【日本外交と政治の正体・12.23】:「反撃能力」「敵基地攻撃」から新たな戦いが…単純な感情論では日本は守れない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日本外交と政治の正体・12.23】:「反撃能力」「敵基地攻撃」から新たな戦いが…単純な感情論では日本は守れない
政府は16日の臨時閣議で、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つの文書を決定した。
「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」には、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」を保有することを明記している。「反撃能力」はこれまで、「敵基地攻撃能力」とも呼ばれてきた。
多くの人はこれで日本の安全が高まったーーと思っているだろうが、全く逆である。そのことを考えてみたい。
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仮に「敵基地攻撃」「反撃」が成功したとしても、戦争はさらに泥沼化してゆく(ウクライナ南部ヘルソン州の前線で、砲撃するウクライナ軍)/(C)ロイター=共同
戦争の歴史で、「敵基地攻撃」が戦術的に最も成功した例として、真珠湾攻撃がある。戦艦、爆撃機などに多大な損傷を与え、米側戦死者は約2400人に上った。
確かに「敵基地攻撃」は成功した。しかし当時の日本と米国の国力の差は「1対10」ぐらいの格差があり、結局、日本は軍人212万人、民間人は50万~100万人の死者を出して降伏した。
1941年6月22日、ナチスは当時のソ連に対してバルバロッサ作戦と呼ばれる奇襲攻撃を敵基地などに仕掛け、ソ連の航空機2万1200機、戦車2万500両を破壊した。だが、最終的にはドイツは大量の死者と国土の破壊の下、降伏した。
戦争は「敵基地攻撃」や「反撃」で終わらない。最終的には国力、軍事力の差が勝敗を決めるのである。最近のウクライナ戦争を見ても、ウクライナは10月8日にクリミア大橋の爆破に成功したものの、その後、どうなっただろうか。これを契機にロシアは電力やその他のインフラを爆撃した。
ウクライナは12月5日にも、ロシア領内の空軍2基地に対してドローン攻撃をした。これを受け、ロシアは一段と激しく、ウクライナのインフラを攻撃することになった。
ウクライナでは今、電力や暖房の供給不足が深刻化している。ゼレンスキー大統領はオンライン形式でウクライナ支援会議に参加した際、「少なくとも8億ユーロの緊急支援が必要だ」と訴えた。
つまり「敵基地攻撃」や「反撃」が仮に成功しても、それが終わりではない。そこから新たな戦いが起こるのだ。
中国は今や2000発以上のミサイルで日本を攻撃できる。北朝鮮も300発以上のミサイルで日本を攻撃できる。さらに両国ともに核兵器を保有している。
日本が中国や北朝鮮に「敵基地攻撃」や「反撃」すれば、中国や北朝鮮の軍備を一掃できるとでも思っているのであろうか。彼らが怯えて「ごめんなさい」とでも言うと思っているのか。
「殴り返したい」。そんな単純極まりない感情論で日本の国は守れない。

1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
元稿:日刊ゲンダイ DIGITA 主要ニュース 政治・社会 【政治ニュース・連載・「日本外交と政治の正体」】 2022年12月23日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。