【社説②】:ミャンマー情勢 徴兵は人道危機を一層深める
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ミャンマー情勢 徴兵は人道危機を一層深める
3年前の政変で実権を握ったミャンマー軍が徴兵制を導入した。
反軍勢力との戦闘に備える狙いのようだが、これでは経済的苦境を抜け出せないどころか、内戦の危機を高めかねない。
徴兵は、18~35歳の男性と18~27歳の女性の計1400万人以上が対象だが、女性は当面除外される。年に6万人程度を招集し、2~3年間の兵役に就かせる。徴兵を拒否すれば、最長で懲役5年の刑を科されることになる。
最大都市ヤンゴンなどでは、3月末に最初の徴兵対象者が軍の訓練施設に集められた。
ミャンマーでは昨秋以降、反軍勢力が攻勢に出て軍の拠点を次々に攻略した。軍では投降や逃亡が相次ぎ、30万~40万人とされた兵員数は現在、半減しているという。徴兵制の導入は、志願者だけでは兵力を補えなくなったためだ。
軍が2月に徴兵開始を発表すると、徴兵を逃れようとした国民が旅券の申請窓口に殺到したり、地元を離れて別の町で身を隠したりする動きが広がっている。
徴兵されれば、民主派や少数民族との戦闘の最前線に送られる。国民同士で戦うことを嫌っている人が多いのではないか。社会が混乱するのも当然だろう。
軍はまた、徴兵とは別に、迫害しているイスラム系住民ロヒンギャを強制的に連行し、戦闘に参加させているという。民族浄化の意図があるとすれば許しがたい。
国連によると、クーデター以降、戦闘の激化によるミャンマー国内の避難民は270万人を超えている。食料や医薬品の不足も深刻化しており、人口の3分の1にあたる1860万人が支援を必要としているとされる。
困窮した住民の中には、サイバー詐欺などの犯罪に手を染める人も多いようだ。
軍の強権統治はかえって国情の不安定化を招いている。
国連安全保障理事会の決議に従って、まずは軍が暴力を停止することが不可欠だ。拘束しているアウン・サン・スー・チー氏を解放し、民主派や少数民族との対話を始める必要がある。
世界の目は、ロシアによるウクライナ侵略や中東の紛争に向けられており、ミャンマー情勢への関心は薄れがちだ。
だが、アジアの安定に責任を持つべき日本は、ミャンマーの危機を見過ごしてはならない。軍に対し、暴力と弾圧をやめない限り、政変後に停止した支援の再開はありえないと訴える必要がある。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月07日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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