隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0241.殺人の棋譜

2002年06月30日 | 本格
殺人の棋譜
読 了 日 2002/06/30
著  者 斉藤栄
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 260
発 行 日 1975/03/15
書籍ID 0193-360213-2253

 

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界の新進河辺八段は、日本民主新聞主催の将棋最高位挑戦者を決める対局で全勝を続け、ついに最高位挑戦者に決まった。
内田模型製作所を経営する岳父から前祝のパーティに誘われたその日に、3歳の愛娘・万里が誘拐されるという事件が発生した。
犯人からは、「身代金・1千万円をセスナから投下しろ!」との要求があった。そんな中、河辺八段は不敗の最高位名人との対局が迫っていた。
苦悩の中での将棋の対局と、誘拐犯との対決という緊張の場面が交互に描かれ、サスペンスを盛り上げる。
こうした作品を描けるのは、学生時代に将棋部に籍をおいた有段者であるからだという。その実力のほどは、作品中に挿入された棋譜をプロ棋士も認めたというから、本物と言えるだろう。第12回江戸川乱歩賞受賞作。

 

 

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0239.猿丸幻視行

2002年06月30日 | 歴史ロマン
猿丸幻視行
読 了 日 2002/06/28
著  者 井沢元彦
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 389
発 行 日 1975/12/26
ISBN 4-06-183079-1

 

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作は僕の苦手な歴史ものだ。百人一首にも歌われている猿丸太夫の謎に迫るというストーリーなのだが、百人一首についても僕は疎いほうなのだから、始末に悪い。
しかし、前作同様その手の知識がなくとも楽しめるのがミステリーなのだ。知識があれば、なお一層楽しめると言うことだ。

さて、ストーリーの中心は、民俗学者・折口信夫が歌人・猿丸太夫について調べる中、友人の死に直面し、その死の謎を解き明かしていく、というものだ。
大学院で、民俗学を専攻する香坂明のところに、製薬会社の社員が訪ねてきた。会社の新薬開発の研究員に会ってくれという用件だった。泉田という研究員に面会すると、新薬のモニターになって欲しいと言う。
薬は、過去への旅をするためのものだと言う。泉田は、香坂の書いた民俗学者・折口信夫についての研究論文の価値を認めて、彼に折口信夫になってもらいたいというのが狙いだった。
そうしたSFのような導入部分を経て、若き日の折口信夫の猿丸太夫の調査が始まる。

 

 

 

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0240.パンドラ'S ボックス

2002年06月29日 | エッセイ
パンドラ’S ボックス
読了日 2002/6/29
著 者 北森鴻
出版社 光文社
形 態 新書
ページ数 228
発行日 2000/06/25
ISBN 4-334-07392-1

 

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少しばかり自虐的なエッセイを挟んだ短編集。
タイトルからすれば、悪意を孕んだ(自分に対して)エッセイ?というべきか!

 

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

CGの制作者である天沼依子は、向かいにあるインテリジェントビルの壁に描かれたモザイクを、熱心に見上げる青年に関心を持つ。 モザイクの絵は自ら命を絶った画家・城島真一の遺作「赤い決意」を模写したものだった。 城島真一の絵に高校生の頃出会い、それ以来興味を持つようになり、彼について調べ始めた青年は、尾形といった。(仮面の遺書)

 

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

著者は、鮎川哲也賞を受賞した「狂乱廿四孝」がデビュー作だと思っていたが、それよりも前に短編が世に出ており、これが事実上のデビュー作ということだ。
その他の収録作品は下記のとおり。 短編作品もそれぞれ面白く読めるのだが、間に挿入されているエッセイは、デビュー前や、デビュー前後の、著者自身の生活や、作品にかける思いや、 ミステリー論等々バラエティに富んだ内容で、小説同様、あるいはそれ以上に?楽しめる読み物である。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月号または発行所
1 仮面の遺書 本格推理1 光文社
2 踊る警官 孤島の殺人鬼 光文社
3 無残絵の男 小説宝石 96年7月号
4 ちあき電脳探偵社 小学三年生 96年8,9月号
5 鬼子母神の選択肢 新世紀「謎」倶楽部 角川書店
6 ランチタイムの小悪魔 女性自身 99年3月9,16日号
7 幇間二人羽織 贋作館事件 原書房

