【衆院島根１区補選】：激闘の果てに〈上〉「逆風」直撃、まとめ役不在 崩れた保守王国
『漂流する日本の羅針盤を目指して』：【衆院島根１区補選】：激闘の果てに〈上〉「逆風」直撃、まとめ役不在 崩れた保守王国
２８日に投開票された衆院３補選で唯一の与野党対決となった島根１区補選は、立憲民主党が勝利を手にし、自民党は小選挙区制度導入以降、島根で初めて議席を失った。総力戦の激闘の末、与野党に突き付けられた課題を追い、政治が果たすべき役割を考える。
２８日午後８時過ぎ、松江市内であった自民新人の錦織功政氏（５５）の報告会は、過去の選挙とは違う光景が広がっていた。
長年、議席を守ってきた故・細田博之前衆院議長は開票直後の当選確実が当たり前だったが、今回は立民候補に約２万５千票差をつけられての完敗だった。
「私の非力によって当選できなかった」。深々と頭を下げる錦織氏の横で、青木一彦参院議員（鳥取・島根合区選挙区）ら陣営幹部は口を真一文字に結び、天を仰いだ。報告会は１３分で終了。支持者の見送りを終えると、島根県連の細田重雄会長は「残念だ」と言い残して取材陣から逃げるように会場を去った。
終了後、集まった県連幹部は戦況に言葉少なだった。細田前衆院議長は少なくとも「平成の大合併」が始まった２００４年以降の総選挙で、一度も市町村別で他候補に負けたことはなかったが、今回は選挙区内９市町村のうち、知夫村と隠岐の島町を除く７市町で負けた。
■誰が出ても同じ
敗因は明らかだった。自民派閥の政治資金パーティー裏金事件の逆風が身内を直撃した。山陰中央新報社の投票当日の出口調査で、自民支持層の７５％が裏金事件を重視したと回答。２６％が立民候補に投じた。
「逆風が吹くと新人候補を勝たせることができないのが今の状況。このままでは次に誰が出ても同じになる」。２１日に安来市内であった座談会で、岸田文雄首相に「政治とカネの問題で恥ずかしい気持ちでいっぱいだ」と怒りを伝えた伯太支部の藤原敏孝支部長がやるせなさをにじませた。県議の一人は「地元をまとめる者がいなかった」と嘆く。
連立政権を組む公明党の推薦は告示前日までずれ込んだ。裏金事件を踏まえた慎重論が党内で強かったためだ。物語るように２３日の記者会見で山口那津男代表は自身が応援入りする予定は「ない」と言い切った。出口調査では公明支持者の２８％が立民候補に流れた。
■歯車かみ合わず
党本部主導の選挙戦は最後まで地元と歯車がかみ合わなかった。
松江市内の選挙事務所には党本部職員や選挙プランナーが常駐。告示前を含め延べ１３５人の国会議員が派遣されて企業や業界団体を回ったが、地域支部の関係者らは誰がどこで支持を訴えているのか把握していなかった。
「今更誰にも声はかけられない」。選挙戦最終日の２７日夕、首相の２度目の島根入りに伴い、支持拡大に向けて急きょ業界団体や県連関係者らが集められた会合の終了後、出席者は冷ややかだった。
選挙区に張り付いた小渕優子選挙対策委員長は２８日、落選の報に東京・永田町の党本部で「責任の重さを誰よりも痛感している」と唇をかんだ。
次期衆院選での議席奪還には組織の立て直しが急務だが、主導する「まとめ役」は不在だ。いかにして「王国」を再建していくか。県連幹部は「全く白紙。どうなるか分からない」と声を落とした。
元稿：山陰中央新報社 朝刊 主要ニュース 特集 【選挙・衆院島根１区補選】 ２０２４年０４月３０日 ０４：００：００ これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
