30日の米株式市場でダウ工業株30種平均が続落した。終値は前週末比122ドル65セント(0.6%)安の1万9971ドル13セントと、節目の2万ドルを割り込んだ。トランプ米政権による難民や「テロ懸念国」の市民の入国制限を巡る混乱を嫌気した売りが優勢だった。
ダウ平均の下げ幅は昨年11月の大統領選後で最大となり、2016年10月11日以来およそ3カ月半ぶりの大きさだった。トランプ米大統領は27日、中東・アフリカなど「テロ懸念国」7カ国からの入国を制限する大統領制に署名した。移民政策が厳格化されたことに対し、米国内外で混乱や反発の声が広がったことが嫌気された。
入国制限を巡っては野党の米民主党だけでなく、与党の米共和党からも批判的な意見が浮上している。昨年の大統領選以降はトランプ政権の経済政策が景気や企業業績の改善を後押しするとの見方が株式相場を押し上げてきた。今回の混乱で米議会で経済政策の審議が遅れる可能性もあり、先行き不透明感を意識した売りが出た。
グーグルやフェイスブックのほか、マイクロソフトやスターバックスといった米主要企業の最高経営責任者(CEO)がそろって排外主義の強まりで「多様性」が損なわれることへの反発や批判を表明。30日はゴールドマン・サックスなど金融大手や自動車大手フォード・モーターも排外的な政策を支持しないとの見解を示すなど民間でも批判の声が高まっている。
新政権の移民政策が厳格化すれば、渡航者数の減少につながるとしてユナイテッド航空やデルタ航空といった航空株が軒並み売られた。中東諸国との関係悪化が経営に悪影響をもたらすとの見方からエネルギー株も下落。金融やIT(情報技術)などにも売りが目立った。
前週にはダウ平均が史上初めて2万ドル台に乗せるなど、このところ相場上昇が続いてきた。反動から市場では利益確定や持ち高調整の売りに動く投資家も多く、ダウ平均は下げ幅を223ドルを上回る場面があった。
朝方発表された2016年12月の個人消費支出(PCE)は前月比0.5%増え、市場予想に沿った結果だった。米連邦準備理事会(FRB)が重視する物価指標のPCEデフレーターのエネルギー・食品を除くコア指数の伸び率は11月と同水準で、米景気の緩やかな回復が続いていることを示したが相場の反応は限られた。
ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は反落し、同47.070ポイント(0.8%)安の5613.712で終えた。
業種別S&P500種株価指数(全11業種)では「エネルギー」「素材」など9業種が下落した。一方で「生活必需品」などが上昇した。
不動産ローン債権の回収事業から撤退すると発表した米銀のシティグループが安い。業績見通しを引き下げたウエアラブル端末のフィットビットは急落。ダウ平均を構成する30銘柄では建機のキャタピラーや化学のデュポン、石油のシェブロンなどが下げた。
一方で、米モルガン・スタンレーが投資判断を引き上げた映画・娯楽のウォルト・ディズニーが上昇した。ダウ平均では小売りのウォルマート・ストアーズやクレジットカードのアメリカン・エキスプレスが上げた。
投資情報会社・フィスコ(担当・村瀬智一氏)が、株式市場の1月23日~1月27日の動きを振り返りつつ、1月30日~2月3日の相場見通しを解説する。
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先週の日経平均は上昇。トランプ新政権発足後の初期反応は円高・株安だった。トランプ物色への期待があったが、為替市場では1ドル113円台と円高に振れており、これを受けた週明けの日経平均は3ケタの下落で始まった。その後もムニューチン次期米財務長官が「強いドルは短期的にマイナス」との考えを示していることが伝わり、1ドル112円台と円高に振れたことが嫌気され、一時18800円を下回る場面もみられた。
しかし、週半ば以降は一転、トランプ政権によるインフラ投資拡大期待を背景にNYダウは3ケタの上昇となり、その後は初の2万ドルを突破するなか、トランプ物色が再燃。25日の上昇で直近の下落部分をほぼ吸収すると、26日には19400円を回復している。
トランプ大統領は、選挙戦で訴えていたメキシコ国境への「壁」設置に向けた大統領令に署名した。大統領就任後は即時TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)脱退などの公約を執行してきたが、ここにきて大統領令を連発している。自動車業界は日米自動車摩擦への警戒感なども高まっており、トランプ政権に振り回される状況が警戒されやすい。
