寧為小人所忌毀、毋為小人所媚悦。
寧為君子所責修、毋為君子所包容。
寧ろ小人の忌毀せらるとも、小人の媚悦せらるること毋れ。
寧ろ君子に責修せらるとも、君子の包容せらるること毋れ。
「小人には嫌われ、君子には責められるがよい」
いっそつまらない人間に憎み謗られようとも、
彼らに媚び諂らわれることがあってはならない。
いっそ立派な人物に厳しく責められようとも、
その人に安易に受け入れられるようなことがあってはならない。
寧為小人所忌毀、毋為小人所媚悦。
寧為君子所責修、毋為君子所包容。
寧ろ小人の忌毀せらるとも、小人の媚悦せらるること毋れ。
寧ろ君子に責修せらるとも、君子の包容せらるること毋れ。
「小人には嫌われ、君子には責められるがよい」
いっそつまらない人間に憎み謗られようとも、
彼らに媚び諂らわれることがあってはならない。
いっそ立派な人物に厳しく責められようとも、
その人に安易に受け入れられるようなことがあってはならない。
磨蠣当如百煉之金。急就者非邃養。
施為宜似千鈞之弩。軽発者無宏功。
磨蠣は当に百煉の金の如くすべし。
急就せば邃養に非ず。
施為は宜しく千鈞の弩の似くすべし。
軽発せば宏功無し。
「腰を落ち着け成就を図る」
自分自身を練磨するには、繰り返し練り鍛える金属のようにすべきである。
速成したのでは深い修養とはならない。
事業を興すには、強い石弓を放つ時のように慎重にすべきである。
軽々しく興したならば大きな成果は得られない。
縦欲之病可医。而執理之病難医。
事物之障可除。而義理之障難除。
縦欲の病いは医(いや)すべし。
而れども執理の病は医し難し。
事物の障りは除くべし。
而れども義理の障は除き難し。
「理に堕する弊害」
欲望を欲しいままにする人間の癖は直すことができる。
しかし、理窟に拘る人間の癖は直し難いものである。
また、物資的な障害は取り除くことができる。
しかし、道理の上での障害は取り除き難いものである。
休与小人仇讐。
小人自有対頭。
休向君子諂媚。
君子原無私恵。
小人と仇讐することを休めよ。
小人は自ずから対頭有り。
君子に諂媚することを休めよ。
君子は原より私恵無し。
「相手を選んで接する」
つまらない人たちと憎み合うのはやめなさい。
小人には小人なりの相手があるものである。
立派な君子に媚び諂うことはやめなさい。
君子は元々私的なえこひいきなどはしないものである。
持身不可太皎潔。
一切汚辱垢穢、要茹納得。
与人不可太分明。
一切善悪賢愚、要包容得。
身を持つに、太だしくは皎潔なるべからず。
一切の汚辱垢穢も、茹納し得んことを要す。
人に与するに、太だしくは分明なるべからず。
一切の善悪賢愚も、包容し得んことを要す。
「寛容の功徳」
この身を安全に保って行くのには、
あまりに潔癖過ぎては行けない。
一切の汚れや穢れも、
すべて受け入れてしまう必要がある。
また、人と一緒に物事を行う際には、
あまりハッキリ割り切り過ぎては為らない。
一切の善も悪も、
すべて包容し入れてしまう必要がある。
居官有二語。曰、惟公則生明、惟廉則生威。
居家有二語。曰、惟恕則情平、惟倹則用足。
官に居るに二語あり。
曰く、「惟公ならば、則ち明を生じ、惟廉ならば、則ち威を生ず」と。
家に居るに二語あり。
曰く、「惟恕ならば、則ち情平らかに、惟倹ならば、則ち用る」と。
「公務と家庭の二つの戒め」
官職にある時の戒めとしてニ語ある。
それは「ただ公平無私でさえあれば、明朗な政治が行われ、
