ひのまどか/リブリオ出版
ひのさんの本にハズレなし。今回も本当に面白かったし、ためになった。
ベートーヴェンって私より背が低くて、計算は足し算しかできない・・・天才というよりもぶっ飛んでいる人・・・そんな印象を濃くした。
ゲーテと会うシーンなんか読んでるうちに笑ってしまった。ベートーベンはモーツァルトと違い、貴族のパトロンをたくさん持っていた。ヴァルトシュタイン伯爵がたくさん紹介状を書いてくれたこと、フランス革命後のウィーンの風潮にも助けられていた。いちばんの親玉は神聖ローマ皇帝の息子にして弟のルドルフ大公だ。ゲーテと会った時の会話が面白く、ルドルフ大公を見て、一歩引いて控えるゲーテに対して、逆にルドルフ大公につかつかと歩み寄って挨拶してしまうベートーヴェン。ルドルフ大公はベートーヴェンを甘やかしており、普通にベートーヴェンに挨拶を返すが、そのせいでベートーヴェンは自分の立場を誤解してしまうのだ。ゲーテは極めて常識人であり、そのせいでベートーヴェンに失望されてしまう。
弟の子、カールに対する偏愛は、かえってカールを自殺に追い込んでしまう。愛しているから大事にするのではなく、自分の道具のように使ってしまうので、カールは自分のしたい勉強ができなくなってしまう。
ベートーヴェンのこの性格は、飲んだくれの売れないテノール歌手であった父親が、息子を英才教育してモーツァルトのような天才に育て上げて金を儲けようとするあまり、小学校に通わせず、真夜中にも叩き起こしてレッスンをする・・ような異常な教育をしたことも大いに影響があるだろうとのこと。また作曲家として生きたいのに耳が聞こえなくなって来たことで、性格が捻じ曲がって来たことも関係ある。
本当にこういう人は友人に持ちたくない・・と思うほど、わがままで癇癪もちで、ひどい人・・現にいくつかの友情を失い、何人もと絶交しているが、それでも最後まで援助は途絶えることがなかった・・というのが不思議である。
初めての第九の演奏会は大成功で、万雷の拍手が指揮台にいたベートーヴェンには聞こえなかった話は有名だが、その公演で得られたお金の少なさに怒ったという話は初めて知ったなぁ。ロッシーニがチャチャっと書いたオペラは娯楽だからお金が儲かり、ベートーヴェンが何年も暖めつつ必死に書いた芸術は儲からないのか・・と嘆いたという。
ベートーヴェンは当時、時代の先を行きすぎてたようなところがあるのよね。死後100年以上経って、ようやく時代がベートーヴェンに追いついた。