【社説・06.03】:上場企業の決算/賃上げ持続へ一層努力を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・06.03】:上場企業の決算/賃上げ持続へ一層努力を
大企業を中心とする上場企業で好決算が相次いだ。証券会社の集計によると、2025年3月期の純利益は計約48兆5千億円に上り、4年連続で過去最高を更新した。
しかし、26年3月期は一転して減益を予想する。トランプ米政権による高関税政策の影響が懸念されるためである。
最も打撃を受けそうなのが自動車で、トヨタ自動車は純利益が34・9%減るとの見通しを発表した。ほかには海運や鉄鋼など幅広い業種で業績悪化を見込む。
米政府は関税策で場当たり的な判断を繰り返し、日本企業にとっても経営上の大きなリスク要因となっている。だが、先行きが不透明だからといって守りの姿勢に陥れば、稼ぐ力は先細りする。
設備投資や研究開発を進めて成長が期待できる「次の一手」を探し、生産性を高めるなどして持続的な賃上げにつなげることが重要だ。物価高をカバーする賃金上昇が実現しなければ個人消費は低迷し、経済の好循環はさらに遠のく。
会社の稼ぎをどの程度人件費に回しているかを示す労働分配率は、資本金10億円以上の企業が中小企業よりも低く、低下傾向にある。一方、配当増で株主還元に努める大企業は多い。内部留保も積み上がっている。賃上げの余力は十分にあるはずだ。価格交渉を通して、取引先の中小・零細企業の賃上げを可能にすることも求められる。
兵庫県内に本社や本店を置く上場企業67社の25年3月期決算は、半数に当たる33社で減益となった。
原材料費や仕入れ値、物流コストが上がり、卸売業や食品メーカーなどが振るわなかった。売上高が伸びながら原料高の価格転嫁が追いつかず利益を減らした会社もあった。他方、製造業は円安の恩恵を受けた。川崎重工業は航空機エンジンなどが好調で売上高が初めて2兆円を超えた。神戸製鋼所は純利益が過去最高となった。
不確実性が高まっていることから県内企業の大半は26年3月期の業績予想に関税の影響を織り込まず、半数超の38社が利益増か黒字転換するとした。米国が打ち出した相互関税策は迷走しているが、日米交渉で税率が抑えられた場合には底堅い業績が期待できそうだ。
米国の保護主義的な政策は大統領が代わっても続く可能性がある。決算発表の場で、長期的な対応の必要性を語る経営者もいた。今後、生産拠点の見直しや海外販路の多角化などを迫られるケースが出てくるだろう。困難な状況だからこそ、顧客や社会のニーズにさらに応える事業を展開してほしい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年06月03日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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