日本のポスターには「生きている間に、生まれ変わろう」とある。
アメリカの『LIFE』誌の写真管理部門という地味な部署に勤めるウォルター・ミティは私生活も仕事も冴えない。
父親が17歳の時に亡くなった為、家族の大黒柱として家計を支えてきた。42歳を迎えた現在も結婚はせず、母親ばかりか妹の金銭的な面倒もみている。気になる同僚の女性はいるが声をかけることも出来ず、その彼女がお見合いサイトに登録したと聞き、自らもそのお見合いサイトに登録したが彼女にアプローチ出来ない。それどころかお見合いサイトのプロフィール欄のこれまでの体験談の項目を埋めることが出来ずに、サイトの機能が使用できない不具合まで起きている。しかもしばしば妄想にトリップする。
私生活も仕事も冴えない、そんなある日事件が起きる。『ライフ』誌が買収され、紙媒体での刊行の終了が決定。世界を駆け回る著名写真家、ショーンが紙媒体の最終号の表紙を飾る写真のネガを送ってきてくれたが、ウォルターはそのネガの1個を紛失(?)してしまった。会社中探してもネガは見つからない。写真家のショーンは世界中を駆け回っているため定住しておらず、携帯電話も持っていないため居場所が分からない。考えあぐねたウォルターは、『LIFE』誌のスローガンに感化され、ネガを貰うべくショーンを探しに外の世界へと旅立つ。必要に迫られて外の世界に旅立つことになったウォルターだが、この一歩によりウォルターは変わっていく。
To see the world.
Things dangerous to come to.
To see behind walls.
To draw closer.
To find each other.
And to feel.
That is the purpose of life.
悪く言えば、昔ながらの典型的な映画といえる。問題を抱える人物(そしてその問題は大抵恋愛問題だ)があるきっかけ、イニシエーションにより自分を変える。自分を変えたことにより問題が解決していく。そしてハッピーエンド。視野の狭い人に、臆病な人に、自分以外に興味のない人に、人間関係が希薄な人に、それは間違っている!と言葉で言うのは容易いが、果たしてそれを心からその言葉の意味を理解できるだろうか、というか、それはぼくなのだけれど、理解することは出来ない。でもそれを映像で、物語で見せてくれたら、それは多少は違うかもしれない。
映像に関しては、ウェス・アンダーソン監督からの影響を隠さない主演も務めるベン・スティラーは『LIFE!』をミニマルで可愛い映画に仕上げた。多用される真上からの俯瞰ショット。ウォルターが小さな存在であることを示すためか、ロングのショットが多用される。(そしてウォルターを画面のサイドに寄せるのだ。)フラッシュバックなどもなく、時間軸どおりにストレートに映画が展開されていく。実に全うな映画だともう。ど直球に全うな映画だ。
出色はやはりウォルターが旅立ちの一歩を踏み出すときに流れる、デヴィッド・ボウイの『Space Oddity』の使い方だろう。すげーよ、スティラー監督。つか、『トロピックサンダー』とかを撮ってる監督さんですよね?マジか!というほどに、可愛くて素敵な映画になっている。そして何より昔ながらの映画的な教訓が無理なくしっかり入っている。ラストは予想の範囲内だけれど、ベタでもとっても素晴らしく、美しいラストだと思う。
今月中にパスポートを更新しにいこう。世界を見よう。危険でも立ち向かおう。壁の裏側をのぞいてみよう。もっと近づこう。互いを知ろう。そして感じよう。それが人生の目的だから。