隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1317.外科東病棟

2013年01月30日 | メディカル
外科東病棟
読 了 日 2013/01/24
著  者 江川晴
出 版 社 小学館
形  態 文庫
ページ数 283
発 行 日 1998/08/01
I S B N 4-09-715455-4

 

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日いすみ市大原の古書店で目にして、タイトルに惹かれて買ってきた。いや、タイトルだけではなく特別価格105円ということにも惹かれたのかもしれない。
裕福とは決して言えない僕の懐具合から、安いということは買う動機の大きな要因となるのだ。貧乏自慢は置いといて、最近医学・医療ミステリーに少しご無沙汰しているから、目についたのか、カバー折り返しの著者紹介を見ると、元看護婦(現在は看護師だが、著者のころはまだ看護婦だった)さんだったようだ。ただ作品中では、ナースで通しているから、こうした場合は英語の方が便利だ。
体験を生かした医療小説を多く著しているようで、高名な作家のようだが、僕にとっては初めて知る作家だ。こうしてみると、まだまだ知らない医療小説を書いている作家は多くいるのだろうと思われる。

 

 

本書は著者のナースとしての活動体験から得た、知識と経験が活かされたドキュメンタリー小説だ。というのはおかしな言い方だが、登場人物は著者の創作ではあるが、そこで語られる一つ一つのエピソードは、事実に基づいたものらしい。
僕は今まで読んできた医療ミステリー、医療小説をメディカルという一つのカテゴリーに収めてきたが、今回読んだ本書は、それらの小説とは一味違った感じを受けた。確かに病院の中での出来事や、医師やナースの活動が描かれているのだが、そうしたことは二次的なことで、つまるところは人間同士の信頼や絆を描くことが目的で作られた作品だということなのだ。
そうした意味からすれば、ミステリーとは言えないかもしれないが、いろいろな出来事にぶつかりながら成長していく様は、感動的だ。新人ナースの体験は先輩、上司、医師そして患者との接触から、様々なドラマを生み出していく。時には思わぬ失敗に落ち込んだり、患者の死に遭遇してトラウマを抱えたり、あるいは重病の患者によって逆に励まされたりと、病院内のドラマはミステリアスでエキサイティングで、サスペンスにも満ち溢れている。そこには作り物ではない人間の生き様が描かれているから、自然に感情移入をして泣いたり笑ったり・・・・。

 

 

ステリーを読むことを目的とした僕の読書生活の上では、こうした感動的な話は必要不可欠ではないのだが、決して長くはない人生の先行きを考えるとき、やはりいろいろと異なるジャンルの話も加えていくべきか?などといろんなことを考えさせられる。
僕だって、近い将来死に立ち向かうことになるだろう。そんな状況からもこうした作品を読むと、軽く読み飛ばすことが出来い。
暗いエピソードには身につまされ、明るいエピソードには励まされ、作中のナースと同様の心境に陥るのだ。
しかし、どちらかといえば楽天的で、能天気な僕はしばらくすればまたわ捨ててしまうだろうが。そこが僕の良いところか、などと馬鹿な僕は自賛する。

 

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1316.疑惑 裁判員裁判

2013年01月28日 | リーガル
疑惑 裁判員裁判
読 了 日 2013/01/22
著  者 小杉健治
出 版 社 集英社
形  態 文庫
ページ数 325
発 行 日 2011/03/25
I S B N 978-4-08-746676-8

 

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来るだけ外出の折古書店に立ち寄るのは控えようと思いながらも、足が向いてしまうのは永年の習性が染みついているからだろう。
うちのカミさんが幼いころの娘を連れて歩くときに、店に入る前に「今日は買わないよ、見るだけだよ!」とよく言い聞かせていた。店に入ってほしいものがあっても、まだ3-4歳だった娘は「今日は見るだけだよね?」と言って我慢していたようだ。今年48歳になる娘は、もう可愛かったそのころの面影もないが・・・・。
僕も、古書店に入る時に「今日は見るだけ」と自分に言い聞かせるのだが、貧乏性の治らない僕は「いつか読む」だろう本をついつい買ってしまうのだ。(昔は読みたい本を手に入れるのは簡単ではなかったから、目についたときに買わないと二度と目にする機会がなかった)
特に著者の本は裁判劇についての著書をすべて読もうと思っているから、105円の棚では目につく限り買うようにしている。
BOOKOFF君津店で、珍しく105円の文庫棚に本書があって、買ってきた。BOOKOFFに立ち寄った際には、好きな作家の本を無意識に目で追うが、著者の作品が105円の棚に並ぶことはめったにないから、有ると「見るだけ」などということはすっかり忘れて、レジに向かう始末だ。全く3-4歳の子供以下だ。子供には聞かせられない。

