隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0880.モップの魔女は呪文を知ってる

2008年04月29日 | 青春ミステリー
モップの魔女は呪文を知ってる
読了日 2008/4/29
著 者 近藤史恵
出版社 実業之日本社
形 態 新書
ページ数 264
発行日 2007/6/25
ISBN 978-4-408-50484-1

 

前に読んだ「天使はモップを持って」(452.参照)「モップの精は深夜に現われる」(641.参照)に続くキリコちゃんシリーズ第3弾。
しばらく振りに会うキリコちゃんは、相変わらずキュートで可愛いが、頼もしい存在でもある。
第一巻の最終話でめでたく結婚してしまったから、彼女自身のロマンスはないが、恋の橋渡しくらいは出来る。
一話目は、スポーツジムでアルバイトをしている殿内亨君が主人公だ。彼は、いくつかのジムを掛け持ちするフリーのインストラクター・村上芹香に密かに思いを寄せている。何度か2人で飲みに行ったりしているが、それ以上の関係には発展していない。
そんな折に、ビジターの女性がプールの中で火傷をするという事件が起こった。ひょんなことで、ジムの清掃作業をしていたキリコちゃんと知り合った殿内君は、彼女に事件のことを話すと、彼女はなんと数日後ジムの会員となって・・・。
キリコちゃんの推理は、殿内君の恋の行方は?
以前にもまして冴えるキリコちゃんの名推理が舞台を変えながら展開する。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 水の中の悪意 月刊「J-novel」 06年6月号
2 愛しの王女様 月刊「J-novel」 06年12月号
3 第二病棟の魔女 週刊アスキー 06年1月24日~4月11号
4 コーヒーを一杯 書下ろし  

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

読書計画も9年目の半ばが過ぎようとしているが、最近ペースダウンしている。
昨年までの予定では、もうとっくに900冊を読み終わっているはずだったのが、ようやく880冊を読み終わったところだ。
今の調子で行くと、来年(2009年)11月1日の丸10年までに1,000冊という目標はおぼつかなくなってきた。と言って、誰に文句を言われる筋合いのものでもないのだが。雑用をセーブして、少し読書に専念してみようか・・・!!??。

 


0879.キングの身代金

2008年04月27日 | 警察小説
キングの身代金
KING’S RANSOM
読了日 2008/04/027
著 者 エド・マクベイン
Ed McBain
訳 者 井上一夫
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 302
発行日 1995/04/15
ISBN 4-15-070761-8

 

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和38年、僕は結婚したこの年に、黒澤明監督の「天国と地獄」を見て、原作といわれる本作を知り、いつかは読んでみようと思いつつ45年が過ぎた。
映画は後にビデオや、DVDとなってレンタル店に並び、いつでも見られる環境となって、僕も数回見直している。
昨年(平成19年)には、この名作映画がテレビドラマとしてリメークされ、いよいよ原作となったこの作品を読まなければという気になった。

 

 

この作品は、著者の代表作である警察小説”87分署”シリーズの中の1冊であることはファンなら誰でも知るところだが、テレビドラマでお馴染みのシリーズ作品とは少し趣向の違う作品だ。
87分署の個性的な刑事の面々が活躍するアメリカ版「七人の刑事」とも言えるテレビドラマ”87分署シリーズ”での、ロバート・ランシング扮するところの、スティーブ・キャレラ刑事や、ノーマン・フェルのマイヤー・マイヤー刑事は登場するものの、本作の主役は、身代金を要求される製靴会社の重役・ダグラス・キングや、誘拐犯グループの方だ。映画となった「天国と地獄」と、原作の本作の一番の違いは誘拐犯側が長く細かに描写されているところだろう。

 

 

