よみびとしらず。

あいどんのう。

鳴き声ソング

2022-07-31 11:10:19 | 散文
たまには産まれてくる前の声色で
鳴いてみたっていいじゃない
あんなにも醜い容姿をしていた
あんなにも綺麗な鳴き方で
私は誰よりも麗しく
誰よりも汚い声をしていたあの頃を
もう全部どこかに置いてきたから
わたしは泣き方以外ぜんぶ知らない

それでもたまには吠えたなら
わたし以外の私のように
言葉を捨てて思いの限りに
空と海とを切り離すこともなく愛していた
そのなかで本音は変わらずに眠る
それは魔法でもなく奇跡なんかじゃない
産まれてくる前からある私の理由

捻(ひね)り出したものは言葉を越えて
痛みも苦しみも憎しみも吐く
後悔ばかりもなんのその
どうせいつかは全てを忘れてゴメンナサイ
幸も不幸も携えぬまま
ただ鳴き方だけは忘れずにいた
それなのにわたしは鳴き方を知らず
言葉ばかりを不足して私はどんどん欠けていく
喪失感はない
なんにも知らない
だからわたしはなく
あかるい明日に
いつかまた産まれてくるのは泣き方知らずの昨日の私

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