ただ清廉潔白でさえあれば、威厳のある態度が出て来る」
というニ語である。
また、家庭にある時の戒めとしてニ語ある。
それは「ただ思いやりが深くさえあれば、家族の心は穏やかであり、
ただ倹約さえすれば費用は十分に足りる」
というニ語である。
不昧己心、不尽人情、不竭物力。
三者、可以為天地立心、為生民立命、為子孫造福。
己の心を昧まさず、人の情を尽さず、物の力を竭さず。
三は、以て天地の為に心を立て、生民の為に命を立て、
子孫の為に福を造るべし。
「除災招福の道」
自分自身の心を物欲でくもらせてしまうことなく、
他人に対する愛情もなくすようなことはせず、
人民の財産をみだりに取りつくさない。
この三つの心がけで、天地に対しては本当の心を確立し、
万民に対してはその生活を安定させ、
子孫に対してはその幸福を作り出すことができる。
ルッコラ(Rocket、黄花蘿蔔) Eruca sativa 競争 私に振り向いて
誇逞功業、炫燿文章、皆是靠外物做人。
不知、心体螢然、本来不失、即無寸功隻字、
亦自有堂堂正正做人処。
功業を誇逞し、文章を炫燿するは、皆是れ外物に靠りて人と做るなり。
知らず、心体螢然として、本来失わずば、即ち寸功隻字無きも、
亦自から堂々正々として人と做るの処有るを。
「光輝く本来の心を失わず」
自分の功績を誇り、自分の学問を見せびらかすのは、
すべて自分以外のものに頼って生きている人に過ぎない。
このような人達は、人間と云うものが、その心の本体は玉のように輝いており、その本来具えているものを失わなければ、喩えちょっとした功績や知識はなくても、それでも尚自然と正々堂々として人間として生きて行くことができると云うことを知らない。
語云、登山耐側路、踏雪耐危橋。
一耐字、極有意味。
如傾険之人情、坎坷之世道、若不得一耐字、撑持過去、
幾何不堕入榛莾坑塹哉。
語に云う、「山に登りては脇路に耐え、雪を踏んでは危橋にう」と。
一の耐の字、極めて意味有り。
傾険の人情、坎坷の世道の如きも、若し一の耐の字を得て、撑持し過ぎ去らずば、幾何か榛莾坑塹に堕入せざらんや。
「耐の一字に励む」
古語に「山に登る時は、険しい傾斜路に耐えて行き、
積雪を踏んで行く時には、
危険な橋に注意し耐えて歩きなさい」と言っている。
この「耐」と云う一字には、極めて深い意味がある。
険しくて危ない世間の人の心や、
容易に進めない世の中の道のようなものは、
もし「耐」の一字を身につけて、
それを大事な身の支えとして生きて行かないなら、
どれだけ多くの人が、藪や草むらや、
穴や堀の中に陥らないで済むことがあろうか。
いやほとんどの人が陥ってしまうに違いない。
陰謀怪習、異行奇能、倶是渉世的禍胎。
只一個庸徳庸行、便可以完混沌而召和平。
陰謀怪習、異行奇能は、倶に是れ世を渉るの禍胎なり。
只一個の庸徳庸行のみ、便ち以て混沌を完うして、和平を召くべし。
「権謀、奇異は災いの原因」
人を陥れるような謀や奇怪な慣習、
一風変わった行動や珍しい能力などは、
いずれも世間を渡る上で生じて来る災いの原因である。
ただ一つの平凡な道徳や行いだけが、
本来具わっている人間の生き方を完全にし、
平和な人生を招くことができる。
一念慈祥、可以醞醸両間和気、寸心潔白、可以昭垂百代清芬。
一念の慈祥は、以て両間の和気を醞醸すべく、
寸心の潔白は、以て百代の清芬を昭垂すべし。
「永遠に輝くきっかけ」
ちょっとした慈しみや善心が、
