【大谷昭宏のフラッシュアップ・04.17】:川勝氏の発言、記者たちは「一発退場」と思わなかったのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大谷昭宏のフラッシュアップ・04.17】:川勝氏の発言、記者たちは「一発退場」と思わなかったのか
第一報は読売新聞静岡版の囲み記事。強く批判するわけでもなく「再び議論を醸しそうだ」としていた。
静岡県の新職員入庁式。「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的にみなさま方は頭脳、知性の高い方たち」。失言ではすまされない差別感にあふれた暴言。発言した川勝平太知事は先週10日、辞職した。
報道の翌日、「辞任表明は読売のせい。発言の一部を切り取られた」と憤る知事と「切り取りも中略もしていない」と反論する読売の女性記者との緊迫したやりとりが記録されている。
そのなかで知事は「メディアの質の低下も感じるようになって誠に残念」と語っている。この人には言われたくないと思いつつ、知事の発言を「切り取る」形にはなるが、私は今回の件では知事とは別の視点でメディアを残念に思っている。
県職員の入庁式という大事な取材現場。私が夕方のニュース番組に出演している静岡朝日テレビをはじめ、県政記者クラブ加盟のほぼ全社が知事のあいさつを取材していたという。
そのなかで飛び出した発言。これは一発退場と思わなかったのか。日々こうした仕事をしている人はもちろん、子どもや家族が「頭脳が、知性が」と言われて、どんな気持ちになるか。結果、2800件も抗議が来た発言に、記者は心がざわつくことはなかったのか。
振り返れば、政界の長老と言われる人たちが女性や他民族、他国の人々をさげすんだ発言をしても、追及するどころか、「○○節」「○○語録」と揶揄(やゆ)してすませてきた中央メディアのこんな姿が、一線の記者の心まで干からびさせてしまったのか。
春4月、はるか昔の新聞社の入社式。当時の編集局長の式辞が浮かぶ。
「家族を愛し、近隣を大切にし、日々、額に汗して懸命に働いている人たちが、首を長くして待っていてくれる新聞を作りなさい」
いまも、すべての記者に届けたい言葉だ。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)
ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。
■大谷昭宏のフラッシュアップ
元読売新聞記者で、87年に退社後、ジャーナリストとして活動する大谷昭宏氏は、鋭くも柔らかみ、温かみのある切り口、目線で取材を重ねている。日刊スポーツ紙面には、00年10月6日から「NIKKAN熱血サイト」メンバーとして初登場。02年11月6日~03年9月24日まで「大谷昭宏ニッポン社会学」としてコラムを執筆。現在、連載中の本コラムは03年10月7日にスタート。悲惨な事件から、体制への憤りも率直につづり、読者の心をとらえ続けている。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「大谷昭宏のフラッシュアップ」】 2024年04月16日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。