隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0201.月曜日の水玉模様

2002年04月28日 | 連作短編集
月曜日の水玉模様
読了日 2002/4/28
著 者 加納朋子
出版社 集英社
形 態 文庫
ページ数 285
発行日 2001/10/25
ISBN 4-08-747374-0

 

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丸の内に勤めるOL・片桐陶子は、毎日の通勤電車の中で、決まって月曜日に水玉模様のネクタイをしてくる男・萩と知り合う。彼はリサーチ会社の調査員だった。
さて、その後彼と陶子は名探偵ホームズとワトソンになる。OLの通勤する電車内の風景や、男と知り合い名探偵と助手になるというシチュエーションがごく自然に描かれて、日常の不可解な謎が解明されるというプロセスがストーリーへと誘い込む。
「日常の謎派」の面目躍如といったところか。こうした小説を読んでいると、必ずしもそうでないかもしれないが、僕は、著者自身も楽しんで書いているのでは?と想像する。OLから作家へと華麗な転身をした著者のOL時代も、心豊かな毎日だったのではないかとさえ思うのだが・・・。

 

初出(小説すばる)
# タイトル 発行月号    
1 月曜日の水玉模様 1995年4月号  
2 火曜日の頭痛発熱 1995年8月号  
3 水曜日の探偵志願 1996年2月増刊号  
4 木曜日の迷子案内 1996年11月号  
5 金曜日の目撃証人 1997年9月号  
6 土曜日の嫁菜寿司 1998年1月号  
7 日曜日の雨天決行 1998年7月号  

 

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0200.人形はなぜ殺される

2002年04月26日 | 本格
人形はなぜ殺される
読了日 2002/4/26
著者 高木彬光
出版社 角川書店
形態 文庫
ページ数 382
発行日 1980/07/30
ISBN 4-04-133807-7

 

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昨年読んだ島田一男氏の南郷弁護士シリーズ第1作「上を見るな」と同様、講談社の書き下ろし探偵小説全集に納められた作品。雑誌「宝石」誌上でこの全集の刊行が予告された時、この「人形は・・・」と横溝正史氏の「仮面舞踏会」を心待ちにしていたことを思い出す。だが、横溝氏の作品は残念ながら氏の体調不良か何かで、全集の発刊には間に合わなかった。だいぶ後になってから同じ講談社から作品が出たことは出たのだが・・・。
当時僕は、特に高木氏に傾倒しており、神田の古本街で、「刺青殺人事件」や「能面殺人事件」などを探しては読みふけっていた。黒い箱入りで、金色の装丁の本書を手に入れたときは、形容しがたい喜びだったことを思い出す。現在のように比較的楽に読みたい本が手に入る環境とはいろんな意味で違う時代だったと同時に、貧乏だったその頃の不自由な小遣いを貯めて、本を手に入れるという喜びの度合いも大きかったのだろう。
今回読み返して、そうした思いが逆に作用して、昔ほどの感激はなかったが、懐かしい本格探偵小説の味を思い起こした。

とは言いながらずいぶん昔のことだから、おぼろげな記憶とは違う箇所もいくつかあって、面白く読めるところも多く、やはりこれはもう一度著者の作品を読み返していく必要を感じる。

 

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0199.掌の中の小鳥

2002年04月22日 | 短編集
掌の中の小鳥
読了日 2002/4/22
著 者 加納朋子
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 285
発行日 2001/02/23
ISBN 4-488-42603-4

 

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読書計画に沿って本を読むようになってから知った作家が少しずつ増えていく中、今頃になって良かったと思う点が一つ。それは若い頃と比べてもさほど豊かになったとは思えない僕にとって、ほとんどの作品が文庫化されており、しかもそれが古書店で安く手に入るということだ。そして読んだ後、こんないい本がこんなにも安く読めていいのだろうかとさえ思うのである。

さて、4冊目となる著者の作品は、これもまた連作ミステリー。
最初の表題作は、「僕」の語るSCENE1と「わたし」が語り手となるSCENE2の二部構成となっている、が全体のプロローグ的な存在で、後の話へとつながり「僕」と「わたし」の名前も判ってくる。謎を呈示するプロセス、謎が解き明かされるプロセス、そこに行き着くまでのストーリー展開がまことに自然で違和感がない。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月号  
1 掌の中の小鳥 創元推理2 1993年春号
2 桜月夜 創元推理3 1993年秋号
3 自転車泥棒 創元推理4 1994年春号
4 できない相談 書下ろし  
5 エッグ・スタンド 書下ろし  

 

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0198.殺意の絆

2002年04月21日 | サスペンス
殺意の絆
読了日 2002/4/21
著 者 島田一男
出版社 光文社
形 態 文庫
ページ数 301
発行日 1990/02/20
ISBN 4-334-71090-5