っとも、黒澤監督がこの作品から引用したのは、誘拐犯が重役の息子と思って拉致した子どもが、運転手の息子とわかっても、身代金を重役に要求するところだった。つまり誘拐するのは誰でも誘拐劇は成立する、ということなのだ。
映画では身代金の受け渡しに関する誘拐犯の緻密な計画と実行が、緊張感溢れる場面となっていたが、本作でも、それに関して序盤からいくつかの伏線ともいえるエピソードが添えられて、誘拐犯側のよく練られた計画が終盤で描かれる。
序盤の方は映画の場面を思い起こさせるが、中盤以降は映画とは別作品の面白さが充満。
黒澤監督の、特に娯楽作品については、別の機会にまた書くことに。

 

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0878.双頭の蛇

2008年04月24日 | 歴史ロマン
双頭の蛇
読了日 2008/4/24
著 者 今邑彩
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 426
発行日 2002/1/10
ISBN 4-04-196205-6

 

年11月以来の著者の作品を読むのに手間取った。読み終わってから判ったことなのだが、本作は「蛇神」、「翼ある蛇」に続くシリーズ作品だということで、前もって2作品を読んでいればより一層楽しめたのではないかと思われる。
しかしながら、前半から中盤に掛けて、諏訪大社ほかの信仰や祭事に関する事細かな記述に、いささか辟易する。それらのことがこのストーリーの根幹を成しているのだとは言え、そうした事柄に興味の薄い僕は、読むスピードが極端に遅くなる。

喜屋武蛍子という編集者が、かつて恋人だった伊達浩一の不自然な失踪を調べ始めるところからストーリーは始まる。小さな探偵事務所を構える伊達は、調査のために信州・日の本村に行くといって出たきり行方知れずとなっていた。ストーリーの進行と共に、彼の失踪が日の本村で古くから伝わる神事に関連しているのではないか、ということがおぼろげながら判ってくるのだが・・・。

本作は、従来著者が踏襲してきた本格ミステリーとは趣を異にして、あたかも存在しそうな超自然現象なども取り入れられて、いまだに知られざる僻地で行われているような奇祭の風習を描いている。そのため、あらゆる事柄が一点に収束するようなミステリーの結末とは程遠いような余韻を持たせた終末を迎える。
終盤近く主要人物である青年兄弟の雰囲気が、昨年10月に読んだ「いつもの朝に」(842.参照)を思い起こさせ興味深い。(書下ろし作品)

 


0877.夏の終る日

2008年04月15日 | 短編集
夏の終わる日
読 了 日 2008/04/15
著  者 仁木悦子
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 290
発 行 日 1987/12/30
ISBN 4-04-145412-3

 

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年前に読んだ「緋の記憶(三影潤推理ノート)」と同様、私立探偵・三影潤シリーズの短編集だ。
ハードボイルドタッチのストーリーに登場する、この私立探偵・三影潤は高田馬場にあるマンションの一室で共同経営者の桐崎と共に“桐影私立探偵事務所”を運営している。
ストーリーそのものは、ハードボイルドタッチながら、本格推理を踏襲している。

車椅子での生活という著者の環境を考えれば、どのようにして割とハードな活躍を示す私立探偵が生まれてくるのか不思議な気がする。まあ、それはこうしたストーリーだけでなく、著者の生み出すあらゆるストーリーについて言えることなのだが…。
時を置いて、複数の雑誌に発表された短編だから、主人公の環境などについて毎回簡単な説明が出てくるが、それが少しもくどくはなく、むしろ、初めてそれらを読む人でもわかりやすいようにとの配慮だろう。

 

 

本書の、5編のストーリーの中で、僕が特に印象深く心に残ったのは、「しめっぽい季節」だ。ここに出てくる身障児施設に、人事と片付けられない思いを抱いたからだ。

“外見はごく普通の二階家に見える、住宅街のその家に一歩踏み込むと、初めての人はぎょっとするに違いない。障子やふすまは、化け物屋敷のように破れ、しみのついた畳やじゅうたんの上には小さな人間たちがるいるいと、ころがっているのだ。”
というように冒頭で紹介されるのが「たんぽぽ」と名づけられた施設である。
一般の身障児施設には受け入れてもらえない重症の子どもたちのために、何人かの親たちが始めた無認可の施設で、毎日親たちが連れてくる子どもと、ここに預けられている子どもが半々ぐらいという。