 

 

それでも今回は「いつか読む」本ではなく、すぐに読んだからまあいいだろう、と自分を納得させる。
現在は過去によって形成される、なんてことを誰かが言っていたが、著者の作品を読んでいると、過去に起きた人間ドラマに起因する事件が多い。不利な状況の被告人を弁護する代理人、すなわち弁護士の法廷闘争は、依頼者の経歴や環境、人とのつながり等をできる限り詳しく知る必要がある。すべてを知ることで公判を有利に導くことができるのだが、時として被告人は誰かをかばうために真実を隠すこともある。
本書は副題にある通り、2009年に施行された裁判員制度による裁判の推移を主として描かれたストーリーだ。ごく普通の一般市民である僕は、事件の公判を傍聴したことはだいぶ昔に一度だけしかない。普通は生涯そういう経験はしないというのが一般市民だろう。
だから、裁判員裁判が施行されても、従来の裁判とどう違うのか実感としてイメージできないのではないだろうか。ドラマや映画の裁判劇でお馴染みとはいえ、実際の場とは伝わってくる雰囲気から違うのではないかと思う。
小説では欧米の作品で陪審裁判が多く描かれているが、今回本書を読んでいてよく似ているなと感じる。ただ、1回ごとの公判が休廷の間や、閉廷の都度、裁判長をはじめとする判事とともに、裁判員は裁判の推移について論議、検討する場面が描かれており、その辺は陪審裁判と違うところだ。

 

 

書では、図らずも裁判員に選出された人物の、父親捜しに絡めて家族のルーツを探るということと、俊英の弁護士の、殺人罪で起訴された被告の不利な状況を、国選弁護人にもかかわらず、奮戦するさまが描かれる。
そうしたシチュエーションは、早坂暁氏の「事件」シリーズを髣髴させる。
アメリカの弁護士作家・ガードナー氏の「ペリー・メイスン」を引き合いに出すまでもなく、法廷劇の面白さはいかに検察側の主張を覆せるが鍵となる。日本の法廷では、本職の弁護士によれば、かの国の陪審裁判のような劇的な論戦はない(出来ない)とのことだが、実際の裁判では裁判員裁判になって、裁判員に説明するかのような弁論が出来るようになったのかどうか。
これからもこうした多くの裁判劇のストーリーを読むことを考えて、一つ法廷を傍聴する機会を探してみようか?

 

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1315.花束に謎のリボン

2013年01月24日 | 連作短編集
花束に謎のリボン
読 了 日 2013/01/20
著  者 松尾由美
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 319
発 行 日 2012/02/20
ISBN 978-4-334-76363-3

 

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めて読んだ著者の作品「銀杏坂」、続いて読んだ「安楽椅子アーチー」など、ファンタスティックな連作ミステリーに惹かれて、少しずつ読み進んで、本書で5冊目となる。
設定はファンタジーだが、謎解きは本格ミステリーで、中でも「安楽椅子アーチー」のシリーズは名探偵が安楽椅子そのもので、それが安楽椅子探偵であるというところが愉快だ。人間の主人公は小学生だが、彼にだけ椅子の話が聞こえるという設定も面白い。
本書も連作ミステリーということで、同様のミステリーを期待して手にした。あまり売れてない小説家と、花屋の手人として働くカップルが主人公だ。
カップルが謎解きに挑むという設定は、古くはアガサ・クリスティ女史の「トミーとタペンス」のシリーズが有名だが、僕は平岩弓枝氏の「ふたりで探偵」も好きだ。残念ながら平岩女史は1冊しか書いてないが・・・。
最近では、富豪の女性刑事とその執事が活躍する「謎解きはディナーの後で」(東川篤哉著 小学館)が、評判をさらっている。厳密にはカップルではないが、これもコンビといっていいだろう。

 

 

