【岸田政権】:「国民年金の厚生年金による穴埋め」の正しい理解
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【岸田政権】:「国民年金の厚生年金による穴埋め」の正しい理解
八代尚宏・昭和女子大特命教授は毎日新聞政治プレミアに寄稿した。
国民年金の未納分を、「厚生年金などの被用者に押し付ける仕組みがある」と指摘した。
【写真】官邸での岸田首相 秘書官になった長男の写真も
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9月末に報道された「基礎年金(国民年金)の給付を5万円台に維持するために厚生年金給付の抑制で穴埋め」の記事は大きな反響を呼んだ。これは年金財政の維持のために、毎年、物価上昇率の範囲内で、年金給付の実質価値を抑制する仕組み(マクロ経済スライド)を、国民年金についてだけ早期に止め、その分を厚生年金の減額で穴埋めするものである。<button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button><button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38">
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衆院厚生労働委員会で質問に答える加藤勝信厚労相=国会内で2022年8月19日、竹内幹撮影(毎日新聞)
もっとも、これは厚生年金受給者の基礎年金部分にも適用されるため、その影響を受けるのは一部の高年金受給者と、基礎年金給付の半分を負担する財務省だけという説明で、批判は沈静化したようである。
◇基礎年金というブラックボックス
しかし、この基礎年金を通じた厚生年金加入者の見えざる負担増の仕組みは、今回に始まったわけではない。1985年に、被用者(サラリーマン)のための厚生年金・共済組合を用いて、自営業のための国民年金制度を救済するために、基礎年金というブラックボックスを作った知恵者がいた。これは別々の年金制度のままでは生じる給付と負担が不均衡の是正という名目であったが、現実には「取れるところから取る」ことが真の目的であった。
被用者保険の保険料は、所得税と同様に給与から天引きされるが、自営業の場合には自ら支払う仕組みで強制力が乏しいため、両者の間には保険料の徴収率に大きな格差がある。公的年金制度には、老後に安易に生活保護制度に依存しないために、勤労時に貯蓄を強制するという重要な機能があるが、これは自営業等の国民年金には十分に働いていない。
◇未納付者分を厚生年金納付者でカバー
国民年金保険料の未納付者が増えれば、すでに3000万人を超える国民年金受給者への給付をどう賄うか。それを厚生年金等の被用者に押し付ける仕組みが基礎年金にある。
基礎年金は、本来は、国民年金と厚生年金等の受給者に、おのおのの被保険者から集めた保険料をプールして案分する仕組みである。ここでおのおのの年金制度からの拠出額が、(未納付者を除く)実際に保険料を納付した者の比率で案分されていることが重要なポイントである。
このため、国民年金保険料の未納付者がいくら増えても、その分は厚生年金等の納付者の保険料負担増で知らないうちに補っていることになる。これは年金の専門家の間では周知の事実であるが、一般にはほとんど知られていない。
◇免除者を増やし納付率引き上げ
これに加えて日本年金機構(旧社会保険庁)の保険料徴収の仕組みは、国税庁の所得税徴収と比べても、著しく実効性を欠いている。これは「年金保険料を払わなければ、老後に年金が受け取れないだけで年金財政に影響はない」という論理による。
しかし、年金未納者を放置すれば、老後に無年金者になるため、生活保護受給者の増加に結びつきやすい。ところが「局あって省なし」の厚生労働省では、年金局は自分の都合しか考えていない。
それだけでなく、国民年金の保険料未納者の増加を、免除者を増やすことで覆い隠し、見かけ上の納付率の引き上げを誇っている。年金局の発表では、2021年度の保険料納付率は73.9%と前年度から2.4ポイント上昇した。しかし、納付を全額免除・猶予されている人数は前年度より3万人多い612万人で、全体の4割にも達している。こうした免除者等も含めた、実際の納付率は41.4%に過ぎない(日本経済新聞6月23日)。
産業構造の変化で被保険者数が傾向的に減少する年金制度の受給者救済は必要である。しかし、保険料未納付者の増加を放置するだけでなく、それを意図的に過小評価するような年金行政のあり方については、厳しい監視が必要だ。
元稿:毎日新聞社 主要ニュース 政治 【政策・社会保障制度・年金問題】 2022年10月23日 10:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。