 

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僕にとってはお馴染みのとでも言おうか、刑事弁護士・南郷次郎シリーズだ。このシリーズがすべて光文社から文庫で出ているようなので、古書店で見かけるたびに買ってきたが、本書は6冊目くらいになるだろうか?
ハードボイルドではなく、ハーフボイルドくらいか?
とにかく著者の作品全般に通じていえることだが、小気味のよいセリフとテンポの速いストーリー展開が癖になるほどだ。

 

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

今作は以前「ふざけるな」というタイトルで発表されたのを改題したもので、東京下町の日本人形の老舗・金虎人形店が舞台。常務の左近が惨殺死体で発見され、現場には、その死に様を暗示した殺しの予告状があった。

 


0197.アルキメデスは手を汚さない

2002年04月19日 | 本格
アルキメデスは手を汚さない
読了日 2002/04/19
著 者 小峰元
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 316
発行日 1983/08/20
ISBN 4-06-136014-0

 

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阪・豊中市の高級住宅街での葬儀の模様から、物語は始まる。死者は豊能高校二年柴本美雪、十七歳。
死因は喪主で父親の挨拶にあった”病気”ではないらしい。参列した同級生の噂話では”中絶の失敗”のようだ。元気で、ちょっと反抗的で、仲間意識は強い?高校生たちを少しコミカルに描いた青春ミステリー。
死んだ少女が残した「アルキメデス」という不可解な言葉をタイトルにした本作は、昭和48年度第19回江戸川乱歩賞受賞作。この後著者は、中世の哲学者の名を冠した作品を続々と発表する。それらを次々と読みたい気もするが・・・・。

 

 

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0196.花の下にて春死なむ

2002年04月18日 | 短編集
花の下にて春死なむ
読了日 2002/4/18
著 者 北森鴻
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 280
発行日 2001/02/15
ISBN 4-06-273327-7

 

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古本屋さんを何軒か見て歩いたが見つからなかった本が新本で見つかった。
会社の近くにあるパルコの七階に改造社書店という新刊本の店には時々早川ポケットブックを見に行くが、たまたま講談社の文庫棚を見ていてこの本が目に付いた。

 

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

 

三軒茶屋の路地奥のバー「香菜里屋」に集う常連たちの持ち寄る謎を解くのは安楽椅子探偵のマスター・工藤。
僕はミステリー好きの割りに、あまり推理や理屈に疎いので、この手のスト-リーには一も二もなく陶酔してしまう。
著者のデビューの切っ掛けとなった鮎川哲也氏の三番館シリーズにも似たバーテン探偵だが、そうしたことも全く気にならず、最初に登場する表題作から、僕は物語にのめりこんだ。誰にも見取られずに自室で死んでいった俳人・片岡草魚。その部屋の窓辺に咲いた季節外れの桜が、工藤に事件の推理をさせるストーリーは、安楽椅子探偵の極致。

 

収録作品
# タイトル
1 花の下にて春死なむ
2 家族写真
3 終の棲み家
4 殺人者の赤い手
5 七皿は多すぎる
6 魚の交わり

 

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195.とり残されて

2002年04月17日 | 短編集
とり残されて
読了日 2002/4/17
著者 宮部みゆき
出版社 文藝春秋
形態 文庫
ページ数 357
発行日 1999/02/01
ISBN 4-16--754902-6

 

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1989年から91年にかけて各誌に発表された短編集。
解説子の言を借りるまでもなく、著者の短編の素晴らしさには定評がある。長編には長編の良さがあるのだが、短編にはピリッと締まった、凝縮された良さがある。
今まで何冊か短編集も読んできたが、本書では特に読んだあとに残る不思議な感覚がなんとも面白い。著者の作品は読むたびに違う世界に誘われて、驚くのだが、この作品集が短編集では一番好きな作品集となる予感がする。
中でも僕が好きなのは、最後の「たった一人」だ。
元刑事の河野が開く河野探偵事務所を訪れた少女ともいえそうな若い女性の依頼は、「夢に見る場所を探して欲しい」という,なんとも奇妙なものだった。その女性・永井梨恵子が河野探偵事務所を訪れるきっかけとなったエピソードから、依頼の件が河野自身の過去に繋がることになっていく語りは、なんとも切ないような、懐かしいような不思議な感覚を呼び起こす。

こうした一種のスリーピング・マーダー形式のストーリーに出会うと、物語りの主人公同様、デジャブに似た、あるいはノスタルジーと言うような感情を憶えて、胸が躍る。
(この1篇は、後にスカパーのチャンネルで、ドラマ化されたものを見て、結末部分は原作とは少し変えて脚色してあるものの、原作の趣を損なうことなく、味わい深い作品に仕上がっており、ますます原作の良さを認識した。)

