よみびとしらず。

あいどんのう。

赤い海

2019-05-16 20:40:22 | 散文
海が燃えている

曇天のした、白いかがり火はゆれ
おだやかな波間に立つ影はなし
透明な膜におおわれた砂地のうえに
だれかの足音は絶え間なく鳴り響く
ゆらりゆられてみどりのゆりかご
冷たき水はそのなかにぬくもりを抱きて
かえりくる誰かを待ちわびる

おかえりなさい
ただいまと

生まれおちたすべてに語りかけ
そしてわたしたちは泳ぎ方さえも忘れさる
連れてきた涙だけが海のにおいを知っていて
聞いたこともない海の波音をわたしは耳にする
孤独な夜に
海の色はなく
わたしのからだは赤い潮騒にゆれている

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