【社説①】:京アニ死刑判決 思いとどまれた犯行だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:京アニ死刑判決 思いとどまれた犯行だ
「妄想」はあったが犯行は思いとどまれたはず-。それが裁判員らの下した判断だった。36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告に、京都地裁は求刑通り死刑を言い渡した。完全刑事責任能力を認めた判断だが、被告が最後まで、犯した罪を心底悔いる境地に至っていないように見えたことこそ遺族らの無念だろう。
被告は事件で自らも大やけどを負ったが、懸命の治療で生還。昨年9月から22回、集中的に進んだ裁判員裁判の公判で、生い立ちや動機を計約25時間述べた。起訴内容は認めており、最大争点は、刑事責任能力の有無や程度だった。
動機については、京アニのコンクールに小説を応募したが「闇の人物」の指示で落選し、京アニに盗用された-などと供述。弁護側は妄想による心神喪失か心神耗弱の状態で無罪か刑の減軽を求めたが、検察側は「うまくいかない人生を京アニに転嫁した」と指摘、盗用と思い込んだ末の「筋違いの恨み」による復讐(ふくしゅう)だと主張した。
判決は、被告が「妄想性障害」で、動機の形成にそれが影響したと認めつつ、放火殺人の選択は、妄想とは無関係の被告自身の判断だったと結論づけた。放火直前、現場付近で十数分間座り込んだことを「こんな悪党にも良心の呵責(かしゃく)があった」と被告が供述したことに基づき、「思いとどまることもできたのに自分の意思で犯行に及んだ」と刑事責任能力を認めた。
被告は、小学生時代に両親が離婚、自分を引き取った父親から日常的に虐待を受けた-と述べ、弁護側は、こうした社会的な孤立が妄想の世界に進む遠因だったとした。しかし、判決は「犯行当時41歳でもあり、事件への影響は限定的」として「非難を減じる事情ではない」と断じた。
被告は、結審直前の公判で、ようやく、妻を殺害された男性らに「申し訳ないと思います」と、小声で謝罪を口にしたものの、公判中には、遺族らの感情を逆なでする発言も。自分の罪に向き合い、犠牲者や遺族の無念に思いを致すことができたとは言い難い。
公判は、動機▽刑事責任能力の有無▽量刑-の3段階で進み、検察・弁護側の冒頭陳述も各3回行われた。膨大な裁判資料と取り組んだ裁判員の理解を助けるためだったという。さらに検証し今後の重大事件審理に生かしてほしい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年01月26日 07:43:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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