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NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

分かりやすい韓国の受験戦争批判もフレッシュな描写とラストの母の涙がもたらす革命の兆し、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第9話「笛吹き男」

2022-07-30 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

塾に向かうバスを合意の上、ハイジャックし、子供たちを山へ連れて行って4時間遊ばせた"ハーメルンの笛吹き”こと”子供解放軍”の”総司令官”、パン・グポン(おならプーの意)の弁護をすることになったヨンウたち。冒頭のパン・グポンが塾のバスをハイジャックするシーンは『ダーティーハリー』のスコルピオを彷彿とさせますが、あれの1000倍優しいバスジャックでとてもフレッシュでした。まぁ、何より”子供解放軍”、”総司令官”、パン・グポン(おならプー)と言う命名センスだけでもう100点満点なのですが、そして子供たちを笑わせる為だけに、パン・グポン(おならプー)と言う名前に改名した思想犯であり、彼の犯罪(未成年者略取)の動機が韓国の熾烈な受験戦勝批判と言うのがまことにもって強烈。

受験戦争批判は数多くあるだろうし、本作のそれも極めて分かり易い批判ではあるのだけれど、それを子供を開放する、子供は子供の内に遊ぶべきだという極めて原始的な、しかし過激な思想を持った思想犯と言う設定が私には刺さりました。そして、後半法廷で何故かその思想犯に演説をぶたせるシーンが表層的にはベタな感動的なシーンでありながらも、もう一層めくると彼の絶望の裏返しであることが分かり楽しそうなパン・グポンと子供たちの姿とは対照的に、なぜ彼が”子供解放軍”の”総司令官”となり子供を解放しようとする理由を察して泣き崩れる彼の母の姿が印象的でした。

そしてヨンウとジュノの恋愛も進展し、ひゃあー

Lee Jun-ho finally tells Woo Young-woo that he likes her | Extraordinary Attorney Woo Ep 9 【日本語 CC】



『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第4話「3兄弟の対立」は凡作ではなく、大変重要なエピソード

2022-07-28 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第3話「ペンスでいきます」についてアスペルガー博士がナチス協力者として発達障害の子供たちの“命の選別”を行ったことにも言及したことを絶賛していた方が、第4話を凡作と評されていて非常にもやもやしたので投稿。
第3話「ペンスでいきます」は障碍者差別の話からホロコーストまで射程を伸ばす野心的な傑作エピソードだと私も思いますが、その比較によって第4話「3兄弟の対立」が凡作とは私は思えません。

第3話のラスト、ウ・ヨンウが弁護士事務所ハンバダに退職届を提出するところで終わりました。自身が自閉スペクトラム症であることを理由に検事から差別的な言動を受けたこと、またそれを目の当たりにし依頼者で被害者の父親から自閉症の弁護士であるから裁判に勝てないのでウ・ヨンウを担当弁護士から外して欲しいと言われたことで、ヨンウは自閉症である自分が弁護士では裁判に勝てないとの思いから退職を決意していました。ヨンウの気付きや尽力で裁判には勝ったものの、ヨンウ自身は自閉症によってもたらされる社会の壁に打ち砕かれてしまったわけです。ヨンウは第3話では救われません。そしてお父さんの営むキンパ屋さんで働く様子が第4話「3兄弟の対立」の冒頭で描かれます。つまり、当たり前なのですが第4話は第3話の続きです。(韓国の地上波テレビドラマは1週間に2話放送されるのが一般的なようで、本作も水・木にそれぞれ放送されています。印象になりますが、この形式の為か本作を観る限り、奇数話と偶数話がセットになって構成されているように感じます。)

