よみびとしらず。

あいどんのう。

懐かしい世界

2019-01-15 22:39:40 | 散文
何度も産まれて
何度も生きて
何度も死んでまた廻る

だから知らない初めての景色にも
わたしの故郷(ふるさと)は存在し
いまはもう誰も触れることない草木のなかに
あの日交わした約束は眠る
そよ風がそのすきまを通るとき
思い出の香りはしずかにそこから解き放たれて
わたしはわたしの知らない景色に立ち
なに一つ思い出さぬままわたしの頬は濡れていた

かつてみた景色の記憶なくとも
かつてついた傷の痛みなくとも
わたしたちは泣きながらこの世に生をうけ
一本の稲穂のなかにも鈴の音を聴く
なにもみえぬ眼差しは故郷をみつめ
開かれた瞳はなに一つ真実を知らぬまま
今日もわたしは生まれてはじめての場所に立つ
懐かしい世界

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