光司著
勉強するのは問題を解けるようになるためでなく、ものごとの正しい見方、判断ができる力をつけること。いろんな分野の勉強を例に、本当はそこから何を学ぶべきなのかを説き、勉強することの本当の意味を伝えている。最初は「最後まで読めるかな」という興味の度合いで読み始めましたが、なるほど思わされる内容があり、結局はおもしろかったです。作者があの有名な「リング」の著者だとわかって、意外でした。
「レイクサイド」 東野圭吾
この著者の作品は自分でも選んで読んでしまうタイプのものです。推理物はやはり読みやすいですね。
「日本は世界で第何位?」 岡崎大五著
筆者は世界中を旅した世界事情のエキスパート。ランキングデータはもはや古くなっているかもしれませんが、各ランキングについての筆者の話がなかなか面白かったです。雑学集めにもいいかも。それにしても日本の食糧自給率の低さがかなり恐怖な数値でした。
私は読むのが遅いというか、目は読んでいるのに、頭は他に行ってしまうことがあって、よく数ページ戻らなければならないことがあります。そのため結果として短期間に読める冊数は多くはなりません。そんな調子で読むことが多いので、一部の記憶がないところもあって、痴呆症かなと心配になるぐらい。でもこれは小さいときからの癖なのです。ブログでも読んだ本の紹介をしようなんて思っていましたが、そんなわけですぐに書かない場合は記憶が怪しい。これは映画や芝居なんかのレビューを書こうとしても、同じことが当てはまってしまいます。でも特に面白かった本を紹介してみたいと思います。
これは今日読み終わった本です。
バール、コーヒー、イタリア人 ~グローバル化もなんのその~ 島村菜津著
イタリアで暮らしている人だったら「あ~わかる~」という話がたくさん出てきて、イタリア生活を少しでもしたことある人なら確実に面白い本です。もちろんそれだけでなく、バールやコーヒーの歴史や習慣、そして裏事情まで大変詳しく紹介されていて、専門書といってもいい内容です。
イタリアはどこへ行っても、他に見つけられないものはあっても、バールだけは必ずあります。全てのイタリア人の生活に密着している所と言えるでしょうね。マイバール、マイバリスタのいる人々も少なくないでしょう。ダニィも遠くにいてもわざわざ自分のお気に入りのバールまでコーヒーを飲みに行きます。そこまでしなくても・・・と思うのですが、確かにダニィが行くと、注文を言わずして、いつも頼むカフェ・ルンゴ・アル・ヴェトロ(グラスに入ったお湯多めのエスプレッソ)がちゃんと出てくるんですよね。やはりこういうのが心地いいのでしょうか。前回の会話の続きができるのも嬉しいのでしょうか。優秀なバリスタはお客さん一人一人をきちんと把握しているようです。
バールはそれでも日本の喫茶店とは違い、コーヒーを頼んでそれから何時間も居座る雰囲気はないので、私はやはりスターバックスのような場所もあってほしいと思うのですが、どの支店にいっても、スタンプを押したような同じ対応は、イタリア人たちには受け入れられないのもわかるような気はします。
こういうのがあればもっと効率がいいのに・・・ということが山ほどあるイタリアですが、効率よりも重視されることがあることを、この本を読みながらかなり納得しました。「このままじゃ、どんどん他の国に置いて行かれるよ~」というのが口癖のようになっている私ですが、イタリアはそう「グローバル化もなんのその」でいいのです。もしかするとむしろ最後まで生き延びれる国なのかもしれませんね。
ダニィのコーヒーの話と関連して、本の半ばにこんな話がありました。
(以下本書からの引用)
アンドリア市のあるバールに、五人の長距離トラックの運転手が現れて、それぞれのコーヒーを注文する。第一の男はモルト・ストレットの、第二の男はマッキアートの、第三の男はコン・ラッテ・カルドのコーヒーを頼み、第四の男はカプチーノを所望する。最後の男はしかし、店じゅうにひびきわたる勝ち誇った大声で叫ぶ「ダブルのエスプレッソ、それにミルクを特別に!」 H.M.エンツェンスベルガ―「ヨーロッパ半島」(石黒英男他訳 晶文社)
