《社説①・03.29》:80年談話見送り 平和国家の使命放棄
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・03.29》:80年談話見送り 平和国家の使命放棄
党内力学を優先して見送るのは、平和国家の使命の放棄である。
閣議決定による戦後80年の「首相談話」の策定だ。石破茂首相が見送る意向を固めた。
戦後の首相談話はこれまで、50、60、70年と10年ごとに発表してきている。石破首相も歴代内閣の立場を全体として引き継ぎ、歴史認識や平和国家としての決意を示す談話を公表する方向だった。
ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルのガザ攻撃などで国際情勢が緊迫化し、核による威嚇も起きている。台湾有事もささやかれる。再び惨禍を起こさないため、悲惨な結果を招いた先の大戦を検証し、新たな見解を示す必要があるとの判断だった。
唯一の被爆国として、国際社会に平和の尊さを訴える意義も大きいはずである。
それなのに、自民党内の保守派を中心に根強い異論が噴出した。
戦後50年の村山首相談話と60年の小泉首相談話は、アジアの国々に対する「植民地支配」や「侵略」を認め、「痛切な反省」と「心からのおわび」を表明した。
これに対し、70年の安倍首相談話は四つのキーワードを入れた上で、将来の世代に「謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」とも主張した。党内保守派には、安倍首相談話で「謝罪外交」に区切りがついているとして、新たな談話は不要との意見が根強くある。
石破首相は最終的に、首相談話を出すことで歴史認識を巡る論争が再燃し、党内基盤が揺らぐことを恐れたとみられる。高額療養費制度の見直し凍結に至る迷走や、商品券配布問題で、内閣支持率が急落していることも理由だろう。
代替案として、首相の私的諮問機関で先の大戦を検証し、記者会見などで首相が個人的な見解を表明することを検討する。教訓を共有し、平和国家としての決意を示すというものの、歴史認識には踏み込まない見通しだ。より「穏便」な形を模索するという。
重視すべきは、党内への配慮や政権基盤の維持といった内向きな志向ではない。国際社会の中で、日本が平和国家としての役割をどう果たすか―の表明である。
侵略と植民地支配に対する反省が薄らげば、平和への決意を示しても中国などアジア諸国の疑念を生み、説得力も失われよう。
緊迫化する国際情勢の中で、日本が歴史を直視し、力による現状変更の危険性を世界に訴える意義は大きい。この10年の情勢を踏まえ、平和を希求する「首相談話」を出すべきである。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月29日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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