【卓上四季】:最も豊かな大統領
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:最も豊かな大統領
部外者が迷い込んだと思われたのだろう。議会の議員専用駐車場に年季の入ったスクーターで乗り付けた時のことだ。飛んできた係員が、「ここに長くいるつもりですか」と尋ねると男性は答えた。「そう願います」。ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカさんの初登院の逸話である(「ホセ・ムヒカの言葉」双葉社)
▼以来四半世紀、国民とともに歩んだ。大統領在任中は、福祉住宅の建設を進めるなど徹底した貧困対策を実施。同性婚の合法化など国際的にも注目を集めた▼政界引退の表明に惜しむ声が絶えないのは清廉な姿勢ゆえか。収入の9割を寄付し、残りは学校建設のため貯蓄した。郊外の小さな農場に暮らし、1987年製「ビートル」で通う姿は、世界で最も貧しい大統領と呼ばれた▼本人は「貧乏な人とは、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人たちのこと」という。そう訴えた8年前の国連会議の演説は「最も衝撃的なスピーチ」と称賛された▼60年代には格差是正を目指し、ゲリラ組織を創設。軍事政権下で13年の獄中生活を送ったが、憎しみを持ったことはない。「憎悪は毒。私たちを滅ぼすだけだ」という▼個人資産が愛車分の1800ドルという年もあったそうだ。就任1年目に納めた所得税が約750ドルと報道された超大国の大統領もいるが、こちらは脱税を疑う指摘も。豊かさの基準も随分と異なるようである。2020・10・24
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2020年10月24日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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