【社説・11.04】:福井中3殺害で再審決定 証拠開示するルール作りを
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.04】:福井中3殺害で再審決定 証拠開示するルール作りを
1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件で、殺人罪で懲役7年が確定し服役した前川彰司さんの裁判やり直しが決まった。第2次再審請求を受けて名古屋高裁金沢支部が再審開始を認める決定をし、検察が異議申し立てを断念した。無罪が言い渡される公算が大きい。
高裁金沢支部の決定は、捜査側が見立てた筋書きに合うよう関係者に証言を求め、誘導した疑いがあると指摘した。事実なら許されない。強引な捜査や公判での立証の手法は、検証が要る。
もともと、前川さんの犯行を直接示す客観的な証拠はなく、前川さんは一貫して無罪を訴えていた。有罪判決の根拠となったのは、互いに信用性を補完し合う複数の関係者の供述だった。
弁護団は、再審請求に伴って新たに開示された証拠を精査。「血の付いた前川さんを見た」と証言した関係者が事件当日に視聴したと説明していたテレビ番組が、実際は別の日に放送されていたことを突き止めた。
高裁金沢支部は、捜査に行き詰まっていた警察が供述を誘導した疑いがあると指摘する。検察に対しても、番組の放送日が異なることを把握していながら公判で明らかにしなかったことを「あるまじき不正」と非難した。警察と検察は問題点を洗い出す必要がある。同じような事態を繰り返してはならない。
事件は異例の経過をたどった。90年の一審福井地裁判決は無罪だったが、二審で懲役7年とされ、最高裁で確定した。満期出所後の第1次再審請求審は2011年に高裁金沢支部が再審開始をいったん認めたものの、検察側の異議申し立てを受け、名古屋高裁が取り消した。
第2次請求は、弁護団が検察に証拠を開示させたことで再審の重い扉が開いた。検察は当初渋っていたが、高裁金沢支部が開示命令を出すことを示唆したため、福井県警の捜査報告メモなどを大量に開示した。その結果、証言のほころびが判明した。前川さんの支援者が「証拠が隠され、有罪にされていた」と憤るのは当然だ。
先月、静岡県一家4人殺害事件から58年を経て再審無罪が確定した袴田巌さんのケースも、第2次再審請求で犯行着衣とされる衣類のカラー写真などが開示されたことで、無罪が裏付けられた。
何より大事なのは、冤罪(えんざい)を生まないことだ。都合の悪い証拠を隠そうとする検察の姿勢が冤罪の土壌になってきたとしたら、証拠を開示させるルールを作らねばならない。
現行法には再審請求段階の証拠開示ルールがない。再審で無実を訴える人にとって、著しく不利な状況を見直す必要がある。
事件当時20代だった前川さんは来年、還暦を迎える。司法の対応はあまりにも遅きに失した。名古屋高検は再審公判で有罪を主張するかどうかや、前川さんへの謝罪の見込みを明らかにしていない。前川さんの納得を得られるような対応を取り、名誉の回復に努めるべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月04日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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