松本城、彦根城、犬山城、松江城と共に、国宝に指定されている姫路城。
外壁に白漆喰を用いた天守を中心に、無数の曲輪が連なるその美しい姿は、白い鷺が翼を広げる姿に譬えられ、「白鷺城」とも呼ばれる。
その姫路城には、その優美な外観からは想像できない様々な謎や不思議な伝説が残っている。
その一つが、剣豪・宮本武蔵が天守に住まう妖怪を退治したという話だ。 時代は、第17代姫路城主の木下家定が播磨を治めていた天正末年か慶長初年頃のことである。当時、姫路城の天守に妖怪が現れると恐れられていた。この時、妖怪退治に立ち上がったのが、滝本又三郎と名を変えて滞在していた宮本武蔵である。
ある日の夜中の2時頃、武蔵は灯を手に、一人天守の階段を登って行った。すると3階の階段に差し掛かったところで、突然激しい火炎が喰き降りて来たかと思うと、轟音と共に,狐とも猫ともつかぬ妖怪が襲って来たではないか。 しかし、武蔵は怯まない。 すぐさま腰の刀に手をかけると、異変は収まり、もとの静けさに戻った。そこで、更に階段を上がると、またも火炎と轟音と共に化け物が襲って来る。武蔵は再び刀に手をかける。 こうして、武蔵は天守の最上階まで達し、そのまま明け方まで妖怪が現れるのを待った。しかし、いつの間にかついウトウトと眠ってしまう。
すると、何処からともなく十二単の美しい姫が現れ、「我こそは姫路城の守護神、刑部明神である。今宵、その方の太刀に恐れをなし、妖怪は逃げた。礼を言う」と述べると、白木の箱を差し出し、そのままス~ッと消えてしまった。 箱の中には、刀工・郷義弘の手による業物が入っていたと謂う。 武蔵が家老に事の顛末を述べて、業物を差し出すと、それは木下家の家宝で、以前何者かによって盗まれたものだった為に、武蔵こと又三郎に嫌疑がかけられたが、又三郎が実は天下の剣豪・宮本武蔵だったと分かり、疑いが解けたと謂う。
姫路城の天守の最上階には、武蔵に業物を贈ったとされる城の守護神「刑部明神」が祀られている。姫路城が今も無事に当時の姿をとどめているのは、この刑部明神のお陰なのかも知れない。
*姫路城に届いた天狗からの手紙
姫路城には、宮本武蔵の妖怪退治伝説以外にも、数多くの不思議な伝説が残っており、「姫路城の七不思議」として伝えられている。 たとえば、毎夜、城内の井戸から皿を数える声が聞こえて来るという「播州皿屋敷」の伝説がある。
永正元(1504)年頃、城内の内紛に巻き込まれ、井戸に投げ落とされた侍女・お菊が夜な夜な皿を数えるといわれ、井戸は現在も保存されている。
また、徳川家康の孫で、豊臣秀頼の妻となり、大坂城落城後には姫路城主・本田忠政の嫡男・忠刻と再婚した千姫に纏わる伝説も語られている。千姫の子どもが早世するのは、秀頼の怨霊のせいだといわれた彼女は、怨霊退治の祈祷をし、比叡山延暦寺の第13代座主だった法性坊正作の天満大自在天神を守り本尊として祀った。
他にも、慶長14(1609)年には、「城主の池田輝政とその妻に悪霊が呪いをかけている。命が惜しければ神仏に祈願し、城の鬼門に八天塔を建てて、善政を行なえ」と書かれた書状が天狗から送られて来たという伝説もある。
このように、世界遺産姫路城には奇妙な伝説の宝庫なのである。
日本史ミステリー
とんでもない能力を持った「超人」にまつわる伝説