【社説①】:邦画の制作現場 劣悪な環境は業界の危機招く
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:邦画の制作現場 劣悪な環境は業界の危機招く
日本映画の制作スタッフが長時間労働と低賃金を強いられている問題は長年、放置されてきた。業界が一体となって制作現場の働き方改革を早急に進めねばならない。
邦画の制作現場に、撮影時間や休憩時間などのガイドラインを取り入れ、作品が適正な労働環境で作られたかどうかを審査する認定制度が4月から始まった。
新たに設立された「日本映画制作適正化機構」が審査を担い、適正と判断した作品に「映適」マークを付与するという。大手映画制作会社、制作プロダクション、スタッフの各団体が同じテーブルにつき、制度を始動させた。
劣悪な労働環境を放置すれば、人手不足が恒常化し、残ったスタッフはさらなる負担を強いられることになる。作品の質が低下し、ベテランから若手への技術の継承が滞ることも避けられない。
今回の対応は、映画産業が衰退しかねないとの危機感を業界全体が共有したことの表れだ。
問題の根底にあるのは、日本の映画界独特の雇用環境と慣習だろう。撮影や照明などのスタッフの大半が、映画会社の社員ではなく、フリーランスという弱い立場で制作に加わっている。
経済産業省が2019年に行った実態調査では、フリーランスの6割強は、映画制作関連の収入が年300万円未満だった。発注書や契約書を受け取っていないという人も6割を超えている。
労働条件を口頭で聞いただけでは、不当な長時間労働を強いられた場合でも抗議しづらい。コロナ禍などで撮影が中止になっても、契約書がなければ補償を受けることも困難だ。
映画の撮影は天候に左右されることが多く、スタッフの拘束時間が長くなるのはやむを得ない面もある。とはいえ、映画が好きだからというスタッフの熱意だけに頼って現場を維持する仕組みが限界に来ているのは明らかだ。
今回作られたガイドラインは、制作会社に契約書などの交付を義務付けている。1日の作業・撮影時間の上限は13時間とし、2週間に1度は完全休養日を設けることも盛り込んだ。
ただ、映適マークは、劇場公開の条件という強制力を持っているわけではない。審査を担う機構職員も現在は4人しかおらず、現場に目が届く体制とは言い難い。
今回の試みを機に、映画関係者一人一人が労働環境の改善を図る意識を高め、ガイドラインの順守と拡充に努めることが大切だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月08日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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