NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

すばらしい映画、すばらしき世界

2021-02-15 | 備忘録
whatawonderfulworld


『永い言い訳』が映画も原作も大好きな西川美和監督の新作なので、観てきましたが期待に違わず西川監督印の消化し辛いすばらしい映画でした。
殺人犯である主人公の三上が刑期満了で出所し、社会復帰をする過程を描いた映画という事で感動系を避け難いと言う印象はあるものの、西川監督の映画なので、何時辛い展開が発生するのかとどきどきしつつ、心温まる展開が始まりこれで終われるのか?と思ったら、やはり西川監督は許してくれないと言う展開でした。

後半、周囲の冷たい対応に心を折られた三上がヤクザ時代の兄貴分に電話をするシーン。それまでの下町のじめじめとして、窮々とした場面から東京上空からの夜景への転換にあっけに取られていると、夜景の光が大きくなり3点の明かりが1つに重なる映像からその光が何であったのか、遡って下町から東京上空の夜景へとシーンが一足飛びに飛んだのは何故なのかが判明し更に心を掴まれました。

その後、トラブルに飛び込もうとする三上をヤクザ時代の兄貴分の姐さんに止められたことで物語が更に展開し、三上を取り巻く状況が好転していく。三上に冷たくしたテレビディレクター、保護士、ソーシャルワーカーたちが情を欠けてくれた。三上は娑婆で就職をする。就職祝いの場で、保護士から、ヤクザの姐さん同様の言葉を貰う。社会で生きていくには三上はまっすぐ過ぎる、社会で生きていくには自分に直接関係のないことには変わらず、目と耳を塞いで見てみぬ振りをすべきであると。

その保護士の言葉を受け、職場での障碍者職員のいじめの現場を目撃しても見てみぬ振りをした。職場で障碍者職員への悪口、からかいを見てみぬ振りをした。自分を押し殺して、社会に溶け込もうとした。調和しようとした。机の上には鉄の鋏が置いてあり、やる気になればいつものように鋏でいじめやからかいの加害者の指を切り落としたりできたが、三上はしなった。物語上の展開としては、三上に情をかけてくれたテレビディレクターや保護士、ソーシャルワーカーの彼らの為に自分を殺して、社会との調和を選んだのだと思う。そのやり取りの後、三上は職場から退社する。その際にいじめられていた障害者職員から声をかけられ、台風で飛ばされぬ前にと刈り取ったコスモスを譲り受ける。三上はそれを聞き崩れ落ちる。

その夜、台風が来た。風雨に塗れぬようにと洗濯物を取り込んでいくところで三上は死ぬ。恐らく心筋梗塞で。三上はこの晩、心筋梗塞で肉体的に亡くなったが、職場で自分の生き方を社会への適応の為に曲げた時に三上は死んだのではないかと思った。この結末を何故西川監督が選択したのか私にはわからない。まだ本作製作に関連したエッセイも読めていない。三上はどうするべきだったのか。本作の結末が正解だったのか。社会との適応を捨て、自らの生き方を守るべきだったのか。それとも他に上手い折り合いの付け方があったのだろうか。それを映画を見終わってからずっと考えている。『永い言い訳』のようにハッピーエンドと言うことをはばかられる。

スパイク・ジョーンズ監督の『アダプテーション』は好きな映画で影響も受けた。社会に適応していくことが困難な男の適応する過程を描いた物語だった。『すばらしき世界』を観て、社会への適応とはどうあるべきなのか、適応することがいいことなのか。ぐるぐるずっと考えている。