【社説】:岡山女児虐待死 悲劇根絶へ体制整えよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:岡山女児虐待死 悲劇根絶へ体制整えよ
虐待が見過ごされ、幼い命がまたも犠牲になってしまった。岡山市で昨年9月、当時5歳の西田真愛(まお)ちゃんが救急搬送され、4カ月後の今年1月に低酸素脳症で亡くなった。
岡山県警は、母親と交際相手を、椅子の上に置いた鍋の中に真愛ちゃんを長時間立たせたとして強要容疑で逮捕。さらに先週、真愛ちゃんを窒息状態に至るまで布団にぐるぐる巻きにして死亡させたとして、逮捕監禁致死容疑で再逮捕した。
2人による虐待が真愛ちゃんの死に結び付いたことは明らかだ。なぜ防げなかったのか。捜査とは別に、児童相談所など行政側も事実関係を洗いざらい明らかにして、再発防止に向けた道筋を示さねばならない。
母親は2018年12月ごろ、広島市から岡山市に転居した。直後から、真愛ちゃんの虐待通報が近隣住民から児相に何件も寄せられていたという。
19年4月には顔にあざがあるのを児相が確認している。20年9月には交際相手が、夜の墓場で全裸のまま目隠しされた真愛ちゃんを叱っているところを110番通報されている。
明らかに常軌を逸した仕打ちである。その時に刑事事件として処罰されていれば、今回の悲劇にまでは、つながらなかったかもしれない。胸が痛む。
児相は110番の際、真愛ちゃんを一時保護したのに2週間で解除した。虐待リスクの判断は4段階で最も下位の「軽度」のまま。最も深刻な「最重度」への変更は、死につながった救急搬送後だった。なぜ「軽度」を見直さなかったのか。児相は経緯を検証することが必要だ。
児相が交際相手に接触したのは110番から救急搬送までの約1年間、電話による1回だけだった。対応が甘すぎないか。
交際相手による虐待事例が多いとして厚生労働省は特段の注意を呼び掛けている。交際相手には別に家庭があり、同居者でなかった事情があるにしても、今回のケースでの対応には首をかしげざるを得ない。
厚労省によると、18歳未満の虐待で児相が対応した件数は20年度に全国で20万件を超えた。1990年度の200倍近い過去最多の数字で、虐待死も57人に上っている。
虐待対応に当たる児童福祉司などは全国的に不足しており、若いスタッフの経験不足も指摘されている。悲劇が繰り返される背景には子どもを守る体制が追い付いていない面もあろう。
幼い子どもも一人の人間として尊重される社会環境が求められる。実現する責任は、私たちにもあるのではないか。
親権者が「しつけ」を口実に子どもを虐待しないよう、政府の法制審議会が民法の懲戒権の規定を削除する答申をしたのも当然だ。しつけに対する意識改革も進めていく必要がある。
23年度には「こども家庭庁」が創設される。国会に出された法案には虐待に連帯して対応することもうたわれている。ただ掛け声だけでは不十分だ。虐待防止の責任の所在を明確にし、児相や警察、医師などが連携できる「横串」が欠かせない。
子どもが健やかに成長する社会を築くために何が必要か。報告、連絡、相談の徹底という従来の取り組みを繰り返すだけでなく、抜本的な対策を模索、実行していかなくてはならない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月07日 06:46:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。