影の告発 | ||
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読 了 日 | 2009/5/1 | |
著 者 | 土屋隆夫 | |
出 版 社 | 角川書店 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 362 | |
発 行 日 | 1977/2/25 | |
コード | 0193-140608-0946(1) |
和37年の作品で、翌38年度日本推理作家協会賞を受賞している。
ここに登場する探偵役の検事・千草泰輔は本作が初登場だそうだが、僕はその後に彼の登場する作品である「不安な産声」や「針の誘い」をすでに読んでおり、なじみの人物となっている。向き合う事件は違っていても、刑事たちとともに地道な捜査を根気良く続けて、人間の本質を追いながら真相に近づいていく様は、好感が持てる。
常に本格推理と、文学との融合を目指す著者の作品に当たり外れは無いというような意味合いの書評を誰かが書いていたが、長・短編合わせて9冊目となる著者の著作を読んできて、その通りだという思いを重ね合わせている。
今回は、モード・ショーの開催でにぎわっている東都デパートの、エレベーターの中で男が殺害されるという華々しい事件の幕が切って落とされる。たまたま、同じデパートで催されていた、前衛書道展を上司への義理で見に来ていた検事の千草泰輔は臨場していた刑事にいざなわれて現場へと向かった。
被害者は水道橋近くにある、光陽学園高校の校長・城崎達也だった。臀部に注射器様のもので毒物を注射されたらしく、死の直前に「あの女がいた・・・」という言葉をエレベーターガールが聞いていたが、まもなく倒れて死亡した模様。そばに一枚の名刺が落ちており、警察は重要な手がかりと見て、名刺の人物を訪ねた。
名刺の人物は直接事件とは関係がなさそうだったが、幸いにして名刺は最近作ったばかりのもので、渡した人物は六人とわかる。
草検事と、警察陣の地道な捜査が、僅かな手がかりを元に少しずつ事件の真相に近づいていくという展開は、ミステリーを読んでいるという気分を高揚させる。本書では中ほどで、ほぼ容疑者が絞られていくのだが、問題はその容疑者が本当にこの犯罪を犯したのかどうかという疑問を感じさせるところだ。
つまり、確固としたアリバイが容疑者を黒と定めることの出来ない原因なのだ。著者は、自らをトリック作家だと言明しているが、読み終わってみれば正にこの作品などもトリックといえないことは無い。しかし、それをトリックだと感じさせないところが、ミステリーとしての面白さを構成しているところだろう。
僕の拙文ではいかにも簡単な筋書きに思えてしまうが、いくつもの重なり合った、過去の経緯や、複雑な人間関係が単純と見える犯罪を作り上げており、それを掘り下げて真相を究明していく過程に本格推理の醍醐味が込められている。
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