こうしたカップル探偵は、シャーロック・ホームズに対するワトソンのように、二人の会話で推理が進む状況を示せるという利点があり、読者としては理解がしやすくセリフ劇は読みやすくもある。
本書でのコンビは先述のごとく、小説家・三山嘉信と大手の花屋チェーンの社員・桜井智花の同棲カップルだ。自由業である嘉信は時間に余裕があることから家事をこなしており、都心の店で接客する智花が、そこで体験した不思議な話を持ち帰ると、それに対して嘉信が怪しげな推理をするのだが、“当たるも八卦”みたいな頼りない結論を導き出すのだ。
初めの内は智花もうなずきながら聞いているが、どうも嘉信の話がいつもちょっとだけ悪意のある想像に傾くので、反論する。それでもそうした推理は、平凡な日常にちょっとした刺激を与える、一服の清涼剤のようなものか。

 

こでは、謎の推理よりも同棲している二人の関係の危うさみたいなものが、時々現れて読んでいるとそちらの方が気にかかる。言ってはいけない言葉に気を付けながらの会話は、時にフラストレーションをため込むこともあるようだ。
カップルのこうした関係は、ミステリーでよく使われるシチュエーションだが、本書の場合は少し深刻になりやすいのでは?と思っていたら、やはり終盤で心配していた通り?の展開を見せるかと・・・・。

話がそれるが、僕は目次で下記のタイトルを見ていて、5作目の「穂状花序」(“すいじょうかじょ”と読む)とはどんな意味かと、三省堂国語辞典を引いたのだが出ていない。コンパクトな辞書だから語彙が少ないのかと、講談社の日本語大辞典を引いたら出ていた。穂のような形の花の並びとあるって、図解も出ている。
だが、この作品を読んでいたらなんと!詳しい解説も出ているではないか。
最後の作品のタイトルは、同じタイトルのアメリカの短編作家・O・ヘンリーの作品を見チーフにしたものだ。一話一話はミステリーとして?完結してはいるものの、全体を通してみれば恋愛小説の感じが強い。前述のごとく同棲カップルの危うい関係の行く末が一番のミステリーか。

 

初出
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 カリフォルニア・ドリーミング 小説宝石 2006年7月号
2 アマリリス 小説宝石 2008年8月号
3 アンダーウォーター ジャーロ 2010年冬号
4 フラワー・イン・ザ・サン ジャーロ 2010年夏号
5 穂状花序 ジャーロ 2010年秋冬号
6 楽園の鳥 ジャーロ 2011年夏号
7 賢者の贈り物 ジャーロ 2011年秋冬号

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1314.日蝕の街

2013年01月21日 | サスペンス
日蝕の街
読 了 日 2013/01/18
著  者 勝目梓
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 253
発 行 日 1999/06/20
I S B N 4-344-72831-6

 

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の読書記録では初めての作家だが、勝目氏の作品は若いころ結構読んできた。どんな作品をどのくらい読んだかは、当然のことながら記憶の底から漏れている。小気味のいいアクション作品だったということしか覚えてないが、その読みやすい文体にひかれていた。
先達ていすみ市のブックセンターあずまで目について、何となく読みたくなって買ってきた。
勝目氏は、文学作品を目指して同人誌などに発表していたが、挫折して中間小説―それも官能的なバイオレンス小説―に転身した後は、数百冊の作品を生み出したという多作家だ。
そうした多くの作品の後を追えずに、読むのをやめてしまったのかどうかは、今となっては思い出せないが、どうでもいいことか。もちろん僕が読んだ作品も多くは官能的なバイオレンスといった作品だが、エロスとバイオレンスの官能小説にしては粘着質なところはなく、すっきりと後味のいい印象が今も残っている。
そんなところがファンの心を掴んでいるのかもしれない。

 

 

1932年生まれだという著者は、もう80歳を超えているはずだ。ネットで検索すると、2010年を超えてもなお、自伝的小説の中で、自らの生と性を見つめて、それまでの作品の生まれた根源を明らかにしている?ようだ。
気まぐれな読書を続ける僕が、作家を、それもだいぶ年長者である著者を考察することなど、まことに以ておこがましい限りだが、老境に達してもなお著者は、純文学への想いを持ち続けているのではないかという気にさせる。
数百冊の作品の中のたった1冊を読んで、そうしたことを感じる僕の方が、少しおかしいのか。そんなことを思いながら読んでいると、内容にかかわらず著者の作品を生み出す際の、エネルギーのようなものが伝わってくるような気がするのだ。多くの作品を次々紡ぎだす、これでもかといった声が聞こえてきそうだ。

 

 

