温泉法で定める注意書きや効能などの掲示内容が32年ぶりに改正され、温泉の効能が期待できる症状に、新たに「自律神経不安定症(失調症)」などが追加された。お風呂の温度は自律神経に影響を与える。家庭でも上手に調節すれば効能が期待できそうだ。
【お湯の温度で切り替える】
内臓、内・外分泌腺、血管や汗腺は、脳の指令を受けずに独立して働いている。その働きを制御しているのが自律神経。相反する働きの交感神経と副交感神経の絶妙なバランスで各器官がコントロールされている。
自律神経がうまく働かない自律神経失調症に、なぜ、温泉がいいのか。自律神経に詳しい東京有明医療大学教授で東洋医学研究所附属クリニックの川嶋朗医師が説明する。
「温泉というより、お湯の温度が自律神経に大きく影響を与えるのです。自律神経は40℃を境に切り替わる。40℃以上は交感神経が優位に、体温より高い40℃以下は副交感神経が優位になる。だから、日本温泉気候物理医学会のデータでも、朝は高めの温度、夜は低めの温度に調節している湯治場は名温泉旅館としての評価が高いのです」
朝は交感神経を優位にさせてスッキリ目覚めさせる。夜は副交感神経を優位にさせて寝つきをよくさせる。その湯治場の心遣いが、うまく働いていなかった自律神経の切り替えを促し、自律神経失調症を改善させる効能になっているという。
「熱いお風呂は交感神経が優位になるため、血管が収縮する上に長く入っていられないので、体の深部まで温まりにくい。夜、自宅でお風呂に入るときは40℃以下で30分ぐらいかけてゆっくり温まり、上がったら早く寝てもらうことを勧めます」
【鬱にも効能が期待】
今回、温泉の適応症には不眠症や鬱状態なども追加されている。睡眠には体の深部が温まっていることも大切になる。
「入眠時は生理的に、体の深部の血液を手足に流して、体温を下げながら眠りにつきます。寝る直前の体温が低いと、それがスムーズにいかない。手足が冷えていると、寝付けないのはその(体温が逃げない)ためです」
脳内物質のセロトニンやドーパミンを作る代謝が悪い鬱状態も自律神経が関係しているという。
「人の自律神経はストレスなどで交感神経優位の極致に至ると、180度ひっくり返って、副交感神経優位の極致に置き換わる。それが鬱です」
そのため昼間はヤル気がなくなり、夜は強い不安から交感神経が優位になって眠れない。鬱状態の場合も、体を温めて代謝を上げ、夜の睡眠障害を改善することが大切になる。温泉やお風呂を上手に使って、心身の体調管理に役立てよう。
《自律神経失調症の特徴と症状》
【特徴】検査しても異常が認められず、原因不明のさまざまな症状(不定愁訴)が現れる
【症状】めまい、動悸(どうき)、頻脈、発汗、血圧の激しい上下、立ちくらみ、頭痛、耳鳴り、倦怠(けんたい)感、冷え症、下痢や便秘、不眠など