礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

津久井龍雄の『日本国家主義運動史論』を読む

2012-08-21 05:33:31 | 日記

◎津久井龍雄の『日本国家主義運動史論』を読む

 津久井龍雄の『日本国家主義運動史論』(中央公論社)は、一九四二年(昭和一七)五月に刊行された。すなわち、日米開戦の半年後である。しかし、同書巻末の「追記」には、「本書の執筆はすべて大東亜戦争の開始以前にかかるもの」とある。
 津久井は、日米開戦直前に「我が国政治の現段階」という論文を発表しているが、これについては、先週のコラムで紹介した。
「我が国政治の現段階」に比べると、『日本国家主義運動史論』は、津久井らしい「切れ味」が見られず、迫力にも欠けている。これは、その内容が「回顧」を中心としたものだからだろう。しかし、その回顧にしても、妙に冷めている印象を受けるのは、なぜなのだろうか。
 ただし、読んで面白くないというわけではない。むしろ、十分に面白いし、文章もよい。興味深い人物評や貴重な証言に満ちていて、飽きることがない。これは、と思うところを選んで紹介してみよう。
 以下は、一九三一年(昭和六)三月に、愛国運動諸団体を糾合し、全日本愛国者共同闘争協議会(略称・日協)を結成したころの回顧である(原本一五六~一五七ページ)。津久井は、あえて記していないが、この結成にあたって中心になったのは、津久井龍雄本人であった。

 三月二十日午後一時本郷仏教青年会館で日協(協議会の略称)主催の亡国議会否認民衆大会が行はれた。また宛かも〈アタカモ〉之〈コレ〉と呼応するが如く、衆議院においては「亡国議会を抹殺せよ、愛国大衆の力で錦旗××〔革命〕を断行せよ」のビラが吹雪の如く一壮漢によつて撤かれたが、後に此の壮漢は急進愛国党の児玉誉士夫〈コダマ・ヨシオ〉君であることが明かにされた。夜はさらに銀座街頭から議会にむかつてのデモ行進が行はれ、数寄屋橋付近で警官との大乱闘が行はれた。
 日協は議会が終へてからも益々その組織を鞏固〈キョウコ〉にし、前衛隊をつくり、勇敢に闘争を継続した。前衛隊は狩野敏〈カノウ・ビン〉君を隊長とし、伊地知義一、奥戸百足両君を副隊長として結成されたが、結成式当日の紀念写真を見ると、その中には後の血盟五人組中の小沼〔正〕、菱沼〔五郎〕、川崎〔長光〕、黒沢〔大二〕等の諸君、神兵隊の鈴木〔善一〕君、村岡〔清蔵〕君、前記の児玉君、青年同盟〔大日本青年同盟〕竹槍事件の田中〔近蔵〕君など物凄いところが顔を並べ、昭和維新史における好個の一シーンをなしてゐる。
 其の頃、井上〔準之助〕蔵相の邸前に爆弾を仕掛けたものがあり、その犯人が判明しないために、右翼団体が一斉に検挙されたことがある。たまたま其の時いたづら好きの児玉が、議会のビラ撤きで警察に検束され、釈放されたばかりの頃だつたが、井上をもう少しビツクリさせるために短刀を送つたら面白からうと云ひ出した。筆者は知つたやうな識らぬやうなふりで彼の為すところに任せておいたが、短刀の中に同封するために児玉の書いた文章を見ると甚だ拙く〈マズク〉まるで下手な浪花節の文句である。そこで筆者〔津久井〕が、「時局柄〈ガラ〉身辺の危険を思ひ護身用の短刀一口〈ヒトクチ〉贈呈す、一失業者より」と云つた文句を書いて与へたところが、之が遂に露顕〈ロケン〉に及んで、児玉、田中、筆者の三人は市ケ谷送りとなつてしまつた。此の時市ケ谷にゆく前に警視庁に恰度〈チョウド〉一ト月留置されたが、しみじみ退屈なのに閉口し、うつかりいたづらはするものでないと後悔した。爆弾事件の下手人は後に政教社の高畑正君であるごとが明かにされた。

 右引用部分で、「竹槍事件」とあるのは、大日本青年同盟中央委員の田中近蔵が、一九三一年(昭和六)五月一日のメーデーの際に、メーデーの行進を妨害しようとして未遂に終わった事件。田中近蔵は、メーデー反対突撃隊を編成しようと、竹百本を準備していたところから、当時、竹槍事件と呼ばれたらしい。なお、津久井はあえて記していないが、この大日本青年同盟のトップ(会長)は、津久井龍雄本人であった。
 同書は、こんな感じで回顧談が続くが、本日はここまで。【この話、続く】

今日の名言 2012・8・21

◎永き搾取と暴圧に、無産の民は飢に泣く

 全日本愛国者共同闘争協議会の「共同闘争歌」の一節。同歌は一番から四番まであり、二番は、「国の政治は資本かの、貪婪〈ドンラン〉の手に汚されて、永き搾取と暴圧に、無産の民は飢〈ウエ〉に泣く」。これを「アムール河」の譜で歌ったという。ちなみに、同協議会の「綱領」には、「資本主義ノ打倒ヲ期ス」という言葉がある。

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