またま手にしたこの作品は、フリーのルポライターを生業とする鷲津洋人の一人娘・久美子が誘拐されるというスタートを切る。得体のしれない二人の男によって拉致された娘は、男たちによって凌辱の限りを尽くされる場面が描かれるのは、他の作品と共通したところだ。
大した資産もない鷲津はなぜ娘の久美子が誘拐されたのかと思ったが、犯人の狙いは鷲津の妻・和子の兄にあった。国会議員の荒木が和子の兄だった。犯人は鷲津に対して荒木に身代金・2千万円を用意させるよう命令してきた。鷲津は警察に連絡しようとするが、荒木と妻・和子に説得されて、娘の命を第一と考え犯人の要求に応じることにする。
身代金受け渡しの場所で、犯人の指示通りにそこにあったバイクの荷台に金を縛ってその場を立ち退く。だが、バイクで立ち去ろうとした一味を一台の車が追ってバイクを転倒させた。バイクに乗っていた犯人は逃げ果せたが、身代金はバイクとともに炎に包まれた。バイクに追突した車は偶然の事故か?
この事故をもとに鷲津は事件の裏に、身代金目当ての単なる誘拐事件ではないのでは?という疑問を持つ。

鷲津の感じた疑問は現実となって、終盤に入ると事件は別の様相をを見せ始めるのだ。

 

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1313.薔薇の殺意

2013年01月18日 | 本格
薔薇の殺意
From Doon with Death
読了日 2013/01/15
著 者 ルース・レンデル
Ruth Rendell
訳 者 深町眞理子
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 295
発行日 1981/12/15
ISBN 4-04-254102-X

 

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まぐれな僕の読書は一時期夢中になって読んだシリーズをも忘れさせてしまう。あまり前のことで確かな時期は忘れてしまったが、ルース・レンデル女史の名前を知ったのは、WOWOWが本放送を前に無料で試験放送をしていた時期だった。(今となってはずいぶん昔のことだ)
ちょうどその頃僕は会社の取引先の知り合いから勧められて、BSチューナー内蔵の大型テレビを購入して、初めてゴースト映像のないきれいな画像に感激して、好きなドラマをビデオ録画することに夢中になった。(同時にそのテレビで間もなく悲しい事故、日航機の墜落事故を知ることにもなったのだが・・・・)
そんな時WOWOWで、イギリスBBC制作のドラマ「ルース・レンデル・ミステリー」が放送されたのだ。
ジョージ・ベイカー、クリストファー・レイヴンスクロフト主演による、ウェクスフォード警部シリーズ11作品は、警察ドラマであると同時に本格推理ドラマでもあり、僕は毎回夢中になって視聴しながらビデオ録画もした。
多分この読書記録を始める10年近く前のことだったと思う。そして、その後しばらくしてからルース・レンデル女史の作品を買い集めることになる。この読書記録を始めて3冊読んでからはしばらく間が開いており、ちょっと前に翻訳小説をまとめて読んでおこうと思ったのを機会に本書を手に取った。

 

 

記録を見ると最後に読んだレンデル作品は、同じウェクスフォード警部シリーズの「偽りと死のバラッド」で、2000年7月だから12年も前のこととなる。レンデル女史はファンに人気の高い、このウェクスフォード警部シリーズよりも、シリーズ外のサスペンス小説の方に力を注いでいるようだが、それでもシリーズは30作品以上になっており、そのほとんどが映像化されているみたいだ。
WOWOWで放送された作品はビデオ化されたが、その後DVDにもなったのだろうか?僕はずっと後になってから、ミステリーチャンネル(スカパーのチャンネルで、現在はAXNミステリーとなっている)で、放送されたものを録画したものや、ビデオテープからダビングしてDVDにしたものを17本ほど保存しているが、近頃はほとんど見ることもなくなった。
本書を読んだのを機に、他の作品も読み映像も再見しようと思っている。本書も本格ミステリーだから、ネタばらしになる恐れもあり、あまり詳しくは書けないのだが、読み終ってからタイトル(和訳の方)にも多少の(いや、多くのかな?)ヒントが隠されていることが分かる。因みに原題の方は「ドゥーンから死を込めて」とでも訳すのか?なかなか味のあるタイトルとなっている。

 

 