 

 

のストーリーでこの施設に預けられた幼児が重要な役目を果たすのだが、ストーリーとは別に施設の説明や、成り立ちに、僕自身の思いや、置かれている環境などと重ね合わせ、いまさらながら自身も障害者でありながら、冷静な目でこうした舞台を詳細に描く著者の表現に驚く。
前に、「福祉施設のこと」や、「S氏のこと」という記事にもかいたが、ストーリーに描かれた環境と比べれば、富津市の重度心身障害者の施設に入所している息子の充実した処遇にいささか安堵する。
このことについては、いずれまた、別の形で記事を書くつもりだ。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 色彩の夏 推理 1972年9月
2 どこかの一隅で 小説サンデー毎日 1975年8月
3 白い時間 小説推理 1973年4月
4 しめっぽい季節 小説サンデー毎日 1974年5月
5 夏の終わる日 推理 1971年10月

 

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0876.明治開化安吾捕物帖

2008年04月08日 | 連作短編集
明治開化 安吾捕物帖
読 了 日 2008/04/08
著  者 坂口安吾
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 404
発 行 日 1973/12/20
分類番号 0193-110014-0946(0)

 

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書は、だいぶ前に安楽椅子探偵譚の1冊としてネットで紹介されているのを見て、ネットの古書店をあっちこっち探して手に入れたものだ。
今はAmazonなどで検索するとすぐに出てくるが、数年前僕が懸命に探していたころは、なかなか見つからず、そうなるとますます欲しくなるのが人情で、ずいぶん探し回った。
作品は昭和25年(1950年)10月から27年8月まで「小説新潮」に23回にわたって連載された短編シリーズで、本書はその中からおよそ三分の一の8編が収められている。
タイトルの「安吾捕物帖」とは、坂口安吾氏が描く捕物帖の意味で、氏自身は登場しない、が、巻頭に「読者への口上」として、著者自身が一連のストーリー構成を解説している。

 

 

ミステリーでは過去に実在した人物を探偵役に据えて、謎を解明させるというストーリーが数あるが、ここでは幕末の偉人・勝海舟が登場する。
といっても、彼が安楽椅子探偵さながらに進める推理はいささか見当違いの方向に向かう。残念ながら勝大人は狂言回しの役どころで、真の名探偵は結城新十郎という洋行帰りの紳士探偵だ。
他に毎回登場する、いわゆるレギュラーメンバーは、新十郎の右隣に住む、剣術使いの泉山虎之助、警視総監・速水星玄、新十郎付の老巡査・古田鹿造、新十郎の左隣に住む、戯作者(げさくしゃ)の花酒屋因果といった人物たちである。

 

 

山虎之助は勝海舟の知恵を借りるべく、毎度海舟邸に赴き事件の成り行きを事細かに説明する。
虎之助の話を聴いて、海舟は筋の通った見事な推理で事件の犯人を名指す。その推理を持って得意顔で新十郎や花酒屋因果の前で披露するのだが、結局新十郎の捜査と推理による真相解明の前に、敢え無く敗れ去るという結果に終わるのだ。

毎回このパターンを踏襲していくのだが、バラエティに富んだ事件の数々にどたばた寸前のユーモアなども交え、ストーリーは古きよき探偵小説を作り上げている。
そして、1作目の「舞踏会殺人事件」で、状況説明の文中“『話の泉』(注)のような云々”と出てきて、このシリーズが書かれた時代を思い起こさせる。(注:NHKラジオ第1放送で当時行われていたクイズ?番組で、徳川無声を初めとする知識人の回答者を迎えて、その博学な知識を競うといったような番組だった。司会者も何人かかわったが、僕の世代ですぐ思い浮かぶのは高橋圭三氏だ。)

 

収録タイトル
# タイトル
1 舞踏会殺人事件
2 密室大犯罪
3 ああ無情
4 万引一家
5 血を見る真珠
6 石の下
7 時計館の秘密
8 覆面屋敷

 

