【社説・05.10】:規正法与党合意 資金の透明化が不十分だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.10】:規正法与党合意 資金の透明化が不十分だ
自民党派閥の裏金事件後、衆院3補選で全敗した岸田文雄首相にとって、今国会での政治資金規正法改正は最重要課題だ。自民、公明両党はようやく改正に向けた与党案に大筋合意したが、この案のままでは政治資金の透明化は不十分だ。改革の本気度が疑われても仕方がない。
与党案は、パーティー券購入者名の公開基準額で、現行の「20万円超」から引き下げることで合意した。しかし、具体的な額は先送りされた。政策活動費については、支払いを受けた政治家が使途を報告し、党が政治資金収支報告書に記載するとした。企業・団体献金の是非には言及しなかった。
より踏み込んだ改革案を示していた公明党に対し、自民党が歩み寄った形だ。だが派閥の裏金事件で露呈した金権政治が、これで変わるとは思えない。
野党各党は、さらに厳格な内容の改正案を示している。岸田首相の使命は、政治への信頼を取り戻すことにある。野党の提案を真摯[しんし]に受け止め、実効性の高い規正法改正が実現するよう与野党で議論を尽くしてもらいたい。
政党から政治家個人に支給される政策活動費は、受け取った政治家に使途を報告する義務がなく、「ブラックボックス」と批判されてきた。野党各党は改正案で、制度そのものの廃止を打ち出している。
自民では長年、幹事長ら党幹部が党から政策活動費を受け取ってきた。二階俊博元幹事長は、在任中の5年余りで約47億8千万円を受領していた。これほど巨額の政治資金を、受け取った幹部は領収書提出の義務もなく自由に使える。その差配が「権力の源」となってきたのは想像に難くない。使途を非公開のままにしておきたいというのが本音だろう。党内では公開に後ろ向きな声が根強い。
自公の合意では「使途を報告する」としたものの、どこまでの細目を、どんな範囲で公開するのかはっきりしていない。「公開」という表現に本当に見合う中身になるのか、今後の成り行きを注視していく必要がある。
企業・団体献金にも何らかの歯止めが必要ではないか。2022年分の自民の収支報告書によると、自動車、鉄鋼業界や防衛産業などを中心に献金の総額は24億5千万円に上っている。
自民は政治活動の自由やプライバシー保護などを理由に情報公開を拒んできた。しかし仮に、国民の目の届かないところで買収や癒着などの不正行為が行われ、政治活動の公平性が損なわれるような事態を招けば、本末転倒ではないか。規正法は、政治活動が「国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」ことを目的としている。その理念を忘れてはならない。
国会では、与野党ともに真剣な議論を望みたい。衆院解散をにらみ、改革の実績づくりや政権攻撃としての議論に終始するようでは、国民の政治不信は深まるばかりだ。
元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月10日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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