の作品はウェクスフォード警部シリーズの最初の作品で、キングズマーカム(架空の地方)署のバーデン警部がバースンズ宅で、バースンズ氏の妻が行方不明との話を聞く場面から始まる。
近所のよしみで愚痴を聞くくらいの軽い気持ちで、聞いていたのだがその後、彼女は牧草地で絞殺死体となって発見される。平凡な主婦がなぜそのような事件に巻き込まれたのか?暴行の痕跡はなかったことから、犯行の目的は別にあったのか?
自宅にあった彼女の遺品の本の余白には、彼女への思いをつづった文章が書きこまれていた。彼女に思いを寄せていた男?ウェクスフォード警部の捜査は、その線に沿って始められる。

シリーズの特徴はウェクスフォード主任警部の、あくなき地道な捜査が細かく描かれるところにある。試行錯誤を繰り返して、思わぬ展開を見せていくストーリーは、本格ミステリーの醍醐味である。

 

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1312.真夜中のパン屋さん3

2013年01月15日 | 青春ミステリー
真夜中のパン屋さん
午前2時の転校生
読 了 日 2013/01/13
著  者 大沼紀子
出 版 社 ポプラ社
形  態 文庫
ページ数 381数
発 行 日 2012/12/05
I S B N 978-4-591-13182-4

 

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オン木更津店の2階にテナントとして出店している未来屋書店で、昨年暮れに2冊の文庫を買った。その1冊が本書だが、もう1冊はなんだったろう?
という具合に僕の記憶力は年々歳々衰えていく。なんだかつい最近のことまで忘れていくのは、いいことなのだろうか?と、そんなことを思いながらこれを書いている。
文庫とはいえ新刊を2冊も買うのはしばらくぶりのことではないか?ずっと前にもらったクレジット会社のギフト券の1枚が残っていたので、実質僕の財布から出たのは数百円だった、そんな言い訳を誰にしているのだろう。
貧乏生活の僕が新刊を2冊も買うのは贅沢だと、誰かに言われそうな気がして、(誰もそんなことを言うはずはないだろうが…)気の小さい僕は常に人の目を気にして・・・・。(そんなこたアねえか!)
この「まよパン」のシリーズも早3冊目となった。短い期間に3冊も、と思ったら最初の本が出たのは2011年だから、それほど短期間でもないのか。近頃月日の経つのを早く感じて、歳月人を待たずなんていうが、ほんとにその通りだと感じて・・・・。ところで、そういった諺の一つに「光陰矢のごとし」というのがあるが、昔からの諺にケチをつけるつもりはないが、光陰は矢より早いのではないか!
いや、この場合の光陰とは光のことでなく歳月のことだからそれでいいのか。くだらないことを考えた。

 

 

ブランジェリークレバヤシという名の真夜中だけに営業しているパン屋さんの物語は、店のオーナー・暮林陽介、パン職人ブランジェの柳弘基、そして篠崎希の3人が主人公たちだ。
もともとこの店を開こうと計画していたのは亡くなった暮林の妻の美和子だったが、病のために早逝した彼女の遺志を継いで、彼女の弟子ともいえる弘喜を迎えて開業したのだ。そこに現れたのが美和子を頼ってやってきた篠崎希だった。そんな風にして、ブランジェリークレバヤシはおかしな3人の組み合わせができたのである。
イケメンだが少し短気で、パン作りに関してはうるさい弘基と、何事にも鷹揚な暮林のコンビが作るパンに、次第に顧客もついて、常連客も増えていく。そうした店の状況や、望みの学校生活の中で起こるちょっとした事件が彼らの協力で解決していくというストーリーは、何となく癒される感じだ。
サブタイトルにあるように、今回は希のクラスに腹話術の人形を抱えた変な転校生がやってきて、騒動となる話だ。

 

 

は読みながら、暮林と弘喜のコンビに、昔の中村八大氏と永六輔氏のコンビを思い浮かべた。といっても、もちろん僕は直接に彼らを知っているわけではない。TVの番組か雑誌の対談かなんかで知ったエピソードだ。
二人がNHKの音楽バラエティ「夢であいましょう」の音楽を担当し出演もしていた頃の話だ。番組のために作られた「上を向いて歩こう」を坂本九氏が歌ったのを聞いた永六輔氏、「俺はあんな“上をむフーいて、あハーるこう・・・」なんていう詞を書いた覚えはない!」と、八大氏に対して憤慨するのに対して、八大氏は「まあ、いいじゃないの」といって、抑えたというのだ。 九ちゃんの独特の歌い方を気に入らない六輔氏だったが、その後唄はヒットして、中村八大―永六輔のコンビはその後も坂本九氏の歌をはじめ若手歌手の歌を次々とヒットさせることに、そして彼らは六、八、九トリオなどといわれるようになった。(ちなみに中村八大・永六輔コンビが作り番組で唄われた梓みちよ氏の「こんにちは赤ちゃん」は、1963年のレコード大賞に輝いた。)
今となってはもうずいぶんと昔の話だが、毎週楽しく見ていた番組を折に触れて思い出す。トリオの中の二人はすでにこの世の人ではない。番組にはまだ、寅さんで売り出す前の渥美清氏らも出演しており、楽しい番組だった。いやでも時の流れを、時代の変化を感じさせられる。
話が違う方向にずれた。

