【人生100年時代の歩き方】:「めっちゃ儲かるやん」は本当? 売り上げ、納付金、年間来客数への素朴な疑問
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【人生100年時代の歩き方】:「めっちゃ儲かるやん」は本当? 売り上げ、納付金、年間来客数への素朴な疑問
大阪府と大阪市のカジノを含むIR(統合型リゾート施設)にゴーサインが出た。計画では、経済波及効果が年間1兆1400億円、雇用創出を年9万3000人としており、早くも関西経済界は「捕らぬ狸のナントカ」で電卓を叩いている。大阪府の吉村知事も「大きな一歩」と発言しているが、そんなにカジノって儲かるのか?
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大阪IRのイメージ図(MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス提供)
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大阪IRの整備計画に国のOKが出たことで、大阪府・市は当初の計画通り2029年の秋から冬ごろの開業を目指す。
計画では敷地約49万平方メートルに総床面積は約77万平方メートル。目玉のカジノ施設は1カ所に限られ、面積も施設全体の3%以内に制限されることになった。カジノへの入場の際は、日本人と在日外国人は6000円(24時間)の入場料が徴収される。
「IR全体の年間売り上げは約5200億円。来訪者は年間約2000万人を予定しています」(大阪府・IR推進局)
年間約5200億円のうち、8割に当たる約4200億円をカジノで稼ぎ、残りの1000億円が総客室数2500室のホテル、レストラン、ナイトエンターテインメント、国際会議場利用料などの売り上げになる。
大阪府・市にはIR事業者からの納付金が年間約740億円、さらにカジノ入場料約320億円の計1060億円が入ってくる見込みで、これを府と市で仲良く半分こする。住民福祉サービスやギャンブル等依存症対策(約14億円)、防犯や売買春抑止を含めた警察力の強化(約33億円)などに使っていく計画だ。また、年間来訪者2000万人のうち、約7割の1400万人は国内客となる見通しで、富裕層の訪日外国人を取り込むという当初の思惑からは大きく外れている。
「今回は、世界最大のカジノ企業である米MGMリゾーツが資本参加する『大阪』が選ばれ、オーストリアのCAIが参加する『長崎』は“待った”がかかった。業界2位の米シーザーズ・エンターテインメントの『和歌山』、同3位の米ラスベガス・サンズの『横浜』の動きが今後どうなるかに注目です」(カジノ事情に詳しいジャーナリスト)
“アメリカ”の威光が大きかったような気もするが、晴れて選ばれた大阪は大満足に違いない。なにしろ、1兆1000億円余りの経済効果が見込め、9万人を超す新たな雇用も生まれ、さらには年間1000億円超の納付金・入場料(ショバ代)も入ってくる。だが、それが「捕らぬ狸」にならないか、いくつか疑問点を挙げてみよう。
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ラスベガスのある米ネバダ州でもカジノ税の税収は年間743.8億円(2016年度)/(C)日刊ゲンダイ
◆年間5200億円の売り上げは多すぎないか?
世界最大のカジノ企業「MGMリゾーツ・インターナショナル」でも、年間の売上高は約1兆3000億円(2021年)。ラスベガスのシティー・センターやベラージオ、MGMマカオなど世界中で複数のカジノを運営する企業だ。これに対し大阪IRは1施設で5200億円を稼ぐつもり。ちょっと無謀のような気もするが、実現すればいきなり世界4、5位のカジノ企業に躍り出る。MGMリゾーツはコロナ中も苦戦したが、2022年12月期も営業利益は17億ドル(約2300億円)の赤字だ。
大阪IRの場合、大小50以上のカジノ施設があるマカオや同15カ所の韓国がライバルとなるほか、2021年に10兆円市場に達したオンラインカジノとも競争しなくてはいけない。
■1人6000円の入場料で客は入るのか?
大阪IRは入場料だけを見ても、1人6000円で、年間約320億円の収入と試算している。国に半分の3000円を持っていかれるので、大阪府・市は1人3000円もらえる。入場者は6000円払った時点でかなりの負け額だが、そういう人が約1060万人(回)足を運んでくれて、ようやく320億円になる計算。1日当たり約3万人だ。
前述の通り、カジノの面積は施設全体の3%に制限されるため、完成する施設は大規模パチンコ店が2つくらい入る程度のサイズ。そこに24時間営業とはいえ、訪日外国人とは別に1日3万人が詰めかけたら、ぎゅうぎゅう詰めどころの騒ぎではないはず……。
■年間約740億円の納付金は過剰では?
大阪IRは事業者から徴収する認定都道府県等納付金を年間約740億円と見積もっている。カジノ施設の設置及び運営者から徴収するショバ代のことだ。
ところが、首相官邸が公表している資料によると、ラスベガスのある米ネバダ州でもカジノ税による税収は年間743.8億円(2016年度=カジノ数は271施設)。このほか、スロットマシン(1台250ドル)やテーブルにかけるゲーミング税の77.8億円を足しても合計約820億円だ。
現在の為替に直せば1000億円ほどになるが、大阪IRは同じくらいの金額を徴収できると思っている。繰り返すが、大阪IRは1つの施設だ。
■年間2000万人も客は来るのか?
年間来訪者は日本人が約1400万人、訪日外国人が約600万人。カジノ目的だけの人もいるが、多くの人は会議やイベントで訪れることになるだろう。
しかし、カジノとの二枚看板である「国際会議場」と「展示場」の広さは計画段階からどんどん削られ、国際会議場(大小10室)が延べ1万2960平方メートル、展示場(ホールA、B)は延べ2万平方メートル。両方を合わせても東京ビッグサイトの3分の1、幕張メッセの4分の1しかない。ちなみに、東京ビッグサイトの年間入場者数は約1400万人、幕張メッセが約700万人なので、大阪IRの年間2000万人がどういう基準で出したのか謎だ。
大阪IRの初期投資額はおよそ1兆800億円で、約半分の5300億円をMGMリゾーツとオリックス、地元関西企業が出し、残りの約5500億円は銀行からの“借金”だ。「大阪にカジノができたら、めっちゃ儲かるやん」と思っている人がまだいたら、いま一度冷静になってみたい。
元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース マネー 【トピックスニュース・連載・「人生100年時代の歩き方」・大阪IR事業】 2023年04月23日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。