ただし、市場はトランプ政権で恩恵を受けるであろう設備投資関連や金融セクターへの物色が強まってきている。決算発表が本格化する中、安川電機<6506>、日本電産<6594>、アドバンテスト<6857>、ファナック<6954>などが期待通りに上方修正を発表。市場は利益確定に向かってはいるが、これまで強い上昇基調が続いていたこともあり、当然の利益確定といったところ。反対に押し目買い意欲の強さが窺える状況であり、良好な需給状況からの先高期待は強そうだ。
その他、週半ば以降は円相場が1ドル113円前半で推移するものの、日経平均はインデックス売買が中心ながらも終日強含みの展開だった。これまで円相場の影響を受けやすかったことを考えると、市場は為替離れの展開になってきている。良好な需給状況のなか、円高へのマイナス面の反応は限られる一方で、円安へはポジティブに働く可能性がありそうだ。
日経平均は週後半の上昇でシグナルが好転してきており、中期トレンドでは改めて2万円の大台が意識されてくる可能性が高い。ただし、決算発表がピークを迎えることもあり、来週については手掛けづらい状況であろう。これまでの決算は概ね良好とはいえ、LINE<3938>はコンセンサスを下回ったことが嫌気され、上場来安値を更新していた。決算の好悪がはっきり出やすいなか、今週は1000社近い企業の決算が予定されている。過剰反応からイレギュラーな価格形成になりやすく、見極めたいとするムードに向かわせよう。
その他、30、31日に日銀の金融政策決定会合が開かれる。経済成長率の見通しを引き上げる方向で議論するとみられ、指数連動型上場投資信託(ETF)買い入れの減額観測が強まりやすく上値を追いづらくなりそうだ。物色として決算を手掛かりとした個別対応のほか、先高期待が強いなかでは、相対的に出遅れいるセクターやテーマ性のある中小型株などの修正リバウンドが意識される。中国は春節(旧正月)の大型連休に入った。インバウンド消費での爆買いこそ期待する向きは皆無だが、これを織り込んだ形で消費関連は低迷していたこともあり、越境ECなどを中心に見直しの対象になる可能性もありそうだ。
トランプ政権が、メキシコからの輸入品に20%の課税を検討していることが判明した。現実となれば、メキシコを米国への輸出拠点と位置づけてきた日本の自動車各社には大打撃となる。国際的な貿易ルールに違反するとの指摘もあるが、各社は危機感を強めている。
米国とメキシコ、カナダはNAFTA(北米自由貿易協定)を結び、3カ国間の関税はゼロだ。そのため、日本の自動車各社は米国での現地生産のほか、労働力が比較的安いメキシコにも工場を建設してきた。
2015年度の生産台数はトヨタ自動車など大手4社で135万台に上り、計画中の新工場が稼働すれば150万台を超える。
トランプ氏がNAFTAの再交渉を表明した際は、自動車各社も様子見ムードがあったが、20%課税と具体的な数字が示され、「最悪のケースを想定し、対応策を検討する必要がある」(自動車大手関係者)との声も上がっている。
27日のニューヨーク外国為替市場で円相場は続落し、前日比55銭円安・ドル高の1ドル=115円05~15銭で終えた。アジア・欧州市場で円安・ドル高が進んだ流れを引き継いだ。ただ、朝方発表の米経済指標が軒並み市場予想を下回り、ニューヨーク市場では円の下値は限られた。
朝方の経済指標の発表後、安値圏で始まった円は一時急速に下げ渋った。2016年10~12月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率1.9%増と7~9月期から伸びが鈍化し、市場予想も下回った。同時刻に発表された12月の耐久財受注額も予想に反して前の月から減少し、発表直後は円買い・ドル売りが優勢になった。
ただ、新政権下で景気回復の勢いが増すとの期待もあり、指標に反応した円買いは続かなかった。円は115円38銭と、19日以来ほぼ1週間ぶりの円安・ドル高水準まで売られる場面があった。
その後は値動きが乏しくなり、115円台前半を中心に小動きが続いた。来週は日米で金融政策を決める会合が予定されていることもあり、週末を前に積極的な取引は手控えられた。
27日の円の高値は1ドル=114円75銭だった。
円は対ユーロで続落し、前日比70銭円安・ユーロ高の1ユーロ=123円00~10銭で終えた。円は一時123円31銭と9日以来の円安・ユーロ高水準に下落した。
ユーロは対ドルで反発した。前日比0.0015ドル高い1ユーロ=1.0690~0700ドルで終えた。米経済指標の発表後にユーロ買い・ドル売りが優勢になり、その後も小高い水準で推移した。
ユーロの高値は1.0725ドル、安値は1.0673ドルだった。