 

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1311.ラスト・チャイルド

2013年01月12日 | 冒険
ラスト・チャイルド
The Last Child
読 了 日 2012/01/09
著  者 ジョン・ハート
John Hart
訳  者 東野さやか
出 版 社 早川書房
形  態 文庫上下巻
ページ数 367/345
発 行 日 2010/04/15
ISBN 978-4-15-176703-6
978-4-15-176704-3

 

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xnミステリー(スカパーHD 649ch)のBOOK倶楽部で紹介されたのを見たのかどうか、僕が本書を知ったのはどこだったか忘れたが、タイトルだけは記憶の隅に残っていたらしい。
BOOKOFF木更津店で105円の文庫棚に、珍しく上下巻がそろっていたので買ってきた。今これを書いていて、いやもしかしたらこれを知ったのは、以前BS11(イレブン)で見たのかもしれない、とどうでもいいことだが頭の隅をよぎる。不況を伝えられる出版界の現況をよそに、否だからこそか、テレビの書評番組は打ち切られることなく、僕は楽しみに毎週見ている。
そのBS11で現在放送されている「宮崎美子のすずらん本屋堂」という番組を見ていて、最初はなぜ番組のMCに彼女が選ばれたのか分からなかったが、回を重ねるうちに宮崎美子氏が大変な読書家であることが分かってきた。しかもただ読むだけでなく、著者の狙いや内容を深く理解していることが、到底僕などが足元にも及ばないことも分かったのだ。
毎回作家をゲストに迎えて、新作についてのトークを行うコーナーでは、彼女がそれらの本をよく読んでいることが、トークの中で作家にも伝わっていくのがわかり、作家の対応が真剣みを増していくのを見るのも楽しい。以前はNHKで放送されていた「週刊ブックレビュー」という番組では、惜しくも亡くなった児玉清氏が名インタビュアーを務めていたが、宮崎美子氏のインタビューも、控えめながらそれに劣らない実力を示している。

 

 

ちょっとわき道にそれた。
最近は翻訳小説は読み始めてしばらく、舞台となっているその地方の環境や慣習、人々の生活や人情の機微に慣れるまでが、近頃は時間を要する。そんなことから翻訳物から遠ざかっているのかもしれない。昔はそんなことはなかったのになあ、と思うのは老人の繰り言か?
面白い本を読むには、それなりの努力???も必要ということか。努力といえば、物忘れも加齢とは関係なく、忘れないための努力が歳を経るごとに減ってきているのが原因だということだ。僕などはその典型だ。
全く努力をしなくなってきた。安きにおぼれるというが、楽な方楽な方へと傾いている。そんな中でこのブログが続いているのは奇跡のようなものだ。

 

 

こか定かではないところで紹介されていた内容は、全くと言っていいほど覚えていないが、何とはなしに、「誰かが行方知れずになって、その家の少年が捜し歩く・・・」というような、ストーリーではないかと思っていた。
読み始めて、確かに一人の少女が行方不明になっているというスタートだったが、いわゆる営利誘拐事件ではなく、失踪事件だ。事件は1年前に発生した。
失踪したのは13歳の少女・アリッサ・メリモンだ。彼女はジョニー・メリモン少年の双子の妹で、この1年傍から見たら異常とも思える行動とともに妹アリッサを探し続けている。メリモン家は、父親のスペンサー、母親のキャサリン、そしてジョニー、アリッサの兄妹の4人家族で、平和な暮らしをしていたが、突然のアリッサの失踪が、父親の家出や母親の薬物依存を招いて、悲惨な状態に陥っていた。
ジョニーはそんな状況の下、親友のジャック・クロスを巻き込みながら、あきらめずに妹を探し続ける。近隣の性犯罪者をしらみつぶしに調べるというジョニーの危険な行動に、ひそかにキャサリンに思いを寄せるハント刑事は、手を焼きながらも理解しようと努めるのだが・・・・。
そうした中、またもや一人の少女が行方不明となる。