キンパ屋で働くヨンウのもとに親友のトン・グラミがやってきて、父親が父親の兄弟たちに騙された、その為に多額の借金を背負ってしまった助けてほしいと相談されますが、ヨンウは取り返す手段はありそうだと言うものの、ハンバダに退職届を出した自分はもう弁護士ではないから担当できないとやんわり断ります。なんだかんだで父グァンホの提案により、グラミの実家に事情を聴き行くため、お父さんの運転する車でソウルの郊外にあるグラミの実家に向かうのですが。その道すがらヨンウの回想として、ヨンウの高校時代が展開されます。ソウルの高校に通っていたものの苛めに会い、田舎なら苛めがないであろうと言う事で田舎の高校に転校したものの、結局苛めの標的になってしまったことが描かれます。つら…!そんなつらい状況で出会ったのが、変り者として周囲から浮いていたトン・グラミでした。ヨンウへの苛めを目の当たりにしたグラミは正義感と言うよりも、その行為への醜悪さに腹を立てて苛めの主犯格の頭をどつき、クラス内で大立ち回りを繰り広げます。そこからヨンウとグラミは2人は距離を縮めて行くのですが…

Behind every extraordinary attorney is an extraordinary bestie | Extraordinary Attorney Woo 【日本語字幕】


グラミの実家でグラミの父から話を聞くと、韓国の過去の廃止された家父長制的な法律を盾に、末っ子であるグラミの父に不利な契約を強引に結ばされてしまったことが明らかになります。ここでも本作が韓国で未だ蔓延するであろう家父長制的な価値観への疑義が示されます(そして儒教的な考えが残る日本も無関係では無いと思います。)。ハンバダに退職届を提出したヨンウは、弁護士ではない自分では弁護ができないから、ハンバダの弁護士を紹介しようとしますが、先輩弁護士のミョンソクはヨンウに本件の担当をさせます。そしてヨンウは再度弁護士として法廷に戻ります。

重要なのは、傑作だった第3話と比べてこの第4話が凡作などではなく、第3話で自閉症を持って社会を生きることに挫折したヨンウの回復が描かれる重要なエピソードであると言う事です。そして韓国ドラマの週2回放送されるという放送形態を踏まえると、第3話と第4話はセットのエピソードだと思います。

高校時代から自閉症であるが故に周囲からいじめを受けていたヨンウが親友となるグラミと出会いが描かれます。これまで仲は良いんだろうがどういう関係なのかを全く描かれなかったヨンウとグラミの関係性の根源が描かれています。また、グラミの父の裁判もヨンウの禁じ手ギリギリの秘策で一発逆転をすることで自閉症を持つ弁護士であっても裁判に勝てることを証明します(この禁じ手な手法が白眉なのは、兄たちが虚偽の説明を口頭でしたことを”証明”できなかったのですが、一方で兄たちもグラミの父たちの作為を”証明”できないと言う構成になっている点です。)。加えて、ヨンウに想いを寄せるイ・ジュノが単に慰めたり、ハグしたり、キスしたりして癒すなんてことはせず自分が弁護士が必要な状況になったらヨンウに弁護してもらいたいと、ヨンウの能力を認める形でヨンウを励まします。第3話で自閉症であるが故に傷つけられていたヨンウの個人として、弁護士としての回復が描かれます。

ハリウッド映画の”三幕構成”で言えば、2幕目が終了したと言うところです。つまるところ大変重要なエピソードなのです。



”政治的”であることに疑義を突き付ける『ウ・ヨンウ弁護士の天才肌』第7・8話「ソドク洞物語Ⅰ」、「ソドク洞物語Ⅱ」

2022-07-24 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix

『ウ・ヨンウ弁護士の天才肌』第7・8話が配信されました。道路建設計画によって村を分断する高速道路、幸福路が通ることになったソドク洞の村長から工事の差し止めの訴訟を相談されるハンバダのチョン・ミョンソク弁護士チームの面々。物語の進展とともに明らかになりますが、この幸福路の計画は多分に”政治的”な事案であることが明らかになります。そしてその”政治的”であることは、ヨンウの就職や出生の秘密についても”政治的”であることが示されます。

思い返すと、『ウ・ヨンウ弁護士の天才肌』は初めから”政治的”なことが物語に影を落とし、個々人を不幸にしていることが描かれていました。第2話「脱げたウエディングドレス」では、新婦は自身の意思とは別に父親の”政治的”な思惑によって結婚させられますし、第3話「ペンスでいきます」では亡くなった被害者の社会的評判を守る為に被害者のとある事情が隠匿されそうになります。被害者の名誉というよりは家の名誉を守ったようにも見えます。