 

初出誌
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 とり残されて 婦人公論 1991年12月臨時増刊号
2 おたすけぶち オール読物 1991年7月号
3 私の死んだ後に コットン 1990年4月号
4 居合わせた男 オール読物 1991年12月号
5 囁く 小説現代 1989年6月号
6 いつも二人で 小説NON 1989年7月号
7 たった一人 オール読物 1992年6月号

 

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194.濡れた心

2002年04月16日 | 本格
濡れた心
読了日 2002/04/16
著 者 多岐川恭
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 249
発行日 1978/07/03
書籍ID 0193-360610-2253

 

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の昔、探偵小説雑誌「宝石」を講読していた頃に、著者の短編は幾つか読んだことは覚えているのだが、例によってその内容は今となっては記憶の外。
だが、この江戸川乱歩賞受賞作は読んだ記憶がない。今回初めて読んでみて、昔読んだ短編の感じとは少し作風が違うような気もするのだが、何しろ忘れているのだから余りあてにはならない。いずれそれらの短編も機会があれば読み返してみたい。
女子高生の同性愛をテーマに、主人公の心の動きから派生する殺人事件を描いた作品。
タイトルや、そのテーマから想像されるような官能的なストーリーではなく、主人公の学校生活や、その心理状態に重きを置いたミステリー。

 

 

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0193.六の宮の姫君

2002年04月14日 | 短編集
六の宮の姫君
読了日 2002/4/14
著 者 北村薫
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 283
発行日 1999/06/25
ISBN 4-488-41304-8

 

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「私」と円紫師匠シリーズの第4弾。
作者の北村薫氏が男性作家だということが初めから判っていたはずの僕でも、このシリーズを読んでいると、女子大生の「私」の語りがなんとも自然で、どうなっているのだという気になる。
内容とは余り関係ないことだが、この創元推理文庫の表紙のイラストはすべて単行本と同じく、高野文子氏の「私」の立ち姿である。それが「空飛ぶ馬」(187.参照)から、この「六の宮の姫君」までほとんど同じポーズで、服装だけが変わるという趣向なのだ。読んだ後で、改めて表紙のイラストを見直し、内容にマッチしたイラストだと思える不思議な感覚だ。
「私」もいよいよ大学を卒業する。



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0192.大いなる幻影

2002年04月11日 | 本格
大いなる幻影
読 了 日 2002/04/11
著  者 戸川昌子
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 195
発 行 日 1979/06/29
書籍ID 0193-361099-2253

 

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の作品が第8回江戸川乱歩賞を受賞したとき、作者が現役の女性シャンソン歌手だということで、大いに話題となったことを思い出す。
勿論作品そのものも好評だった。僕もその当時読んでいるので今回は2度目となる。時代背景は古いものの、小説自体はさほど古さを感じさせない。
確かこの作品は映画化もドラマ化もされていたはずだ。どちらかを見ているのだが、はっきりとした記憶がないのがもどかしい。念のためネットで検索したら、映画化はどうやらされてなかったようで、1989年にテレビ東京でドラマ化されているようだ。
13年も前では今から見るのは無理だろう。残念!

 

 

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0191.魔法飛行

2002年04月10日 | 連作短編集
魔法飛行
読了日 2002/4/10
著 者 加納朋子
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 323
発行日 2000/06/09
ISBN 4-488-42602-6

 

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デビュー作「ななつのこ」(177.参照)に次ぐ受賞第1作、そして、駒子シリーズの第2弾である。
僕は、至って単純でちょっと良いなと思うと、すぐに作者のファンになり次々と作品を読みたくなるのだ。
しかし、この作者の著作にはちょっとどころではなく、大いに感激した。この人のように普通のOLから流行作家になれたのは、元々そうした資質を持っていたのだろう。加えて、物語を紡ぎだす能力や、人間観察の目を持ち、それらを文章に仕立て上げる力を備え持っていたのだろうと想像する。
さらに、もう一つ大事なことは、優しさではないかと、まあこれも想像でしかないのだが。主人公イコール作者でないことは重々承知だが、にもかかわらず、僕には、この駒子という主人公の女学生が、作者と重なって見えるのだ。

 

収録作
# タイトル
1 秋、りん・りん・りん
誰かから届いた最初の手紙
2 クロスワード
誰かから届いた二番目の手紙
3 魔法飛行
誰かから届いた最後の手紙
4 ハロー、エンデバー
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0190.斃れし者に水を

2002年04月08日 | サスペンス
斃れし者に水を
読 了 日 2002/04/08
著  者 渡辺容子
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 368
発 行 日 2001/06/15
ISBN 4-06-273185-1

 