それぞれに違うということが、そのアイデンティティを支えているヨーロッパ。ドイツの詩人によるこのエッセイ集には、ゲルマン人の眺めた太陽の国イタリア人たちの姿が生き生きと描かれている。
五人が五人とも、ばらばら。モルト・ストレットは、うんと濃いエスプレッソ、マッキアートは、ミルクをほんの少しだけ垂らしたもの。コン・ラッテ・カルドは、温めたミルクを加えたもの。カプチーノは、蒸気で泡立てたミルク入りである。
しかし、詩人は、その中でも第五の男の勝ち誇ったような様子に着目する。その優越感は、どこから来るのか。いったい何が自慢なのだ。不思議そうに見つめながら、詩人はそこに、日常のささいなことを最大限に楽しもうとする深い人生哲学を見る。
コーヒーなんぞという小さなことに、笑ってしまうほどの執着を見せるイタリア庶民。その毎日、口にする食べ物への強いこだわり、それはそのまま「俺様」の生き方に直結し、これを大げさに表現することで、満足中枢は刺激され、その日常にきらきらと輝く魔法の粉を吹きかける。・・・・
納得。コーヒーに関してだけでなく、似たような状況を日常でよく見かけます。はあ~?なんか随分と大げさに話していらっしゃるけれど、そんなに凄いことなわけ~?って状況。そうすることで満足中枢が刺激され、普通の日常が素晴らしいものになるのか。
「別にたいしたことじゃないんですけどね・・・」などと前置きをしてしまう日本人にはなかなかまねができそうにありませんが。
イタリア人のコーヒー文化の話だけでなく、コーヒーの由来、コーヒー栽培の裏にある現実など、なかなか内容濃い本です。
<日本の本棚より最近読んだその他の本>
「世界でいちばん愛される絵本たち ~人気作家30人のインタビュー集」
世界の有名な絵本の作家たちからのインタビューを集めたものです。私の小さいころからのベストセラーの絵本もかなり入っていて、懐かしくなりました。絵本に興味のある人には面白い本かもしれませんが、そうでもなければどうだろう・・・
「大往生」永六輔著
「老い」や「死」がテーマ。私たちは100%死に向かって生きているわけですが、自分の死にしろ、身近な人の死にしろ、避けられない「死」というものへの恐怖を持っていますよね。普段からの「死」とうものに対して避けるのではなく、むしろ考えてみると「死」とうものへの恐怖が変わってくるような気がします。
「半人前が残されて」 伊集院静著
2人の大女優(夏目雅子、篠ひろ子)を奥さんにした人とは思い難い、恥ずかしいような部分もさらけだした大変人間臭いエッセイ集でした。
「ブルーハネムーン」 篠田節子著
軽い感じの推理小説。詐欺師を扱ったもの。いっきに読めてしまいますが、私てきにはそんなに面白くなかったかも。
「なぜ勉強するのか」 鈴木光司著
勉強するのは問題を解けるようになるためでなく、ものごとの正しい見方、判断ができる力をつけること。いろんな分野の勉強を例に、本当はそこから何を学ぶべきなのかを説き、勉強することの本当の意味を伝えている。最初は「最後まで読めるかな」という興味の度合いで読み始めましたが、なるほど思わされる内容があり、結局はおもしろかったです。作者があの有名な「リング」の著者だとわかって、意外でした。
「レイクサイド」 東野圭吾
この著者の作品は自分でも選んで読んでしまうタイプのものです。推理物はやはり読みやすいですね。
「日本は世界で第何位?」 岡崎大五著
筆者は世界中を旅した世界事情のエキスパート。ランキングデータはもはや古くなっているかもしれませんが、各ランキングについての筆者の話がなかなか面白かったです。雑学集めにもいいかも。それにしても日本の食糧自給率の低さがかなり恐怖な数値でした。