メキシコペソは対ドルで買われ、一時は3日以来3週間半ぶりの高値を付けた。トランプ米大統領とメキシコのペニャニエト大統領が電話会談した。トランプ氏によると「公正で新しい関係」について話し合ったという。両国関係が冷え込むとの懸念が後退し、メキシコペソの買い戻しを誘った。
26日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続伸し、前日比32・40ドル高の2万0100・91ドルと、前日に続き過去最高値を更新して取引を終えた。トランプ米大統領の経済対策への期待が引き続き相場を支えた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数は1・16ポイント安の5655・18、幅広い銘柄で構成するSP500種株価指数は1・69ポイント安の2296・68と、いずれも反落した。
米主要企業の四半期決算発表が相次ぐ中、業績改善を見込んだ買いも相場を押し上げた。ただ、高値圏では利益確定売りも出て、伸び悩む場面もみられた。
25日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続伸した。前日比155ドル80セント(0.8%)高の2万0068ドル51セントで終え、1896年の算出開始から初めて2万ドルの大台に乗せた。トランプ米政権の経済政策への期待が根強いなか、発表が相次いでいる米主要企業の業績が良好だったことが買いを勢いづけた。ダウ平均は昨年12月20日以来、約1カ月ぶりに過去最高値を更新した
昨年11月8日の米大統領選でトランプ氏が当選してから、ダウ平均の上げ幅は1700ドルを超えた。大規模な減税やインフラ投資、規制緩和を掲げた新政権の政策は米景気や企業業績を押し上げるとの期待が株高を呼び込む「トランプ相場」が続いている。
トランプ大統領は20日の就任後から動きを活発にしている。25日は不法移民の流入に歯止めをかけるとして、メキシコとの国境沿いに壁を建設する大統領令に署名。24日には環境規制の影響で滞っていた石油パイプラインの建設を推進する大統領令に署名するなど新政権は選挙戦時の主張を素早く実施に移すとの観測も市場心理を強気に傾けた。
2016年10~12月期決算で米主要企業の業績が改善していることも株高を後押しした。25日発表した四半期決算で1株利益などが市場予想を上回った航空機のボーイングが4%急伸し、ダウ平均の上げをけん引。米主要企業は全体でも10~12月期まで2四半期連続の増益が見込まれ、これから決算を発表する建機のキャタピラーやアップルにも買いが集まった。
この日はトランプ相場で最も上昇率が大きかった金融株の上げが目立った。米長期金利は2.5%台に上昇し、利ざや改善が収益を押し上げるとの観測が強まった。トランプ相場以降の市況改善が収益増につながったのもあって、ダウ平均ではJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスなどが買われた。
ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数も続伸。前日比55.382ポイント(1.0%)高の5656.339で終えた。26日に四半期決算を発表するアルファベット(グーグル)など代表的なネット関連企業への買いが続き、指数は連日で過去最高値を更新。多くの機関投資家が運用の参考指標とするS&P500種株価指数も最高値を付けた。
業種別S&P500種株価指数は全11業種のうち8業種が上昇した。「金融」のほか「IT(情報技術)」「資本財・サービス」などが上げた。一方で「不動産」や「電気通信サービス」などが下げた。
IT機器のシスコシステムズが高い。前日夕にソフトウエアのアップダイナミクスを約37億(約4200億円)ドルで買収すると発表し、収益拡大への期待が株価を押し上げた。
JPモルガンは資産運用大手のブラックロックから資産管理業務を引き受けると伝わったことも買い材料視された。ダウ平均ではIBMやゼネラル・エレクトリック(GE)も買われた。
一方、機械・航空機関連のユナイテッド・テクノロジーズが安い。取引開始前に発表した16年10~12月期決算で1株利益などは市場予想に沿った結果だったが、目先の好材料は出尽くしたとして売りが優勢となった。
前日発表した四半期決算で業績が市場予想を下回った非鉄大手のアルコアが下落。ダウ平均では日用品のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や小売りのウォルマート・ストアーズなどが下げた。