悲惨な真実が分かる結末を迎えるのだが、事件解明のカギを握る人物の感動的な行動が胸を打つ。

 

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1310.サクリファイス

2013年01月09日 | 冒険
サクリファイス
読 了 日 2012/12/28
著  者 近藤史恵
出 版 社 新潮社
形  態 文庫
ページ数 290
発 行 日 2010/02/01
I S B N 978-4-10-131261-3

 

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藤史恵氏の作品を読むのは随分としばらくぶりのような気がして、記録をたどったら、2011年5月に「モップの精と二匹のアルマジロ」を読んだのが最後だった。およそ1年半ぶりの本書は、2008年に大藪春彦賞を受賞した作品だ。
大藪春彦賞という賞がどういう趣旨のものか僕はよく知らないのだが、昔よく読んだ大藪氏の作品からのイメージと、近藤史恵氏の作品イメージが合わなくて、近藤氏の受賞に関してちょっと違和感を感じたこともあった。
しかし、考えてみれば大藪賞といっても、必ずしも大藪春彦氏の作品のような、クールな殺し屋が出てくる小説ばかりとは限らない。いや、そうした大藪氏の作品に似た小説は、かえって受賞の対象にならないのだろう。

 

 

それにしても近藤史恵女史(前は近藤史恵嬢とも書いてきたが、もうベテラン作家の仲間入りだろうから、敬意を表して・・)は、実にたくさんのシリーズキャラクターを生み出している。
僕が著者の作品を読むのは、アンソロジーを除いても本書で27冊目となる。いくつかのシリーズキャラクターに惚れ込んで読み継いだ結果だ。前出の「モップの精と二匹のアルマジロ」のキリコちゃんや、名探偵・今泉文吾の梨園シリーズに出てくる歌舞伎役者・瀬川菊花、その弟子の瀬川小菊、また時代物の猿若町捕物帳シリーズ江戸・南町奉行所の同心・玉島千蔭などなどである。
僕に取れば、読みなれたキャラクターたちの活躍を期待したいところだが、著者のことだから今度の作品でもまた魅力的なキャラクターが生まれたのだろうと、思いながら手にした。

 

 

作品は、サイクルロードレースを題材としたストーリーで、そうした背景の中での人間ドラマを描いている。
巻末の解説氏によれば、サイクルロードレースについては、いろいろと難しいルールもあって、初めての者にとっては理解の及ばないところもあるらしい。
僕は全部読み終わってから、この解説を読んだのだが、(解説の)最初の方を読んで、何を言ってるのだろうと少し反発の気持ちが湧いた。どうもこの解説者は自分がサイクルロードレースに関しては、いかにエキスパートであるかを吹聴しているような感じを受けたからだ。まあしかし、そのくらいでないとなかなか人の作品の解説などできないのかもしれないが・・・・。
確かに予備知識なしにこのロードレースを見れば、「あれ!」と思うような場面が出てくるかもしれないが、この作品の読みどころは、先述のごとくサイクルレースに題材をとっており、迫力に満ちたレース場面もさことながら、その中での選手たちの人間ドラマなのだ。それはタイトル「サクリファイス(犠牲)」にも表れている。
いま若い人たちの間では、不安定な社会の在り方も影響してか、将来に夢を持てない人が増えているというような、メディアの報道もあるが、この作品の中の人物のように、自分の目指すところを明確にとらえて、そこに向かって努力する若者も数多くいると思う。

読み終えて、そうした若者がいる限りこの国の将来も見限ったものでもないな、とそんな思いを持ったのである。

 

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1309.カラット探偵事務所の事件簿2

2013年01月06日 | 安楽椅子探偵
カラット探偵事務所の事件簿2
読 了 日 2012/12/23
著  者 乾くるみ
出 版 社 PHP研究所
形  態 文庫
ページ数 353
発 行 日 2012/08/01
ISBN 978-4-569-67863-4

 

