【社説①】:日本郵政の経営 将来像を議論すべき時期だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:日本郵政の経営 将来像を議論すべき時期だ
収益が悪化する郵便事業をどう立て直し、全国に広がる郵便局のネットワークを維持していくのか。政府・与党は、日本郵政の将来像について、議論を深めてほしい。
自民党の議員連盟が郵政民営化法の改正案の骨子を示した。持ち株会社の日本郵政と、傘下の日本郵便を合併させることが柱だ。日本郵政が、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社の株式を一定程度保有する規定も入れた。
郵便事業の収益を改善し、郵便局網の維持を図る狙いがあるという。今国会に議員立法として提出することを目指している。
2007年の郵政民営化後、12年の法改正で旧郵便事業会社と郵便局会社が合併し、日本郵便となった。その後の郵便事業を巡る環境の変化は大きい。
デジタル化が加速し、郵便物は01年度のピーク時からほぼ半減した。一方で、配達の人手を大幅に減らせないため、日本郵便が担う郵便事業の営業利益は、22年度に民営化後、初の赤字となった。
日本郵政の将来像を再考すべき時期にあると言えよう。
だが、自民党の改正案には疑問点が多い。合併で郵便事業をどう立て直すのか判然としない。日本郵政が金融2社の株を持ち続ければ、全株式を売却し、完全民営化を図るという郵政民営化の方針を大きく転換することになる。
郵政民営化では、金融サービスの成長も期待されている。
日本郵政は現在、ゆうちょ銀株を約60%、かんぽ生命株を約49%保有する。全株式の売却を進めれば、新規事業を始める際の規制が段階的に緩和されて経営の自由度が増し、金融サービスを成長させることが期待されるからだ。
これに対し、自民党案のように日本郵政が金融2社の株を持ち続ければ、かえって成長を妨げることにならないか。郵便局は、金融2社からの業務受託手数料が収益の柱で、利益が減りかねない。
全国約2万4000の郵便局は、基本的な金融・保険サービスを提供する窓口ともなっている。銀行などが拠点を減らす中、郵便局網の重要性は高まっている。
日本郵政の収益の8割は、金融2社が稼いでいる。日本郵政が金融2社の株式をすべて売却した後も、郵便局は金融2社にとって、主要な販売経路になるだろう。
その場合、現行規定のままでは、郵便局と金融2社が、長期的に安定した関係を維持できない懸念がある。日本郵政も、積極的にあるべき姿を提示してもらいたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月07日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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