 

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0238.蝶たちは今

2002年06月26日 | 本格
蝶たちは今
読了日 2002/06/26
著 者 日下圭介
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 353
発行日 1979/06/29
書籍ID 0193-361080-2253(0)

 

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ラナミシジミという蝶が事件のキーとなる。
蝶やトンボなど、小学生の頃の夏休みの宿題で行った、昆虫採集以来馴染みがない。今は、昆虫に限らず、植物採集なども種の保存、あるいは環境保護といった観点から学校でもやらせてないのだろうな。
それはさておき、著者は、この作品で第21回江戸川乱歩賞を受賞した後、犬や猫を扱った作品を、また植物を題材にしたミステリーをたくさん書いているようだ。
ときたまTVドラマになったものを垣間見ることもあるが、作品を読むのは今回が初めてである。

 

 

大学生の嘉川康雄は、芹沢拓也と飛騨の平湯温泉へと旅をする。
本当は恋人である看護婦の和子と行くはずだったのが、彼女が直前に風邪を引いたために、拓也を誘ったのだった。旅先で康雄はバッグを間違われた。
東京大田区の蓮田直子という女性のバッグとすり変わっていた。帰ってから蓮田直子を訪ねると、彼女は3年前に死んでいた!

 

 

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0237.写楽殺人事件

2002年06月25日 | 絵画
写楽殺人事件
読了日 2002/6/25
著 者 高橋克彦
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 367
発行日 1986/07/15
ISBN 4-06-183780-X

 

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の絵師・写楽を題材にしたミステリーで、第29回江戸川乱歩賞を受賞している。僕も小さな頃から見るのも描くのも絵は好きなほうだったが、画家や、その歴史などについてはとんと無頓着で、好きな割りには詳しくない。しかし、この作品はそんなことに関係なく、楽しめるミステリーである。
高校生の頃浮世絵に接した著者が、早稲田大学を卒業後も、浮世絵への思い立ちがたく、美術館勤務の後、美術史を講じたと言うから、並大抵の入れ込みようではない。そうして培った浮世絵の造詣と、一方で大のミステリー好きだったことがこの作品を生んだ。

 

 

浮世絵研究で知られる 篆書(てんしょ)家の嵯峨厚が岩手県の海岸で、水死体となって発見された。ストーリーはここから始まる。一方、浮世絵研究で嵯峨と対立する私大教授・西島の助手、津田は秋田蘭画の画集から東洲斎写楽改近松昌栄という書名を発見する。その後、彼は写楽の謎の実態に迫っていくかに見えたが・・・・。浮世絵研究者の覇権争いが殺人事件へと発展していく?

 

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0236.繭の夏

2002年06月23日 | 本格
繭の夏
読 了 日 2002/06/23
著  者 佐々木俊介
出 版 社 東京創元社
形  態 文庫
ページ数 335
発 行 日 2001/06/29
ISBN 4-488-43301-4

 

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探しは古本屋さんに行くことが圧倒的に多いのだが、新しく文庫になった本や、新刊書を見に新刊書店にも、たまには顔を出す。
また、めったに行かないところへもたまに行って見ると、品揃えの傾向が違うことで、読みたい本が見つかることもある。
と言うようなことで、この本は、千葉パルコ7階の改造社書店で、「いざ言問はむ都鳥」(229.参照)と一緒に買った。両方ともタイトルに惹かれてのことだった。

