【世論輿論】:賛否渦巻くカジノ② 「反IRを政争の具にする勢力に違和感」
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【世論輿論】:賛否渦巻くカジノ② 「反IRを政争の具にする勢力に違和感」
■あなたはどう考える?
大阪府と大阪市によるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画について、前回の小欄を踏まえて寄せられた意見は、賛否を問わずギャンブル依存症への懸念が目立った。
IR整備計画の賛否を巡っては、今年4月に投開票された大阪府知事選でも論戦が展開されてきた。地域政党「大阪維新の会」代表として、再選を目指して出馬した吉村洋文氏(現府知事)は大阪経済の成長戦略としてIR計画をアピール。誘致の是非は府議会と大阪市議会でそれぞれ可決され「決着済み」との立場だったが、対立候補5人が依存症患者の増加などを懸念し、IR誘致への反対姿勢を示した。
ただ、大阪府豊中市の社会保険労務士、山端誠さん(58)は、反対派が選挙のたびにギャンブル依存症への懸念を強調しながら「反維新」ばかり連呼している現状への違和感を訴える。
《ギャンブル依存症に悩む本人や家族を置き去りにして、反IRを政争の具にしている》と指摘し、《なぜパチンコや公営ギャンブルについての反対運動を起こさないのか不思議に思う》と皮肉った。
■ギャンブル依存症ってどんなもの?
一方、大阪IRの予定地、人工島・夢洲(ゆめしま)がある大阪市此花区在住の金光順子さん(62)は《身近に(ギャンブル依存症で)苦しんでいる人を見聞きし、じくじたる思いでいた》と計画に反対する。
整備計画が浮上するまで《国は依存症問題に真剣に向き合わず、対策に取り組んでこなかったのではないか》と疑問を呈す。その上で《誘致をやめれば、少なくともカジノによる依存症患者を生まないようにすることはできる》とつづった。
賛否双方が懸念するギャンブル依存症とはどういったものなのか。依存症の専門治療を行う独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)によると、借金や離婚など生活に大きな支障が生じるにもかかわらず、ギャンブルを続けたいという衝動を抑えられない「病態」としている。
患者の脳内では「脳内報酬系」と呼ばれる部位に機能異常が発生。ギャンブルで勝つと、この部位が強く反応し脳内に快楽物質「ドーパミン」が大量に分泌される。だが、継続すると楽しさを感じられなくなる一方、ギャンブルへの欲求だけが高まり続けるという。
■頭ごなしに反対するのではなく…
このような依存症の実情を踏まえれば懸念を抱くのも理解できる。 ただ、反対派であっても少し違った視点を持つのは、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」大阪支部の中島康晴さん(41)。自身もかつてパチンコで生活が破綻し、現在はその経験を生かして当事者の再起を支援する。
IR開業に向け、国や府市は依存症対策として、日本人のみを対象にカジノの入場料を6千円に設定。依存症者の家族から申告があれば、マイナンバーカードでの身元確認時に入場を制限する。大阪では依存症患者の相談と治療をワンストップで行う支援センターを立ち上げる方針だ。
こうした取り組みを中島さんは十分ではないと指摘するものの、「IR計画の是非が議論されることでギャンブル依存症が病気であり、治療が必要との認識が社会に広まれば」と期待する。
前回触れたように、既にパチンコに加え、競馬などの公営ギャンブルは身近にあふれ、新たにカジノが開業したところで依存症患者が急激に増えるとは考えにくい。中島さんが言うようなメリットもあるなら、頭ごなしに反対するのではなく、幅広く依存症対策について議論するきっかけにすべきではないだろうか。
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今回のテーマを担当するのは…大阪社会部 山本考志(やまもと・たかし)。
平成19年入社の40歳。大阪府庁キャップとしてIR取材に関わる。部内随一の堅物キャラ(?)でギャンブルとは縁がない。だが、たばこだけはやめられず、依存症の深刻さは身に染みている。
◆みなさんの意見を募集します
「世論(せろん)」と「輿論(よろん)」は近年同一の意味とされています。しかし、かつて、世論は世間の空気的な意見、輿論は議論を踏まえた人々の公的意見として使い分けられていました。本コーナーは、記者と読者のみなさんが賛否あるテーマについて紙上とサイトで議論を交わし、世論を輿論に昇華させていく場にしたいと思います。広く意見を募集します。意見はメールなどでお寄せください。
元稿:産経新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【話題・連載・「世論輿論」】 2023年08月06日 15:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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