幸福路の建設に邪魔になるであろう榎の木への評価は、公務員によって隠ぺいされていましたし、裁判を担当する判事は幸福路がつながる開発地域に家を買おうとしていたとか、多分な”政治的”、利己的な思惑で田舎の住民が蹂躙されるというシチュエーションが描かれました。(なお、田舎の人たちが権力者に買収されやすという描写があるのもまた意地悪だなと思いました。なお第4話「3兄弟の対立」では村長が買収されていました。)

また、ウ・ヨンウが大手弁護士事務所ハンバダに就職できたのも、ウ・ヨンウがライバル弁護士事務所テサンの代表、テ・スミの隠し子であることを知っていたハンバダの代表、ハン・ソニョンがテサンを潰すため、多分に”政治的”な理由の為に雇ったのだとヨンウの父、ウ・グァンホが指摘しました。加えて、ウ・ヨンウの母であるテ・スミとウ・グァンホが別れた理由もテ・スミとウ・グァンホの身分の違いという”政治的”なことであったことが明かされました。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は韓国ドラマのステレオタイプ的な描写はありつつも、日本とも共通する韓国社会に存在するであろう”政治的”なもの、縁故主義、学歴主義、財閥の存在、社会での競争、障碍者差別、家父長制などなどへの批判的な脚本、演出が物語の魅力にもなっています。

そういうシリアスなテーマを扱いつつも、1エピソードの中でコメディシーンとイチャイチャシーン、裁判でのカタルシスで挟むことで見終わった後の読後感が重くない絶妙なさじ加減で演出されています。私は完全に監督の掌で踊ってしまっています。ウ・ヨンウへの中傷をネットに書き込むウ・ヨンウの同僚、クォン・ミヌ弁護士が本作を象徴するキャラクターの様にも思えます。彼は”政治的”なものへの反発の様にも見えます。”持たざる者”という意味では、豊田利晃監督の映画『青い春』で新井浩文演じる青木の様でもあります。

第8話終盤、ウ・ヨンウがテサンにテ・スミを訪ねて行った際の2人の対面シーンは演出も秀逸でした。ウ・ヨンウとテ・スミの会話シーンが切り返しによって展開されますが、ウ・ヨンウを捉えたショットはフィックスなのに対して、ウ・ヨンウからカミングアウトをされたテ・スミのショットは徐々にアングルが傾いて行きます。それもかなり大きく角度が傾きます。

演出の教科書通りでありつつも、テ・スミを演じるチン・ギョンさんの演技も相まって、強烈に涙腺を刺激されます。なお、私はウ・ヨンウのカミングアウトにもテ・スミは動じないか、すっ呆けるのかと想像していたので良い意味で裏切られました。

第8話で、ウ・ヨンウが何故ハンバダに採用されたのかと言う謎もウ・ヨンウの母親は誰なのかと言う謎もウ・ヨンウはイ・ジュノを好きなのかと言う疑問も判明してしまいました(ウ・ヨンウの率直な告白に対して、ドSな一面を見せるイ・ジュノに笑いました)。

本シリーズを貫いていたクリフハンガーが第8話まででほぼ全て明かされてしまいましたが(残る謎はテ・スミの息子が誰なのか?くらい)、第9話以降どのように物語が展開していくのか期待と不安でいっぱいですが、こんな作品を作るスタッフ陣なので更なる期待をしてしまいます。第9話ではイ・ジュノがウ・ヨンウが他の男に興味を示していることに嫉妬することが描かれるようですが、期待は高まります。

Park Eun-bin answers 10 questions about Extraordinary Attorney Woo [ENG SUB]


ウ・ヨンウを演じるパク・ウンビンさんのインタビュー動画。第5話「ドタバタVS腹黒策士」の”春の日差し”のくだりについては、脚本読んだ段階で泣いてしまったとか、スヨンを演じるハ・ユンギョンさんと友人関係にあるとか面白い…