本書は、東京創元社で催している鮎川哲也賞の第6回の佳作に選ばれた作品である。
姉弟が引っ越し先の天井裏から見つけた、人形に隠されたメッセージから過去への旅をし、事件を掘り当てる
と言う、「スリーピング・マーだー」タイプのストーリー。
スリーピング・マーダーはいわずと知れたアガサ・クリスティ女史の作品だが、僕はこのミス・マープルの活躍譚はまだ読んでない。英国BBCで制作されたジョーン・ヒクソン女史主演のドラマはもう何度も見ており、「復讐の女神」とともに好きな作品の筆頭である。そういったことで、本書も謎の呈示から、過去を探っていくと言うプロセスが懐かしいような感じがして、興味深く読んだ。

 



 

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0235.枯草の根

2002年06月21日 | 本格
枯草の根
読 了 日 2002/06/21
著  者 陳舜臣
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 304
発 行 日 1994/06/30
ISBN 4-06-136025-6

 

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国の推理作家ロナルド・ノックスの有名な「探偵小説の十誡」がある。
その中に“不吉な外国人、殊に中国人を登場させてはならない”というのがある。
ところが本書は舞台は神戸にとっているが、登場人物のほとんどが中国人という設定だ。探偵役は、中華料理店「桃源亭」の主・陶展文で、記者の小島和彦とともに事件を追う。
昭和35年頃に書かれた作品だから、まだまだ戦後の混沌とした爪あとの残っている時代の話で、今では、もう懐かしい思いがする。著者は生まれは神戸ながら、国籍は台湾台北でノックスの十誡をものともせず本作で、第7回江戸川乱歩賞を受賞した。

ミステリー文学賞の受賞作品を読書の指針の一つとしている僕だが、設立当時からリアルタイムで見てきたこの江戸川乱歩賞受賞作は、全作読んでおきたいと思っている。

 

 

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0234.メビウス・レター

2002年06月19日 | 連作短編集
メビウス・レター
読了日 2002/6/19
著 者 北森鴻
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 347
発行日 2001/02/15
ISBN 4-06-273092-8

 

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男子高校生が焼身自殺を遂げる事件があり、その数年後に作家・阿坂龍一郎宛てに事件の真相を追う手紙が次々と送られてくる。 そして阿坂は同じマンションに住む人妻にストーカーされる。過去が次第に明らかにされていく中で・・・・。

 

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

最後に明かされるこのミステリーの一番の謎が、ずいぶん昔に読んだ横溝正史氏のある作品を連想させる。と言っても同じシチュエーションと言うことではない。 ミステリーのミステリーたるゆえんのようなものを感じたのだ。しばらくぶりに僕は、このようなミステリーに出会ったことが嬉しかった。

 

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0233.魍魎の匣

2002年06月18日 | ホラー
魍魎の匣
読 了 日 2002/06/18
著  者 京極夏彦
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 1060
発 行 日 2001/05/24
ISBN 4-06-263291-8

 

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49回日本推理作家協会賞を受賞した作品ということで読んだ。
この前読んだ「沈黙の教室」もそうだったが、日本推理作家協会賞の受賞作は僕の肌に合わないのか?と思ってしまう作品が続いた。
箱を祀る霊能者など、箱を巡る妄執が、バラバラ殺人へと繋がるというストーリー。
僕の理解力不足か?時を経てもう一度読み返してみれば、また違った印象を得られるかもしれないが…。

 

 

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0232.沈黙の教室

2002年06月14日 | ホラー
沈黙の教室th>
読 了 日 2002/06/13
著  者 折原一
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 697
発 行 日 1997/05/15
ISBN 4-06-030579-X

 

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48回日本推理作家協会賞受賞作と言うことで読んだのだが、内容が暗く(まあ、一種のホラー小説だから仕方がないのか)長さにいささか辟易する。僕の好みではない。
青葉ヶ丘中学3年A組、悪魔のようなこのクラスに、担任教師が「沈黙の教室」と名づけていた。何者かが発行する恐怖新聞に次々と指名される粛正の対象者。そして、残酷ないじめが行われる。20年後、クラスの同窓会の告知が新聞に載った時、報復を誓う大量殺人を計画するものが・・・・。

