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ディクスン・カー試論 ネタ蔵 その4

2022年09月14日 | JDカー
『一角獣の殺人』に登場する、女性諜報部員のイヴリンは間違えてブレイクに合言葉で声をかけてしまう。
ポンコツ女性諜報部員というのは今でこそ萌えキャラではありますが、
いかにも男性優位社会のマスコット的な存在にしか思えません。
そういえば、カー作品に登場する若い女子たちは勢いはあるけれど、
肝心なところでは男に頼る、という風に描かれていることが多いです。
そういう女子が好きなんでしょうね、カーは。

男の言い分に流されやすい女子、という設定をトリックに使ったのが『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』なのですが、
出版と同時に(先か後かは分かりませんが)、イギリスの「Women’s journal」という雑誌に連載されました。
その雑誌は1927年から2001年まで発行されていて、
クリスティ、チャータリス、アリンガム、デュ・モーリア、ジョージェット・ヘイヤー、
ナイオ・マーシュ、ウェルズ、ウィンダムなど錚々たる面子が作品を寄せていたとあります(eng wikiより)。

この雑誌の読者が『皇帝の~』のヒロインに共感できるのか? と思い、
雑誌連載も『皇帝の~』一作限りだろうと評伝『奇蹟を解く男』の書誌を調べたら、
なんと『皇帝の~』以外のけっこうな数の長編作品が女性雑誌に連載されているじゃありませんか。
とくにその「Women’s journal」では常連に近い扱いだったみたいです。
日本の今なら「Women’s journal」は「婦人公論」ですかねえ。
本が出る同じタイミングで雑誌に分載(おそらくアブリッジ版)されているということは、
女性雑誌に載ることを前提で書いているはずです。
女性雑誌連載前提にした作品は、女性が重要人物として書かれている……、かどうかは検証が必要ですね。
さらに言えば、雑誌連載はエージェントの仕事で、カーは直接に関与していない可能性もあります。
それは、それとして表を眺めていると、30年代後半から40年代前半がカーの人気のピークだったのですね。

雑誌連載
1937年『四つの凶器』 Woman’s journal  37年12月―38年4月
1937年『孔雀の羽根』 The Passing Show 37年11月―38年1月
1938年『曲がった蝶番』 The Passing Show  38年10月―39年1月
1938年『五つの箱の死』 Home journal 38年8月―9月
1939年『緑のカプセルの謎』 Woman’s journal 39年5月―7月
1939年『テニスコートの謎』 Modern Woman  39年11月―40年3月
1940年『かくして殺人へ』 Woman’s journal 40年6月―9月
1941年『殺人者と恐喝者』 Woman’s journal 41年5月―8月
1942年『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』 Woman’s journal  43年2月―5月
1944年『爬虫類館の殺人』 Woman’s journal  43年12月―44年2月
1947年『眠れるスフィンクス』 Woman’s Own 47年5月―7月
1946年『別れた妻たち』 Woman’s journal 47年4月―6月
1950年『ニューゲートの花嫁』 Woman’s journal  50年6月―9月
1952年『赤い鎧戸のかげで』 Argosy 52年1月―4月
1955年『喉切り隊長』 Argosy 55年5月―8月
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