舐めてた韓国ドラマが激高クオリティ且つ激高な志を持つドラマだった、ウ・ヨンウ弁護士は天才肌

2022-07-17 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix

作詞家の松本隆さんが以下のようツイートをされていて、私はこのドラマに気づきました。




ここで松本隆さんが述べている「ウヨンウ弁護士は天才肌」が一体どんな国のどんなドラマなのか分からず、ただただ面白いクジラのイメージを用いたドラマなのだろう、観てみたいと思って検索したところ、この松本隆さんのツイートの2日前の2022年6月29日に日本ではNetflixで配信された韓国ドラマだと分かりました。

韓国映画は観るものの、韓国ドラマについては門外漢の私は、若干躊躇したものの、まぁファンシーなドラマなんだろうと言った認識で『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を観始めたのですが…

主人公のウ・ヨンウは自閉スペクトラム症という自閉症を抱えているものの、幼少時からの法律への興味と驚異的な記憶力でソウル大学のロースクールを首席で卒業し、弁護士試験はほぼ満点で合格したものの、ロースクール卒業後半年が過ぎても法律事務所に就職できないでいるという設定。
どうにか就職できた法律事務所でも所内での差別、クライアントからの差別に対峙することになるというなんかよくあるお涙頂戴系の感動系ドラマかよっ!と舐め腐っていたのですが…

実際観始めると、そもそも主人公のウ・ヨンウが可愛い…ウ・ヨンウの親友のトン・グラミが可愛い…ウ・ヨンウに親切にしてくれる弁護士事務所のモテ男のイ・ジュノがウ・ヨンウに振り回されていて可愛い…ウ・ヨンウのロースクール時代の同期で事務所の同期でもあるで優しいチェ・スヨンが可愛い…ウ・ヨンウに当初偏見を持っていたの上司のチョン・ミョンソクも優しく可愛い…同じく同期の腹黒策士ことクォン・ミヌはむかつくけど可愛い…

Kang Tae-oh waltzes his way into Park Eun-bin’s life | Extraordinary Attorney Woo Ep 1 【日本語字幕 CC】


Park Eun-bin pulls out her penguin rap skills | Extraordinary Attorney Woo Ep 3 【日本語字幕 CC】


Park Eun-bin’s friends help with her courtroom skills | Extraordinary Attorney Woo Ep 1 【日本語字幕 CC】


Park Eun-bin gives Ha Yoon-kyeong a special nickname | Extraordinary Attorney Woo Ep 5 【日本語字幕 CC】


ただ、このドラマの真骨頂は可愛いだけではなく、法廷ドラマとしてちゃんと面白い事と自閉症者差別や偏見、家父長制の弊害が脱北者差別、弁護士の職業倫理にまでスポットを当てて、且つ必ずしも主人公たちが正しい選択をすることができなかったり、挫折したりする様子まで描いている点です。

例えば、第3話「ペンスでいきます」では、自閉症の弟が健常者で医大生だった兄を殺害したとされる事件の弁護を引き受けます。上記のラップシーンなど可愛いシーンが盛りだくさんですが、事件の大本は自閉症者への偏見や差別が蔓延している状況が描かれ、さらに射程はナチスによる自閉症者を含む”社会に必要のない人”に安死術を施した件にまで触れます。

自閉症の弟が医大生の兄を発作的に殴り殺したとされる事件の為、ウ・ヨンウは上司のチョン弁護士からウ・ヨンウが自閉症だから被告である自閉症の弟の気持ちが分かるだろうとアサインされます。これ自体も自閉症の方に対する偏見です。理解があるはずのチョン弁護士も偏見があることが描かれます。

また、弁護の中で自閉症による精神衰弱を減刑要因として展開していくと、検事から自閉症であるウ・ヨンウが攻撃にさらされます。

更にその攻撃を目の当たりにした被告の父親からウ・ヨンウを弁護側から外せと言われてしまう始末で終始苦い展開が続きます。でもそこに前述の可愛いシーン、コメディシーンが盛り込まれることでエンタメとして成立しています。