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者の本を読むのは3冊目だ。前の2冊ともに女性の主人公が活躍するストーリーで、もしかしたら今回もと思っていたら、やはり本書も主人公は女性で、脚本家という設定だった。
妻子ある男性と交際中である。
ある時東京都下の高級住宅地で自治会長が殺害されるという事件が起きる。脚本家の藤原真澄はその日近くで交際中の織田を見かけ、事件への関与を疑うが、彼が糖尿病のために、教育入院することになり、彼を世話したい彼女は病院に住み込みの付添婦になる。
この辺の女性心理は理解できないが、事件の解明に関わっていく過程が無理なく自然で?面白く読める。

 

 

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0189.秋の花

2002年04月05日 | 連作短編集
秋の花
読了日 2002/4/5
著 者 北村薫
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 268
発行日 1997/03/28
ISBN 4-488-41303-X

 

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「私」と円紫師匠のシリーズ第3作。初めての長編である。今までの短編と違うのは、今回初めて死亡事件?が起こるところ。文化祭の準備中に墜落死した女子高生と、その友達は「私」の後輩。自殺、他殺、事故???

このシリーズをリアルに感じるのは、巻を増すごとに主人公やその友人たちも年齢を重ねていくことだ。現実の世界では当り前のことだが、名探偵の活躍する本格推理などでは年をとらないことが多い。
まあ、それはそれでまた良いのだが。今回は大学生になった「私」が墜落死した後輩や、その友人である傷心の女子高生を案じて、事件の真相を探ろうとするストーリーだ。このシリーズの読み心地のいいのは、「私」の語り口にその生活観があり、時にエッセイを読んでいるような感じになることさえあることだ。




0188.地下街の雨

2002年04月03日 | 短編集
地下街の雨
読了日 2002/4/3
著者 宮部みゆき
出版社 集英社
形態 文庫
ページ数 316
発行日 1998/10/25
ISBN 4-08-748864-0

 

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早いもので、著者の本を読むのもこれで20冊目となった。
当り前の話だが、読むたびに全く違う世界を見せてくれる著者の作品は、読む前から期待に心が躍る。そして決して期待を裏切られないのが著者の作品だ。
今回は、揺れ動く女性心理を七つの角度から取り出した怖くて、苦くて、ちょっと切ない物語。長編小説とはまた違った筋運びが、切れ味の良いストーリーを生み出している。
そして、巻末には女優の室井滋氏の解説や、楽しいミニ対談などが載っており、二度楽しめる。

この中で、ちょっと毛色の変わった1篇が「不文律」だった。
〈埠頭から死のダイビング 一家四人車ごと海中へ 無理心中の疑い〉という新聞の見出しらしき一文が掲げられて、以降は、隣家の主婦の話から始まり、会社の同僚、妻の母親、子どもの同級生等々々・・・、と話が続く。
すべてが新聞記者か、あるいは警察官か、テレビの取材か、とにかくそうした誰かの問いかけに対して答えるかのような話が最後まで続くのである。まるでドキュメンタリーのような感じである。
そして、その話の中で、次第に事の真相が明らかにされていくというのが、ひどく新鮮な感じがして、ちょっとため息の出るような読後感を味わった。

 

初出誌(別冊文藝春秋)
# タイトル 紙誌名 発行月
1 地下街の雨 小説すばる 1991年1月号
2 決して見えない 問題小説 1991年6月号
3 不文律 不文律問題小説 1992年5月号
4 混戦 小説新潮 1990年7月号  
5 勝ち逃げ 小説すばる 1991年11月号
6 ムクロバラ 小説すばる 1993年11月号
7 さよなら、キリハラさん 小説すばる 1990年5月増刊号

 

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0187.空飛ぶ馬

2002年04月02日 | 連作短編集
空飛ぶ馬
読了日 2002/4/2
著 者 北村薫
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 358
発行日 2000/08/04
ISBN 4-488-41301-3

 

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「夜の蝉」(182.参照)の前作で、語り手である”「私」と落語家の円紫師匠シリーズ”第1作にして著者のデビュー作。
高校を卒業して隣の県から東京の大学へと通うようになった「私」の日常の中における、ほんの小さな謎が、どうしてだろう、何故だろうと頭を持ち上げる。
落語好きの「私」が”追っかけ”をしているのが春桜亭円紫師匠。この師匠が名推理で、「私」の抱えている謎を解き明かすのである。
大上段に構えたミステリーではなく、女学生が語るごく普通の日常生活に派生する疑問が解き明かされる過程が読んでいて快感に繋がる。

 

収録作
# タイトル      
1 織部の霊    
2 砂糖合戦    
3 胡桃の中の鳥    
4 赤ずきん    
5 空飛ぶ馬