天地の間にある人の心の和らいだ気持ちを醸し出すことができ、
ほんの僅かの心の潔白さが、
百代後まで続く清く芳しい人の心を明らかに輝かし示し伝えることができる。
遇欺詐的人、以誠心感動之、遇暴戻的人、以和気薫蒸之、
遇傾邪私曲的人、以名義気節激礪之。天下無不入我陶冶中矣。
欺詐の人に遇わば、誠心を以て之を感動せしめ、
暴戻の人に遇わば、和気を以て之を薫蒸せしめ、
傾邪私曲の人に遇わば、名義気節を以て之を激礪せしむ。
天下は、我が陶冶の中に入らざる無し。
「人を導く方法」
口先だけで人を欺き偽る人に会ったならば、
真心を以てその人を感動させ、
乱暴で道に外れた人に会ったならば、
温厚な心を以てその人の心を和らげ、
心が捻じ曲がった自分勝手な人に会ったならば、
大義名分や意気節操でその人を励まし、
良い方向に向けさせる。
この様にして導くなら、この世の中は、
自分の指導の対象とならない者は一人も居ない。
美女撫子(Sweet William) Dianthus barbatus 純粋な愛情 細やかな想い
標節義者、必以節義受謗、榜道学者、常因道学招尤。
故君子、不近悪事、亦不立善名、只渾然和気。
纔是居身之珍。
節義を標する者は、必ず節義を以て謗りを受け、
道学を榜する者、常に道学に因りて尤を招く。
故に君子は、悪事に近づかず、亦善名も立てず、
只渾然たる和気あるのみ。
纔かに是れ身を居くの珍なり。
「節義、道徳を標榜しない」
節操のあることを誇りとする人は、
必ずその節操の為に非難を受け、
道徳の学を看板に自慢する人は、
いつもその道徳と云うことが原因して咎めを招くものである。
だから、君子の心がけは、悪いことには近寄らず、
また善い評判も殊更立たないようにして、
ただ円満で温和な気持ちを守っているだけである。
それではじめて、最高の道に身を置くと云うことができる。
芍薬(peony) Paeonia lactiflora 恥じらい 慎ましさ
士君子、処権門要路、操履要厳明、心気要和易。
毋少随而近腥羶之党、亦毋過激而犯蜂蠍之毒。
士君子、権門要路に処らば、操履は厳明なるを要し、
心気は和易なるを要す。
少かも随にして、腥羶の党に近づくこと毋れ。
亦過激にして、蜂蠍の毒に犯さるること毋れ。
「権力の座にある者の心得」
士君子と言われる立派な人が、権力の座や重要な地位に就いたならば、
その平素の心の持ち方や行いは、厳しく公明でなければならないし、
その気持ちは和らぎ親しみやすくしなければ行けない。
ほんの少しでもフラフラとして、
名誉や利益にばかり関心を持つような人に近づいては行けない。
また、遂、度を過して、
蜂や蠍のような毒を持ったつまらない輩に刺されては為らない。
千日紅(Globe amaranth) Gomphrena globosa 色あせぬ愛 不朽
無事時、心易昏冥。宜寂寂而照以惺惺。
有事時、心易奔逸。宜惺惺而主以寂寂。
事無きの時、心は昏冥し易すし。
宜しく寂寂にして、照すに惺惺を以てすべし。
事有るの時、心は奔逸し易すし。
宜しく惺惺にして、主とするに寂寂を以てすべし。
「心を落ち着け、目を澄まし」
何の事件も起こらない時、
心はボンヤリとして物が見えなくなり易い。
だから、心を静かに落ち着けて、
澄んだ明らかな目で物を見るようにしなさい。
これに対し、一旦何か事件が起こった時、
心は逸り常軌を逸してしまい易い。
だからこのような時は、
目を澄まさせて明らかにし
静かに落ち着くことを心がけるようにしなさい。