まぁ、ジェットコースターみたいな1話完結の法廷ドラマです。加えて言うと、このドラマ、説明が絶妙です。特に1話で顕著ですが、ほぼほぼ説明をしません。親友のグラミもなんの説明もなく登場し、ヨンウと話をしてドラマに入ってきます。説明台詞が無くても、キャラクターの魅力に引っ張り込まれてみていれば自然と関係性や過去が理解できる構造になっています。

もっと言うと、セリフを用いない映像だけの演出もさらっとやっているのが凄いと感心させられました。ほかのドラマと比べると、視聴者の理解力を信頼している気がします。

更にジェットコースターみたいな1話完結の法廷ドラマに、別軸としてウ・ヨンウの出生の秘密がクリフハンガーとして設定されています。

ウ・ヨンウの父グァンホがソウル大学時代に何かがあったようですが、母親が誰かは濁されています。第6話までのところ、ライバル弁護士事務所の所長で、法務大臣?候補のテ・スミ弁護士がウ・ヨンウの母親ではないかと匂わされていますがまだ未確定です。また、テ・スミには息子がいることが言及さえていますが、その息子がイ・ジュノなのか?と一部でざわついているようです。頼むからそれはやめてくれ…

キャラクターが良いし、演出も良い、扱う事件も興味深く、もう完全にはまってしまった…個人的には『名探偵モンク』に近いものを感じています。あれは主人公のモンクは強迫神経症であり自閉症ではなかったものの、高い知能と本人の強いこだわりとコミュニケーションが苦手な所、相手の感情を読み取りにくい点などは似ていると思いました。

法廷ドラマとして、めちゃくちゃ面白いですが、それ以上にこのドラマのキャラクターたちが大好きになってしまった…来週が待ち遠しい…












ロード時間皆無のN64と同じレベルの快適さで楽しめるスペースオペラアクションゲーム、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』

2022-01-30 | 備忘録
『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』


■プレイステーション5の超高速SSDのデモンストレーションとしての『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』
プレイステーション5ローンチ時から本作、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』はアナウンスされており、ITジャーナリストの西田宗千佳氏は「どのPVを見るとPS5の価値がわかりやすいのか」を示すタイトルとして本作を挙げていた。

要は、超高速SSDによりデータ読み込みが高速化されたことでステージの最中でも別のステージのイメージを読み込むことができ、世界を瞬時に切り替えられるということだった。そしてそれをソニーも本作のステージを行き交うシーン(設定としては別次元を瞬時に移動している。)をPVやCMにも盛り込んでいた。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』アナウンストレーラー(英語版)


ローンチから1年近くたった2021年6月の発売ではあったが、過去作をプレイしていなかったことと、そういった露出を目の当たりにしていたことで、プレイステーション5の機能をデモンストレーションするようなタイトルなんだなぁと思い込んでしまい、プレイステーション5を購入していたものの買わずに2022年になってしまった。

ところが今年、信頼するゲームブロガーのラー油さんが「タイトルを『最高&最高』に変えるべき逸品!『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』レビュー!【PS5】」と言う記事名の本作のレビューを読んで、即座に購入して遊んでみた。

プレイステーション2時代の初代から『ラチェット&クランク』シリーズは認識していたものの、これまでプレイ経験はほぼなく、プレイステーションプラス特典でプレイできる初代のリメイク作品であるプレイステーション4用ソフト、『ラチェット&クランク THE GAME』は少し触ってみたもののグラフィックやシステムの古さ、「ひらがな」を多用している部分などがなじめず数分で投げ出してしまった。そのため、本作を購入してみたののプレイするまでは半信半疑だった。

■プレイステーション5専用の底力
まず驚いたのは『ラチェット&クランク THE GAME』とは比べ物にならないくらい進化したグラフィック。2010年くらいのピクサーのアニメレベルのグラフィックがリアルタイムで生成されて、プライヤーが動かせることに単純に嬉しくなった。

シリーズの主人公ラチェットと相棒のクランクはもちろん、それ以上に本作から登場の別次元の主人公であるリベットとその相棒になるキットが非常に魅力的。シナリオは勧善懲悪のストーリーだが、本作から加わったリベットとキットの関係性を掘り下げるシーンが多く、ドラマとして面白い。