読んでいるうちに僕は昔読んだ、雁屋哲氏の原作による「男組」と言う劇画を思い浮かべた。
もちろん内容も、キャラクターも全然別物なのだが、なんとなく雰囲気が似ているような気がして、思い浮かべたのだ。いわゆる、バイオレンス劇画だったが、池上遼一氏が作画しており、僕はこの人の絵が好きだったので、何巻にもわたる長い劇画を楽しんで見たことを思い出した。

 

 

 

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0231.ささらさや

2002年06月13日 | ファンタジー
ささらさや
読了日 2002/6/14
著 者 加納朋子
出版社 幻冬舎
形 態 文庫
ページ数 325
発行日 2001/10/10
ISBN 4-344-00116-8

 

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新婚間もない奥さんと赤ん坊を残して、車にはねられて死んだ「俺」が語り手という連作短編集。
人の善意や悪意が入り乱れて過ぎていく日常で、世慣れていないおっとりとした奥さんが心配で、文字通り死んでも死に切れない「俺」は、彼女の窮地に声だけ現れるという幽霊に。
ユウ坊が生まれて幸せ真っ只中で、サヤは交通事故で夫を失い途方に暮れる。「俺」の葬式は高校時代からの友人で坊さんになっていた細貝がお経を上げてくれたのだが、彼には幽霊の「俺」が見えるらしい。(トランジット・パッセンジャー)

トランジット・パッセンジャー(空港の通過客)でいられる短い時間の中で、「俺」の声に助けられながら、また、周囲の人間にもまれながら次第に彼女が逞しくなっていく様が、ちょっぴりおかしく、ちょっぴり切なく、そしてちょっぴり幸せな気分にさせてくれる。

 

1トランジット・パッセンジャー1998年9月号
初出誌(星星峡)
# タイトル 発行月号
2 羅針盤のない船 1999年9月号・10月号
3 笹の宿 1999年12月号・2000年1月号
4 空っぽの箱 2000年5月号・6月号
5 ダイヤモンドキッズ 2000年9月号・10月号
6 待っている女 2000年12月号・2001年1月号
7 ささらさや 2001年6月号・7月号
8 トワイライト・メッセンジャー 2001年7月号

 

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0230.顔に降りかかる雨

2002年06月12日 | ハードボイルド
顔に降りかかる雨
読 了 日 2002/06/12
著  者 桐野夏生
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 406
発 行 日 2001/05/24
ISBN 4-06-263291-8

 

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39回江戸川乱歩賞を受賞した女流作家による女性探偵のハードボイルド。
アメリカのスー・グラフトンやサラ・パレツキーらの女流作家の登場が走りといわれた3F小説が日本にも登場、と言われた作品だ。
作り手、主人公、読者の三者が女性(Femail)と言うことでそう呼ばれたのだが、アメリカで誕生した、「サマータイム・ブルース」や「アリバイのA」が日本に入って、翻訳者も女性があたって4Fと言われることもあった。

本書は、「私」(村野ミロ)のところへ、親友のノンフィクションライター・宇佐川耀子が一億円の金とともに消えた、とその金を預けた耀子の恋人・成瀬が訪ねてくるのが幕開けとなる。成瀬時男は過去に暴力団との繋がりがあった時期があり、その金も暴力団がらみの金らしい。疑われた「私」は成瀬に協力して、耀子の行方を追うことになる。
例によってこの作品もテレビドラマ化(脚本:竹山洋、監督:福本義人、主演:役所広司、鶴田真由)されており、僕はそっちのほうを先に見ているが、原作の狙いとはちょっと違う気がする。脚本家や監督の解釈の違いか?

