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チラシの裏

エンジェル家から皇帝のかぎ煙草

2022年02月23日 | JDカー
■ロジャー・スカーレットは、
「エンジェル家の殺人」だけが古典的な本格探偵小説の形をしているけれど、
他の作品はどちらかというとプロットのヒネリをポイントにして、
バリンジャーといった作家に近いのでないか。
★昔の創元ならばネコマークですね。
■「エンジェル家」だけが見事に本格で、あの基本プロットを正史は「八……」
★そこから先はダメです。二流だと言いながらも借用したのは、
自分ならばもっとうまく書ける、という自信があったからでは。
■スカーレットの作品は女性の造形がうまいんだけど、
男性が探偵もその相棒も含めて印象に残らないだろう。
★作者が女性の二人組だからでしょうかね。
■女性の造形といえば、カーはほんとにワンパターンな女性しか書けなかったなあ。
★キャラクターについては、
「昔の知り合いを出しているだけ」とかなんとか言い訳していましたね。
■しかも男に都合のいい女性しか出てこない。
このあたりはカーの女性ファンが存在するなら感想をうかがいたい。
「皇帝のかぎ煙草入れ」のヒロインは金持ちで美貌で、
かつ男の暗示にひっかりやすい、という都合のいい女性。
★そうでないと、あのトリックは成立しないわけで。
■カーの作品の中で唯一女性視点の長編なんだけれど、
女性雑誌に掲載されることを前提に書いたはず。
しかも、たぶんロマンス小説のパターンを一部踏襲している。
★ハーレクインロマンスとかの?
■うん。「ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ」(尾崎俊介 平凡社新書)によると
人気だったのが「ドクター・ナースもの」。
★医者と看護師さんのラブロマンス、日本だと「愛染かつら」ですか。
■古いね。ただ、ハーレクインは第二次大戦後のスタートなので、
「皇帝の」を書いていたカーがハーレクインロマンスを読んでいたはずはない。
しかしハーレクインロマンスが後に備えるいろいろな条件、
たとえば男性側が医者、スポーツ選手といったハイクラスな地位にあること、
最後がハッピーエンドで終わること、などを一応備えてはいる。
★でも、女性視点の作品はこれっきり、ということは
ロマンス小説の販路開拓は失敗した、ということですね。
■前掲の「ハーレクイン」から引くと、まずライバルヒロインの不在。
★いわゆる金持ちお嬢様キャラですか。「皇帝の」では、ヒロイン自体がそれですからね。
■それと、そのヒロインが男に流されてばかりで能動的に動かないこと。
この作品をクリスティが誉めた、というのは眉唾じゃないかなあ。
トミーとタペンスものを書いたクリスティだよ。
トミーの尻を叩いて、自分も窮地にとびこむタペンス。
恋人、妻という立場でありながらも
精神的には自立している女性を描いたクリスティが誉めるとは信じられないなあ。
★でも「皇帝のかぎ煙草いれ」はミステリとしてすごく面白いじゃないですか。
■そこが、ロマンス小説としては失敗だったのでは。謎解きパートは必要ないし、
キンロス博士にセックスアピールがまったく無いところが致命傷だったんじゃないかねえ。
★探偵にセックスアピールが必要ならば、フェル博士もの、HM卿ものは問題外です。
でも、ああいうオジサマが好きという若い女性読者がいたことは確かですよ。
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