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年最初の本は「カラット探偵事務所の事件簿1」の続編だ。といっても、データをご覧のように読み終わったのは暮れの23日だから、2年越しの記事となる。本来は12月31日にアップロードするつもりだったのだが、急に出かけることになり、年が明けてしまった。
2012年は政権交代があったりして、何かと不安定な、不確定な要素を多くはらんだ年だったような気がしている。
それに、東日本大震災の被災地の復興も遅々として進んでないようで、被災者の皆さんの中には、まだまだ辛い日々を送っている方もたくさんいるのではないか。
今年は何とか誰しもがいい年だったと思えるような年にしたいものである。といって僕が何をできるわけでもないから、あまり期待はしない方がいいのかも・・・・。

 

 

待ちに待っていた本なのに、5か月もたってようやく手に入れた。昨年2011年10月に「カラット探偵事務所の事件簿1」を読んで、僕の好みでもあったので、1となっているからには2も出るのだろうというようなことを、ここにも書いたら、多分「文蔵」(PHP研究所発行の文庫型の月刊書籍)に連載されているのを読んだハンドルネーム根無し草さん(僕のブログの数少ない読者の方で、時折コメントをいただいている)から「続きはありますよ」と教えられて、心待ちにしていたのだ。
本シリーズに限らず、著者の作品はアクロバチックといいたいようなロジカルなストーリーが魅力で、読み終わって「アッ!」と 驚かされることが多い。前にも書いたが、ミステリー読書の醍醐味は、なんといっても騙される喜びや、不可能と思われる事件が 論理的に解明された時の驚き、二転三転するストーリー展開などだ。
このシリーズは、所長・古谷謙三が学生時代の同級生・井上を誘って、自分の趣味で始めたような探偵事務所で、謎解きを専門とする探偵事務所だ。

 

 

来、名探偵はホームズにしろポワロにしろ、必ず助手のような人物が側についていることから、というだけで古谷は同級生だった井上を転職させてまで、自分の事務所に引き入れたのだ。だから井上はさしずめホームズに対するワトソンといったところである。
しかしながら、現実には不思議な謎解きを持ち込む依頼人がそうそういるはずもなく、事務所は毎日が閑古鳥が鳴くだけの状態だ。表紙のイラストのごとく、古谷は机で読書、井上は机がないから来客用のソファーで、日がな携帯のゲームをやっている始末だ。もともと古谷家は財閥で、事務所の入っているビルのオーナーでもあることから、探偵事務所が赤字であっても一向に困ることはないのだ。そうはいっても何もせずに一日を過ごすのは、井上にとって苦痛以外の何物でもない。
一見持ち込まれた謎を椅子に座ったまま、詳細を聞くだけで解明する、いわゆる安楽椅子探偵にも見えるが、古谷は時により謎の発生した現場に訪れて、検証も行うから純粋なアームチェア・ディティクティブはない、が、彼の鋭い洞察力や、観察力、そして 明快な頭脳が論理的思考を促して、謎を解明する。

 

 

そんな状態の事務所に今回は下記のように。7つの事件が持ち込まれる。(1がFile5で終わっているので、続くFileナンバーは6から始まっている)
凶悪な殺人事件があるわけではなく、古谷所長が興味を示す事件の謎は極めて日常的なことではあるが、いずれも不思議な現象でなんだろうと思わせることばかりだ。

例えば最初の事件?は、古谷所長の従弟で高校生の長島三郎君が持ち込んだもの。夏休みに彼の兄・次郎の友人たちがマンションの部屋に集まって、バルコニーで日光浴をしているのだが、ある時そこに三郎も行って一日を過ごしたあと、気付くと右腕の肩付近にハート形の白く日焼けしていない部分があった。
誰かがその部分だけハート形に日焼け止めを塗ったのか?ハートもマークは愛の告白か?一体誰がどのよう手段で、そんなことをしたのだろう、次郎の友人たちの中には女性もいたので、彼女たちの誰かが?
と、まあそんな具合である。
パズラー小説ではあるが、どれにも興味を惹かれる謎が提示されて、それに対する論理的解明が面白い。こういう小説を読みながら飲むコーヒーは、また格別の味わいだ。

 

初出(月刊文庫「文蔵」PHP研究所刊)
# タイトル 発行月・号
File6 小麦色の誘惑 2010年11月号
File7 昇降機の密室 2011年2月号
File8 車は急に・・・ 2011年5月号
File9 幻の深海生物 2011年8月号
File10 山師の風景画 2011年11月号
File11 一子相伝の味 2012年2月号
File12 つきまとう男 書き下ろし

 

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