動物たちにぬくもりを!

動物愛護活動の活動経過や日々の出来事、世の中の動き等幅広く紹介します。

被災犬「むっちゃん」、幸せな日々を壊した原発事故

2022-03-18 05:51:06 | 東日本大震災

被災犬「むっちゃん」
 幸せな日々を壊した原発事故…庭につながれたまま残され

2022年3月7日(月) 

ペットと暮らせる特養から 若山三千彦

ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」は、今からちょうど10年前、2012年の4月1日に開設しました。
東日本大震災、そして福島原発の事故から約1年後のことです。
皆さんは、福島原発事故で避難を強いられた区域に、たくさんの飼い犬、飼い猫が取り残されたことをご存じでしょうか?
そして大勢のボランティアが決死の覚悟で取り残された犬たち、猫たちの救出活動に取り組んでいたことを知っていたでしょうか?
そんなボランティアの方々に救われた被災犬、被災猫を、わずか1匹ずつですが、「さくらの里山科」でも受け入れました。


「犬猫みなしご救援隊」のスタッフに抱かれるむっちゃん(右)と兄弟犬(「犬猫みなしご救援隊」撮影)

秋田犬にちょっと雰囲気が似ている白い雑種犬の「むっちゃん」は、福島県の楢葉町で暮らしていました。
楢葉町は福島原発事故の時に全町避難した町です。
民家の広い庭で、兄弟犬と2匹で飼われていました。
穏やかで人懐っこいワンちゃんですから、きっとかわいがられていたのだと思います。
兄弟犬と一緒に幸せに過ごしていたのでしょう。
そんな平穏な日々は、福島原発の事故で奪われてしまいます。
もちろん飼い主さん一家も、好きでむっちゃんたちを残したのではありません。
用意されたバスでの一斉避難だったため、ほとんど荷物も持たずに家を出るしかなかったのです。
そもそもペットは、バスに乗せてもらえませんでした。
一時的な避難なので、ペットは置いていくようにと説明されたそうです。
それがまさか、4年以上も避難が続くとは、誰も想像していなかったのでしょう。
なお、私は、ペットを置いて緊急避難させた判断は間違っていないと思います。
原発事故が発生し、被曝(ひばく)の危険性がある状況下では、人命を最優先するのは当然の判断だったと思います。
ただ、その後、取り残されたペットたちを実質的に見捨ててしまったことについては、もう少しやり方があったのではと疑問に感じますが、このことについては後にまた述べます。
人に飼われている犬や猫は、人がいないと基本的には生きていけません。
むっちゃんと兄弟犬は、庭でつながれていたので、餌を探しに行くこともできない状況でした。
そんなむっちゃんを始め、避難区域に取り残された犬や猫たちの命をつないでくれたのがボランティアさんたちでした。

得られた餌を狙って他の犬たちが襲ってきた…絶望的な日々

救われて安堵しているような表情の「むっちゃん」(「犬猫みなしご救援隊」撮影)

ボランティアさんたちは、原発事故直後に餌置き活動を始めました。
残された犬、猫たちのところに、餌と水を置いていく活動です。
被曝の危険におびえながら、無人の家々を一軒一軒見て回り、犬や猫が取り残されている所を発見しては、餌と水を置いていく。
それは大変なことだったと思います。
いえ、大変などという言葉では表せないほどの辛苦だったと思います。
そのようなボランティアさんたちの無償の貢献のお陰で、むっちゃんと兄弟犬は命を保つことができたのです。
むっちゃんたちは、食べる物だけは得られたとはいえ、大好きな飼い主さんも他の人も誰もいない無人の地域で、さぞ寂しかったことでしょう。
しかも困難は、寂しさだけではありません。
得られた餌を狙って他の犬たちが襲ってきたのです。
リードから外れるなどして自由になった犬たちは、群れをなして他の犬の餌や、農家の庭で飼われている鶏などを襲っていました。
餌置き活動だけで全ての犬が食べ物を得られたというわけではなく、多くの犬、猫たちは飢えていました。
特に自由になった犬たちには、居場所が定まっていませんから、ボランティアさんたちが餌置きをするのは困難でした。
だから犬たちも、生きるために必死で、他の犬の餌を奪うしかなかったのです。
ボランティアの方々がむっちゃんと兄弟犬を救出した時、むっちゃんは大けがをしていたそうです。
犬たちに襲われてできたけがです。
もう少し救出が遅かったら、むっちゃんの命はなかったことでしょう。
福島原発の事故から数週間がたつと、避難を強いられた区域の住民の帰宅の目途がたたないことがわかってきたので、ボランティアの皆さんは、餌やり活動だけでなく、犬猫の救出活動を行うようになります。
むっちゃんたちを救出してくれたのは、「犬猫みなしご救援隊」という、広島市に本部がある、動物愛護活動をするNPO法人です。
東日本大震災後、福島県の隣の栃木県に大型シェルター(犬猫の避難施設)を作り、何千匹もの犬猫の命を救いました。
同団体のスタッフに抱かれるむっちゃんのパネル写真があります。
やっと救われて安堵(あんど)しているようなその表情には、胸を打つものがあります。
無人の家に取り残され、大けがまでして、どんなにか不安だったことでしょう。
どれほど絶望したことでしょう。
そこから救われたむっちゃんの気持ちが痛いほど感じられる写真です。

(次回に続く)

若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長  1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取(みと)り犬(いぬ)・文福(ぶんぷく) 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。


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