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0875.からくりからくさ

2008年04月04日 | 青春ミステリー
からくりからくさ
読 了 日 2008/04/04
著  者 梨木果歩
出 版 社 新潮社
形  態 文庫
ページ数 447
発 行 日 2002/01/20
I S B N 4-10-12533-1

 

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004年12月に読んだ「西の魔女が死んだ」(523.参照)に次いで、この著者の2冊目の本だ。どこかで見た書評か、あるいは誰かの紹介だったかその辺のところは忘れたが、いつか読んでみようと思っていた1冊。
古い家に一人で住んでいた祖母が亡くなり、蓉子の両親はそこを女子大生向けの下宿にしようという。それを機に蓉子も両親の元を離れて、管理人としてそこに住むことにした。
下宿人第1号は「植物染料を考える会」で知り合った、アメリカから来た友人マーガレットだ。マーガレットは鍼灸の勉強で来日した女性で、蓉子と気が合って、互いに日本語と英語の教師となった間柄。
後の二人も蓉子の通っている染織工房の師である柚木の紹介で簡単に決まった。一人は内山紀久、もう一人は佐伯与希子という、二人とも女子大生だ。こうして、古い一つ家で共同生活をすることになった若い4人の女性たちの物語である。それに、蓉子が幼い頃から一緒に生活してきた?人形の“りかさん”もその家の住人?だ。

 

 

物語はこのようにしてスタートするので、小さないざこざなどはあっても、比較的穏やかな生活がずっと続くのかと思ったが、それでは物語にならない。
そうしたゆったりとした流れが中盤から徐々にミステリアスな動向を示して、終盤に至るのだが、出来上がりつつある形を一旦壊して、再び元の形とは違う方向に修復するというような物語の流れに圧倒される。

 

 

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0874.銀の檻を溶かして

2008年04月01日 | ファンタジー
銀の檻を溶かして
読 了 日 2008/04/01
著  者 高里椎奈
出 版 社 講談社
形  態 新書
ページ数 278
発 行 日 1999/03/05
I S B N 4-06-182059-1

 

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OOKOFFの105円の棚にあったので、買って来た。
この著者の作品は、講談社ノベルスで何冊か出ているのを以前から知っており、どんな内容なのだろうと気になって、機会があったら読んでみようと思っていた。

講談社の文芸誌「小説現代」が別冊として年3回発行している「メフィスト」で選考しているメフィスト賞を受賞した作品だそうだ。
近頃では、ミステリーもいろんなところで文学賞を出しているから、とても覚えきれないが、今まで僕が読んできた中では、森博嗣氏の「すべてがFになる」(101.参照)や、高田崇史氏の「QED百人一首の呪」(97.参照)が同じくメフィスト賞の受賞作のようだ。

 

 

本書は、一応本格ミステリーの形を成しているが、主役の探偵と、それを補佐する2名?の合わせて3人が人間ではなく妖怪という設定だ。読み始めて僕は好みではないので「しまった!」と思ったが、何とか休み休み読み進めると、次第に抵抗なく読めるようになった。
妖怪が探偵といっても、妖術でもって事件を解明していくということではなく、データの収集や、分析、推理による事件へのかかわり方は、なんら人間の探偵と変わることなく進められていくからだ。
彼ら3人?の妖怪たちは人間の姿をして、普段は薬屋として生活しており、合言葉を以て尋ねてきた妖怪の絡む事件の依頼人があったときだけ、探偵活動を開始する。
本作では、全く異なった二つの事件が調べるうちに、繋がりを見せていくというストーリーで、途中で警察の捜査の状況も描かれるが、妖怪たちが必要とした時に、警察の捜査資料をどのようにして引き出すのかというところで、妖怪ならではのテクニックが使われる。
作者の女性・高里椎奈氏は1976年12月の生まれというから、この本が発行された時点ではまだ、若干22歳だったということだ。僕の好みは兎も角として、こうした若い才能は出るべくして出たという感じだ。

 

 

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