~ 夢の途中 ~

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もう一つの甲子園  ~福岡高等聴覚特別支援学校の夏~

2012年07月26日 | 高校野球


甲子園を目指す華やかな舞台の裏で、ひっそりと・・・と云っていいぐらい注目を浴びず兵庫県・明石球場を目指す戦いが開催されている。

『第57回 全国高等学校軟式野球選手権大会』がそれだ。

この福岡県予選の出場校に気になる高校がある。


『福岡高等聴覚特別支援学校』、校名を見たらお解りになられるだろう。

その彼等がどんなチームなのか?どんな野球をするのか? そんな「興味本位な気持ちで申し訳ない」と思いつつも観戦した。

部員は11名、試合前のキャッチボールを見てたら「こりゃ~つい最近野球始めたんだろうな!」って選手が2~3人はいる。

「どこをボールがすり抜けていったんだ?」って思うぐらい、グラブでボールを空振りし後ろに逸らす選手もいた。

だが、いい笑顔している。一生懸命頑張っている。その姿を見てるだけで無性に応援したくなる。

彼等が頑張ってる姿を見るだけで「野球が大好きなんだろうな!いまメチャクチャ楽しいんだろうな!」そんな気持ちにさせてくれる。


その大会初戦の対戦相手は“学業での九州の雄”久留米大附設高校。




毎年、東大に30人程度送り込む九州でもトップの高校。

卒業生の多くが官僚や医者や弁護士、あるいは研究者と云った、いわゆる社会的ステータスの高い道に進んでいく。

ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、タレントと弁護士の狭間で揺れ動いてる本村健太郎氏、ホリエモン、アメリカ留学して卒業こそしてないがソフバの孫正義氏といった卒業生がいる。そのスタンドで応援されてる保護者の方々からもどことなくハイソな香りがするのは気のせいだろうか・・。


そんな中始まった試合は開始と同時に一方的な展開になった。

四球、失策、安打で出した走者に次々と盗塁を決められホーム生還を許す。




聴覚に難があるってことがどれぐらいのハンデか解らない。

解らないが野球経験者の方にはご理解頂けるだろう。「走ったー」、「オーライ」、「キャッチャー ボール後ろーー」、「ボールサード」、「カット右ーー」そして打球音での守備の判断、ベンチからの指示・・・etc。

そのすべてが聴こえない野球ってのが相当なハンデとなるのは想像に難しくない。

何度もボールを見失い仲間の指示が聴こえずに余分な進塁を許す捕手、カットマンが中継したあと走者を確認して送球するためにワンテンポ遅れ、また一つ進塁をゆるしてしまい帰さなくていい走者が次々と生還していく。

が・・・彼等は違う。何点取られても笑顔が消えない。

途中から守備についたレフト君。彼が何かを叫んでいる。ものスッゴイ大きなその声は、その言葉は、文字で表現するのが難しい奇声だ。

だけどレフト君が伝えたい意味は・・・試合を観ている者ならば、野球が好きな人ならば理解できるだろう。

「ガンバレーーー!ピッチャーーー!」、「内野ドンマーーーイ!」、「楽しんでやろうぜぇーーー」そんな言葉に違いない。

もちろん、その声に反応し振り返る野手はいない。いないが何か伝わる“モノ”があったんだろう。

大きく開いた点差ながら・・・・足をスパイクされながらも1点を死守しようとする選手達。


何度も何度もボークを宣告され、それでも審判のゼスチャーでの指導を懸命に理解しようとしてる投手。



恐らくは150球ぐらい投げ最後までマウンドを守りきった。



試合は14-3(5回コールド)だったが、勝敗なんかよりも大事な何かを掴んでくれただろう。


整列した彼等の笑顔の満足そうなこと。「出し尽くしたーー」そんなやりきった感に満ち溢れていた。





応援して下さった保護者の方々に手話で挨拶する選手達。



校歌を歌う久留米附設校の選手達。また彼等も立派でした。点差が開いても手を抜く事無く、全力でプレーする姿に高校野球のよさが凝縮されてます。この中から研究者や医学の道に進む者がいるでしょう。
できれば将来彼等の中から、全く普通に聴こえる人工内耳を開発する研究や、手術するだけで普通に聴こえる手技を開発する医者が生まれたら・・・・この夏、戦ったって意味が大きく増してくるハズだ。


試合終了後・・・・主審から「記念に持って帰りなさい」そう云ってボールを手渡された投手。「えっ?なんで試合終わったのにボール渡すの?」

選手達はキョトンとしていた。が、監督さんの手話で理解できたんだろう。満面の笑顔でチームメイトとハイタッチ。


この夏見た高校球児の中でも最幸の笑顔だった。


福岡高等聴覚特別支援学校の夏は、最幸の心友と野球が出来た最幸の夏だっただろう。。。



2012.07.22 福岡聴覚特別支援学校 VS 久留米大附設 ~延命球場~