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「重要外典『トビト書』で主人公父子を助けて大活躍」
とは云え、『トビト』が重要な文献の一つであることは、衆目の一致するところ、因って、ミカエルやガブリエルよりやや格落ちするとは云え、ラファエルが偉大な天使ランキングの上位に、常に位置していることは事実である。
彼の名は「四大天使」、「七人の大天使」、十二人の「御前の天使」の中に含まれているし、「力天使の長」、「第二天の支配者」とも謂われる(ただし、所属する位階は、熾天使、智天使、主天使、能天使の諸説がある)。オカルト・魔術の教義では、「太陽の天使」、「日曜の天使」などの肩書きも持つ。「神の薬」を意味するその名の通りの活躍を、『トビト書』での彼は見せている。
目の見えないトビトの息子であるトビアが父の命令で旅に出た際、ラファエルは人間に化身してトビアの道連れとなり、しばしば有用な助言で彼を助けた上、魚の内臓から処方した薬によって、トビトの視力をも回復させてやるのである。この物語が示している様に、ラファエルは治療者であると同時に、「若者の守護者」、「旅人の守護者」でもある。
その姿は、トビアとの旅に材を取った宗教画に、サンダルを履いて杖をつき、小箱を携え、水筒を提げ、ズダ袋などを背負った、如何にも旅人らしいスタイルでよく描かれる。ただし、本来、彼がトビアたちに正体を明かすのは、旅が終わった後のはず。だが、多くの絵画では何故かラファエルを、背に翼を生やした、あからさまな天使の姿で描いている。恐らく、一緒に居るトビアには翼は見えていない、と云う暗黙の約束事が、伝統的に成立しているのだろう。
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「近寄り難さとは無縁?親近感溢れる人間との交遊録」
さて、旅の道連れと云えば、陽気で快活、そして親切な気質の持ち主が好ましいものだ。
ラファエルはまさに、そうした性格であるらしい。
以下、そのイメージを裏切らないエピソードを、幾つか紹介する。
先ずは、ミルトンの叙情詩『失楽園』から。
ここでのラファエルは、エデンの園にある「命の木」を守る役目を担っており、この楽園で暮らしていた頃のアダムやイヴと一緒に食卓を囲んで、その席で、サタンの危険について彼らに警告を発している。
結果的にこの警告は無駄に終わり、アダムたちは楽園から追放されてしまうのだが、それはもちろん、ラファエルの努力不足のせいではない。
次なる親切の対象は、方舟伝説で有名なノアだ。
『ノアの書』には、ラファエルが友好の証しとして、彼に医学書を授けたことが記されている。通常、ノアはラジエルから与えられた伝説の奇書、『ラジエルの書』から、方舟建造に必要な知識を得たとされるが、この医学書に関しても同様の伝承がある。このことから、実はこの二つの書物は同一なのではないか、と云う説もある。
更にラファエルは、ヤコブが天使と格闘した際(この天使が誰だったかについては諸説ある)、外れてしまった彼の関節を戻してやったり、また、高齢になってから割礼(ペニスの包皮の切除、ユダヤ教徒は通常、赤ん坊の頃に済ませている)を行なったアブラハムの激痛を和らげてやったりもしている。包茎手術のアフターケアまでしてくれるとは、何とも気さくな天使がいたものである。
「天使」と「悪魔」がよくわかる本 西方世界の天使