そして皇帝ネファリウスとそれに抗うリベットたちレジスタンスの攻防という構図は『スターウォーズ』のそれであり、場面転換の演出や酒場の設定などなど『スターウォーズ』へのオマージュは枚挙に暇が無い。しかもそのオマージュ、世界観のクオリティが高くて、ちゃっとスペースオペラ!本当にわくわくしてしまった。

そのグラフィックや演出を盛り上げるのは、上質な日本語訳と吹き替えといったソニーインタラクティブエンタテイメントジャパンのローカライズクオリティ。ラチェット役の津村まことさんをはじめ、クランク役大川透さん、リベット役の本泉莉奈さんらの演技が本当に素晴らしい。

また、声優さんたちの演技を細かくローカライズに落とし込むのはさすがソニーインタラクティブエンタテイメントジャパン。
使った武器ごとに敵がセリフでリアクションを返すところまで吹き替えが充てられていて驚いた。字幕などもおかしな日本語やフォントも変な改行も全くない上質すぎるクオリティだった。



そして本作が何より素晴らしいのはインストール後、一切ロードが発生しないこと。ムービーシーン後、ボス撃破後、ステージ移動前、移動後など通常のAAAタイトルであれば、何らかのロードが発生しそうなタイミングでも本作では一切ロードが発生しない。インディーゲームならいざ知らず、ファーストパーティのAAAタイトルでロードが発生しないなんてことはスーパーファミコンやニンテンドウ64以来の経験だ。

※マップからマップへの移動シークエンス


今まであまりにロードに慣れすぎてしまっていたため、すっかり忘れていたけれどロードが無いことがこんなにも快適だとは思わなかった。ロードが発生しないからこそ、ラチェットやリベットの冒険にも没入し易いと感じることが多かった。

映画でいう"長回し"が没入感を高めるように、ロードが発生しないことは没入感を高め、ゲームの体験価値を上げてくれるのだと思う。ステージ間の瞬時の移動よりも何よりもこの「ロードが無い」と言う事こそが爆速SSDを積んだプレイステーション5の最も重要な機能であることを思い知らされた。

プレイステーション5の目玉の1つであるデュアルセンスもその機能を発揮している。アダプティブトリガーはラチェットたちが銃などの武器の引き金を引く感覚を疑似体験させてくれるし、武器によってはトリガーの全押し、半押しでの機能分けもされているので、使い分けがゲームのアクセントにもなっている。

ハプティックフィードバックでは、ゲーム内でラチェットたちが感じた感覚を再現して体験させてくれる。特に金属を持った感覚などは驚くほど金属を持った感覚を伝えてくれるので錯覚する。加えて、デュアルセンスのスピーカーから武器やアイテムの駆動音まで鳴ってくれる。「ロードが無い」ことに更にダメ押しで没入感を高め、ゲームの体験価値を上げてくれる。


※『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』ガラメカ使用時デュアルセンス音声



それでアクションゲームとして触っていて楽しい。ボス戦も通常戦闘の延長線上でデザインされているので違和感無く楽しめるし、大型ボスやステージ全体を使ったシチュエーションが多く迫力も満点。そんなゲームがつまらない訳がない。発売日に購入しなかったことを恥じ、僅かばかりではあるが「デジタルデラックスエディション」にアップグレードした。正直、プレイステーション5と4の違いは、グラフィック性能や静穏性などくらいしかにしか感じられていなかったが、こんなにも体験として優れているとは思わなかった。それを実感させてくれた『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』は大好きなゲームになった。グラフィック、ローカライズ、ゲーム体験、ゲーム内容がここまで高度に融合していて本当に素晴らしい。


※参考:
「PS5が目指すゲームの姿と可能性。PS5発表イベントで見えてきたもの」(https://www.watch.impress.co.jp/docs/series/nishida/1258889.html ※2022年1月30日閲覧)
「タイトルを『最高&最高』に変えるべき逸品!『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』レビュー!【PS5】」(https://www.simplelove.co/entry/20220110/1641780536 ※2022年1月30日閲覧)