 

 

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0229.いざ言問わむ都鳥

2002年06月11日 | 安楽椅子探偵
いざ言問はむ都鳥
読 了 日 2002/06/11
著    者 澤木喬
出 版 社 東京創元社
形    態 文庫
ページ数 246
発 行 日 1990/12/25
ISBN 4-488-01242-6

 

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刊書の書店で、タイトルに惹かれて思わず買ってしまった。
”名にしおはば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと”。
在原業平(ありわらのなりひら)の歌からとったこのタイトルが、読んで見なさいといわんばかりに僕の目に入った。僕の読書量はさほど多いとも思わないが、時に、こうした現象で―というほど大げさな事でもないが―本を買うことがある。
読書好きの人なら多少に関わらず、そうした経験を持つ人も多いだろう。読む前から期待に胸が躍る、というような事はめったにないのだが、そういう本に巡り会えるのは、実に幸せなことだと思う。
さて、作者に似た名前の、沢木敬(たかし)と樋口陽一(樋口一葉をもじったものか?)、二人の植物学科の助手を主人公とする4編の短編から構成される連作短編集である。
それぞれのタイトルは以下のように、表題同様、古今集、古今和歌集、万葉集の和歌から引用されている。最初に現れる表題作を読み進むうちに、語り手である沢木敬の植物学の薀蓄に、こちらが探偵役だと思っていたら、名推理は、樋口陽一の方だった。 道端に落ちていた”都忘れ”の花びらから事件を嗅ぎ出して推理するという、まさしく安楽椅子探偵そのものなのだが、そこにたどり着くまでのプロセスに鮮やかな伏線が張ってあり(終盤で気づくのだが)、植物に対する目線や、自然と向き合う姿勢に、しばし敬虔な気持ちにさせられる。

 

 

収録タイトル
# タイトル
rulu of green 1 いざ言問はむ都鳥
rulu of green 2 ゆく水にかずかくよりもはかなきは
rulu of green 3 飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
rulu of green 4 むすびし水のこほれるを

 

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0228.沙羅は和子の名を呼ぶ

2002年06月10日 | ファンタジー
沙羅は和子の名を呼ぶ
読了日 2002/6/10
著 者 加納朋子
出版社 集英社
形 態 文庫
ページ数 314
発行日 1999/10
ISBN 4-08-774430-2

 

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両親が第二のハネムーンと称してカナダへ出かけてしまった夏休み、高校生の「僕」はぽっかり空いた自由な時間をカメラ片手に近くへと出かける。廃業で空き家のはずの病院の建物の中で、不思議な少年と少女に出会う(黒いベールの貴婦人)を初めとする10篇のミステリー短編集。
ちょっぴり切なく、ちょっぴり幸せな気分になれる、加納朋子ワールドへと誘われる。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月号  
1 黒いベールの貴婦人 小説すばる '94年1月号
2 エンジェル・ムーン 小説すばる '94年6月号
3 フリージング・サマー 小説すばる '94年11月号
4 天使の都 週刊小説 '96年9月27日号
5 海を見に行く日 週刊小説 '97年2月7日号
6 橘の宿 小説現代 '96年5月号
7 花盗人 西日本新聞 '97年1月7日
8 商店街の夜 週刊小説 '97年10月3日号
8 待合室の冒険 小説non 1998年10月号
9 オレンジの半分 野生時代 '95年8月号
10 沙羅は和子の名を呼ぶ 小説すばる '99年7・9月号

 

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0227.天使の傷痕

2002年06月10日 | 本格

 

天使の傷痕
読 了 日 2002/06/09
著  者 西村京太郎
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 276
発 行 日 1990/07/06
I S B N 4-06-136041-8

 

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会部記者をしている田島は、休みの日に恋人の正子に誘われて、聖蹟桜ヶ丘に出かけた。楽しいデートになるはずが、彼らはそこでとんでもない事件に遭遇する。武蔵野の雑木林で男の悲鳴が聞こえて駆け寄ると、胸に短剣を刺された男が倒れてがけ下に転げ落ちたのだ。男は、「テン」という言葉を残して息を引き取る。ドラマはこうした幕開けで始まる。新聞記者という職業柄、直接目にした事件に関心を持ち、事件の周辺を洗うのだが・・・。第11回江戸川乱歩賞を受賞した作品だが、著者はこの年に70歳で死去した江戸川乱歩に会うことはなかった、という。

 

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